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рассвет  作者:
これはまだ私がただの女子高生だったころのお話
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これはまだ私がただの女子高生だったころのお話:DATA 1

 六年前、早朝。

 私はiPhoneのアラームで目を覚ます。

 時刻は六時。

 季節は春過ぎ。梅雨にはまだ至らずの頃。

 ベッドから起き上がって部屋を出る。

 洗面台に行き、歯を磨く。

 鑑には私の姿が写っている。

 金髪碧眼。

 目の下の隈に、荒れた肌。

 ぼさぼさの髪。

 とてもファッションに熱を入れてるとは思えないようなパーカー。

 そして十六歳という年齢を考えたら小さすぎる140に届かない身長。

 これが、私だ。

 私、カワサキ・エラ・ミズキだ。

 歯磨きを終えて、寝ぐせも直し、洗面台を出る。

 リビングに出ると、キッチンで母が朝食を用意している。

 机の所では父がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。

 私に気付いた二人がほぼ同時に「おはよう。ミズキ」と挨拶をしてくる。

 私もそれに「おはよう」と返す。

 今日は月曜日。

 平日だ。

 これから仕事に向かう両親は二人とも迷彩服を着ている。

 そう、私の両親は自衛官なのだ。

 やはり習慣なのか、六時ごろには起床している。

 準備がある以上、六時よりもっと早く起きねばならないのだから、大変だろう。

 席について、母が持ってきてくれた食パンとバターナイフを手に取る。


「熱いから気を付けて。焼きたてだよ」


 そういう母を見上げる。

 少し金色の入った茶髪を短くまとめている。

 化粧はしていないが端正な目鼻立ち。

 日本人とはまた違う風体に、純粋な日本人ではないのだろうとうかがえる。

 当然。

 彼女はロシア人とのハーフである。

 父は純粋な日本人だ。

 日本生まれ故に国籍は日本にある母と自衛隊で出会い、結婚に至った。

 そんな両親の娘である私は当然、ロシア人クオーターということになる。

 食パンにバターを塗って、二枚ほど食す。

 朝は、あまり食べたくない。

 というか、つい二時間ほど前までFPSをしていたので、普通に食欲が沸かないというのもある。

 いつもそんな生活をしているので目の下の隈が消えないのである。


「昨日も遅くまでゲーム配信してたの?ほどほどにしないと体調崩すよ」


 母の優しい言葉に頷く。

 無言勢ではあるがいつもFPSゲームや某ハンディングゲームを日夜配信している。

 それに毎夜熱が入ってしまう。

 クリップ動画を取ったりRTAをしたりしている。

 何気にランキングの常連だったりするのが自慢だったりする。

 いや、わかりやすく言えば、廃人なのである。


「まあ、体を壊さない程度にならいいだろう」


 父がそう、助け舟を出してくれる。

 暫く談笑する。

 毎朝両親に近況報告をするのが日課だ。

 夕方、一日の終盤にしないのは確か一晩寝たら物事を俯瞰できるようになるから、だったか。

 しかし私はその一晩のほとんどを戦場(FPS)で過ごしているから俯瞰というか、一人称視点のままである。

 部屋に戻り、制服に着替えてリュックの中身を確認する。

 時間割通りの教材が入っているのをしっかりと確認。昨日の夜予習したノートも入れて、リュックを占める。

 県内有数の進学校だ。

 自分で言うのもなんだが、学力は人並み以上だと思う。

 昔は勉強など、全然出来なかったししなかったが、それを思うと人は成長するものだ。

 ブレザーを着て、なおその上から大きめのパーカーを着る。

 肌を見せることを極端に嫌うのが私の性格なのだ。

 学校側は特に何も言わないので、それに甘えている。

 正直少し暑い。

 リュックを背負いリビングへ。


「そろそろ行こうか」


 父の声掛けに頷き、玄関へ。

 母がお弁当を渡してくる。

 それをリュックに無理矢理入れる。

 外に出て両親は車に乗り込み、私は門の外へ。

 手を振って道路へ出ていく両親を見送ってから、私も通学路へ出た。

 学校へは歩いていける距離だ。

 人ごみ大嫌いな私的には、朝の電車など、乗りたくない。

 距離が二倍になっても電車には乗らないだろうと思う。

 歩き出し、暫く。

 私は気持ち縮こまりながら歩いている。

 どう見ても陽気な性格ではない。

 むしろ


 陰


 のそれである。

 いやそれは別に否定もしないけれど。

 顔を伏せて、リュックのひもを掴んで猫背で歩くその姿。

 これが陰キャ世界代表である。

 なんてことを考えながら通学路を歩く。

 少し早い時間だ。

 朝練の同級生たちが自転車で私を追い越していく。

 しかしこのくらいでないと、教室に、入りにくいからね。しょうがないね。

 少し早足にして急ぐ。

 20分ほどして学校へ到着。

 昇降口で靴を履き替えて教室へ。

 まだだれも来ていない。

 上々上々。

 私は教科書を机の中に入れていく。

 そして、やることは決まっている。

 取り出したるは某メーカーが出しているポータブルゲーム機だ。

 スリープモードから立ち直し、一時停止を解除してプレイを再開。

 某神喰いゲームである。


「そろそろバレット改変の新作でも作ろうかな」


 そんなことを呟きつつ犬なのか狼なのかわからない腕がごつい巨大生物をRTAで沈めていく。

 というか、ワールドに入る前に弾丸を一発撃ってあとは待つだけの簡単なお仕事である。

 着弾すれば一撃なので報酬を受け取るだけの作業。

 金欠の時はこうして素材を売って補う。

 これを三回くらい繰り返して、廊下から声が聞こえてきた。


「!?」


 慌ててゲーム機を閉じて、リュックの中へ。

 その勢いのまま机に突っ伏す。


 そのタイミングで、と言うかギリギリアウトくらいのタイミングで教室の扉が開いた。

 心臓がバクバクである。


「あれ?カワサキさんじゃん。あの人毎朝寝てね?」


 男子生徒の声が複数。

 寝ている私に対する会話だ。

 聞こえていないふりだ。

 寝ている感を全力で放出する。

 こうして朝のホームルームまでを過ごすのが基本スタイルだ。

 暫くして生徒の数が増えてきて、教室が騒がしくなる。

 また少しすると、今度は先生が入ってくる。

 それを合図にさも今起きましたという体で顔を上げる。

 わざとらしく、目をこするのも忘れていない。

 先生の号令で、席を立ち、礼。

 着席し、朝のホームルームが始まる。

 私の席は真ん中の列の一番後ろである。

 明らかに一番背が低いのは私だが、五十音順だからこの並び。

 わざわざ席を変えてくれと言えるほど、私は積極性があるかと言われればそんなことはない人間なのだ。

 だから、非常に、困るのだ。

 目の前の席に座る宮口君。

 バレー部。

 とても、大きい背中なのです……。

 ため息を吐いて私は諦めるしかないので席を少しだけずらして顔を傾ければ見れる位置を見つけている。

 これで黒板は問題ない。

 というかむしろこの背中が大きな壁となっている。

 内職だってし放題だ。

 そんなことを考えつつ授業へ。

 毎日毎時間、目の前の宮口君の背中を感謝したり恨んだりして、私の一日がを過ぎていくのである。

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