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рассвет  作者:
これはただの女子高生だった私が軍人になるまでの話
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これはただの女子高生だった私が軍人になるまでの話:DATA 06

 月曜日。

 レイチェルさんとメールをした翌日。

 早朝五時。

 私は早速行動を開始していた。

 まずは師匠の日常生活から知るべし、とのことでまずは師匠に許可をもらって師匠と同じ生活をしてみようとしている。

 その初日である。

 師匠は基本的に部屋では寝ない。

 玄関付近で座って寝ている。

 暗いからよく見えないし寝ている所を起こすのも悪いから電気をつけて確認もしたことはないが何か、棒のような物を抱いて眠っている。

 あれは、やはり刀なのではないだろうか。

 少しの物音でも確実に起きるので夜中の水分補給にもかなり気を遣う。

 それくらいに物音に敏感なので夜中のゲームはかなり大人しめになったしやらないことも増えた。

 健康になってしまう!

 置いといて。

 で、その師匠は4時半ごろには確実に起床する。

 そして身支度を整えてから、ランニングに行っている。

 真琴さんからそう聞いた。

 一時間ほど走っているらしい。

 6時ごろに戻ってきてシャワーを浴びて、朝食を作り出す。

 大体これが朝のルーティーンらしい。

 まずはこれを師匠と共に実行するべく、朝4時半に起きて、師匠と一緒に玄関の外へ出た所だ。

 少し暑くなってきた季節。

 しかし朝は少し肌寒いかも知れない。

 それくらいの時期。

 師匠の指示で私は柔軟運動をしている。

 私はストレッチは体を伸ばすことをイメージしていたけど、運動後はそうするべきらしいけど、運動前は体があったまっていないからそれをすると逆に怪我の確立を上げるのだとか。

 だから伸ばすというよりは回すとかほぐすようなのをするべきらしい。

 なるほどなあと師匠の指示通りの動きをする。

 やばい。

 これだけで結構きついかも……。

 しかし頑張って師匠の日常を過ごさねば。

 まずはこの人の正体を少しでも掴まねばならないのです。

 なんとか堪えて準備運動を終える。

 師匠は私に指示しつつも本人は割と雑に適当にやっている感じだ。

 私にだけしっかりやれというのはやはり普段から運動をしていない私への配慮、なのだろう。

 この準備運動だけで心臓が泣きそうになっている私への配慮、痛み入ります!

 震える足を隠して私は立ちあがる。

 学校指定のジャージ。

 冬物を着てきて正解だった。

 寒さだけでなく、弱点を隠すのにも役に立つ。

 ちなみに師匠は上下スポーツウェア。

 靴はごついタクティカルブーツみたいなやつ。

 不思議だ。

 師匠みたいな人が着るジャージはスポーツウェアって感じなのに私が着るとジャージって表現がぴったりだ。

 これが世界の理不尽です。

 私を一瞥して玄関まで移動する師匠。

 私もそれに付いていく。

 玄関を出て、少し歩く。

 師匠が振り返りもせず言う。


「無理についてくるな。きついと思えばその時点で歩け。急に止まるなよ。車にも気を付けろ」


 頷いた私を気配で察したか、師匠も背中越しに頷いて、走り出した。

 思ったよりもゆっくりだった。

 これならいけるか!と意気込んで私も走り出した。

 のだが、その意気込みは12メートルくらいで挫けた。

 きっつい!

 呼吸は乱れ、汗は拭き出し、ていうかもうちょっと涙目になっていた。

 私の走りは10mほどで限界らしい。

 50m走でもクラスで最下位なのだから足の遅さは自覚していたのだが、さすがにどれくらくいで限界が来るかは考えた事もなかった。

 ていうか師匠、あれは速度的に見れば早歩き程度の速度だ。

 私は今全力で走っているのだ。

 なのにその背中はどんどん離れていく。

 これが……現実!

 これは師匠がどうというのではなく、純粋に私が運動出来なさすぎる事が問題。

 理不尽ではなく、現実。

 大変つらい。

 師匠が首だけ振り返ってこちらを見ている。

 私はその背中をぜえはあぜえはあ言いながら見つめている。

 走る(と私は思っている)のを維持するだけでやっとだ。

 追いつくなんて出来ない。

 師匠は別に待つでもなく、置いていくでもなくの距離感を保っている。

 ていうか、振り返ったら師匠宅の玄関が見えるくらいの距離なのだが。

 私、貧弱すぎる。

 倒れそうだ。

 ていうか死ぬ。

 普段から運動を心掛けるべきだったか。

 顔を上げるのがきつくなり、顔を伏せてしまう。

 その時すぐに視界の先の地面に影が差した。

 私の左側に気配。

 師匠だった。


「顔を伏せるな。負担が増えるだけだ。普通の呼吸をするように意識するんだ。当たり前の呼吸だ」


 師匠は私の横でほぼ歩きに近い速度で、いやていうかもう歩いている、私の横からそう言ってくる。

 ナチュラルな助言をいただいてしまった……

 私は顔を上げて、呼吸をする。

 咳きこんでしまう。


「鼻で吸え。口で吐け。走るときに口で吸うと勢いで唾液を一気に吸って今みたいに咳き込むことが多い。鼻呼吸だとそれも防げるし口と違って吸った空気が喉にぶつからないから効率がいい」


 めちゃくちゃ理屈的だった。

 言ってることは確かに正しそうだ。

 やはり軍人(だと思う)だから走り慣れているしそのための技術も熟練なのだろうか?

 言われたことを意識しつつやってみる。

 さすがにすぐにそれでどうにかなったなんてことはないけれど、確かになんだかさっきより楽になった気がする。

 そうは言ってももう限界値なのは変わりないのだけれど。

 呼吸法は消耗を抑える事が目的で、回復が目的ではないと思うので多分現状からはどうする事も出来ないと思う。

 ので、結論。

 私は止まった。

 膝に手をついて、何とか倒れることを避けたが。立ち止まった。

 師匠も2,3歩遅れて止まり、そこで私に向かって言う。


「止まるな。歩きながら呼吸を整えろ。体に負担がかかるぞ」


 私は言葉を出す事も出来ず、顔も上げられずに首を振った。

 師匠は私の所まで来て私の後ろに回った。

 そして私の首根っこを掴んで無理矢理に私の姿勢を正させてくる。


「歩かなくてもいい。せめて顔を上げろ。気道確保だ」


 師匠は首根っこを掴んで顔を上げさせる。

 しかしふらついた私の背中は師匠の恐らく腕だろう部分が当たって背もたれとなった。

 師匠なりの気遣いなのだろう。

 私はそうして伸びた背筋でもって呼吸をする。

 汗が目に入って沁みる。

 何とも情けない。

 ここまで運動能力がないとさすがに将来困りそうだ。

 どこかでリハビリを取り入れていかないと。

 理学療法士さんを訪ねればいいのだろうか?

 師匠はとりあえず私の呼吸が落ち着くまで私の背もたれになってくれた。

 呼吸が落ち着いたのを確認した途端今度は私の頭頂部を掴んで無理矢理体を反転させる。

 180度、つまり来た道を振り返るようにされてから師匠は家に向かって歩き出す。

 帰る、という事なのだろう。

 私のせいでランニングをキャンセルさせてしまった……。

 申し訳なさすぎる。

 師匠の後ろをついていく。

 ただの好奇心で師匠の事を知りたいと考えたわけだが、その第一歩目から失敗してしまった。

 人様のご迷惑になってどうするのか……

 師匠の後ろをとぼとぼ歩く。

 師匠は振り返らず言葉だけを私にぶつける。


「懲りてないなら明日も来ればいいさ」


 師匠は言って、すぐに到着した門のカギを開けた。

 私は掠れた声で「はい」と言った。

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