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рассвет  作者:
これはただの女子高生だった私が軍人になるまでの話
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これはただの女子高生だった私が軍人になるまでの話:DATA 03

 夕食後(ちなみに夕食は奥さんが担当。朝食と昼食は師匠が担当だ)、私は師匠の書斎に来ていた。

 作家業を生業にしている師匠の仕事部屋だ。

 物はあまりない。

 簡素な机にいくつかの本。

 ノートパソコン。

 そして部屋の隅には少し大きなクローゼット?

 大きく、黒い、金属製のボックスがあった。

 そして今日は机の上にゴーグルが置かれている。

 時々このゴーグルが机の上に置かれている。

 黒く無骨。

 所々に傷があって。

 不思議なのはゴーグルの、本来レンズだろう部分は形だけなのか、光を透過していないようで黒塗りになっているように見えた。

 それが何なのか、数度師匠に聞いたことがある。

 しかし、毎回「バイクのゴーグル」とぶっきらぼうに言われる。

 師匠のバイクはスポーツタイプだし、ヘルメットはフルフェイスなのだが。

 まあ聞くと蛇か鬼だかが出そうなので一度聞いても答えがないのならその時は退くことを心掛けている。

 ほとぼりが冷めたかなというくらいにまた聞きはするのだけれど。

 で、私が何故師匠の書斎にいるかと言う話に入ろう。

 師匠は机の前の椅子に座っている。

 師匠は原稿用紙を持っていてそれを見ている。

 火の点いていない煙草を揺らしながら師匠は言う。


「Hand in Handじゃないんだな。まずそれはなんでだ? Hand in Handの過去の話が出たよな前に見た時。それとは別の話だよなこれ。殺人鬼の話と、これは探偵もの? こっちまだ読んでないけど。なんでこんないっぱい書いてんだ?」


 師匠はクリップでまとめられた二つの原稿用紙の束をまとめ直す。

 机にガンガンとかせずに下に掌を置いてゆっくりと整えていく。

 物を大事にする人だとそれだけでわかる。

 師匠の質問に私は答える。


「Hand in Handに繋がる前後の話と言いますか、世界観を作る上で別時間軸の話を作ってしまうのが世界観作りに深みが出て物語にも密度を与えられるのではないかと思いました」


 私が言う間師匠は私の目をずっと見ている。

 私は人と目を合わせるのがあまり得意ではないのだが、師匠はなんだが反らすのを許さぬ雰囲気がある。

 怖いとかではない。

 いや怖いのだけれど。

 めっちゃ目を真っ直ぐ見てくるから、何というか、目を逸らすのが申し訳ないと感じるというのか。

 謎の吸引力がある人なのだ。

 師匠は私の言葉を最後まで聞いて一拍置いて私の発言が終わったのを確認してから頷く。


「地盤作ってからってのも確かに悪くはない。しかし、そうするときりがない。一つの物語の設定を完成させて、そこに後付するってやり方のほうが同じ世界線の別作品で潰しがきくし矛盾が生まれにくいっていうのだけは言っておく。思い付いたものをとりあえずでも書くというのは悪い事ではないからな。あくまでも方法の一つとして、な」


「はい」


 確かにそうだ。

 私はまず書きたいと考えてしまう。

 もちろん書き始めたばかりだから、というのもある。

 思い付きが湧き出てくる。

 あれもしたいこれもしたい。

 こんなキャラも、あんな話もとなっているのは事実。

 全体を通したプロットだとかも私はあまり作っていない。

 基本的には頭の中で筋を作っているだけ。

 確かに矛盾なんかにも気付けにくいだろう。

 要検討、ですな。


「地の文が多いのも気になる」


「濃密な世界線を表現するには文章量がどうしても多くなりますし、むしろそれを持ち味にしたいなと」


「……確かに表現自体は悪くないし、地の文が個性になっている作家も珍しくはない。だが、ネット投稿サイトなんだろう? 見る側は……見辛いんだよな。この小さな画面で一話一万文字はなかなか長い。あくまでも将来の練習として、または趣味としてなら、それでも構わないしそういう風に今後も指導はするが、もし少しでも誰かに見てもらいたいと考える様になったら、地の文の形を変えることも考えてみると良い」


「わかりました」


 改めて、私は小説投稿サイトに自作小説を投稿している。

 タイトルは「Hand in Hand」。

 ゲーム制作の技術として物語作成を練習中。

 そして目の前の師匠、瀬戸大輝さん、あのストーカー事件から私を助けてくれた人が現役の作家さんなのだからそれを利用して、訂正、活かしてご指導いただいているというわけだ。

 数日に一回。

 平日であったり、週末であったりそれは不定期だが、手渡しやこの書斎の前のラックに置いておけば後日師匠から声掛けがあり、こうして批評される。

 私はどうしても第一言語が日本語ではないので特に言葉や表現方法などに今は注力してもらっている。

 何とも、それが難しい。

 指導を頂いても成長は、なかなか出来ずにいるのが現状だ。


「あと、少し言葉遊びが好きみたいだが、これをゲームだとかに落とし込めるか、考えてセリフづくりをした方がいいかもしれないな。あくまでも小説ではなく、設定やストーリー作成なんだろ?」


「そうですね。確かに、そうです」


「目的を間違えることがないように。このHand in Handは今のままの書き方でもいいかもしれん。この探偵の話とか、はもう少し軽い文章で書いてみてくれ」


「わかりました。では来週にでも提出します」


「……勉強は」


 私は先日両親に送ったテスト結果の写真を師匠に見せる。

 五教科の合計点数の学年順位一位。

 そう記載されていた。


「してるな。好きにしろ」


 師匠的には私の両親から私を預かっているという認識なので勉強などをしっかりとしているかの方が割と言われる。

 宿題をしたか?とかよく聞かれる。

 最初の頃は私の学校宿題とかでないですよって言ったらマジで!?って割と驚いていた。

 あまり表情の動かない師匠。

 その彼が大きく顔を動かしたのはこの時が初めてかもしれない。

 そう言えば両親も驚いていたが、他所の学校にはやはり宿題があるのだろうか。

 なので、強制的に発生する勉強なんかもない。

 自習が基本だ。

 師匠は、ため息を吐いて咥えていた煙草をその手に取った。


「お前のいい所は、執筆速度だ。だが、その速度の活かし方は早く終わらせることだけではない。早く終わるということは一つ一つ、一つの物を、この場合の一話や一作を細かく別けた上での一つ一つだ。プロットや一話一話の起承転結だとかだな。その一つ一つに相対的にかけられる時間が増える良さがある。早く終わるからこそ、時間を掛けろ。同じ一時間でも接し方で価値は変わる」


 師匠はそう言って、また火の点いていない煙草を咥え直した。

 確かにそうだ。

 一時間に私は3~5000文字近くを執筆できるが、しかしただ五千文字をタイピングするのと、中身をしっかりと吟味したうえで1000文字のタイピングをするのとでは後者の方が、恐らく将来的には有意義なのだろう。

 それは、今後意識していこうと思う。


「わかりました」


「ていうか前から思っていたんだが、このHand in Handの中身の話だが」


「はい?」


「これ、俺の話か?」


「……何の話か」


「名前が俺だろう」


「あおう……。時々来る人たちいるじゃないですか?」


「ああ」


「あの事件の時にその全員のほとんどが軍人だとは思っているんですが、その人たちをモデルに軍事SF物を書こうと思って」


「それがお前の初作品? それでいいのか?」


「ええ。結構気に入っています」


「そうか。……念のために聞きたいんだが」


 師匠は私の顔を真っ直ぐに見る。


「これは、誰かに聞いて設定作ったのか?」


「いや、なんだか、そうなんじゃないかっていう妄想というか想像で。本格的なミリタリーではなくSF要素を入れようとしたのは」


「……なるほどね」


 師匠は妙に不思議そうな顔をして目だけで上を見つめる。

 首を一回傾げてまあいいと言いたげに鼻を鳴らした。


「まあ、設定は好きに書け」


 頷いて、私は師匠の部屋を後にした。

 師匠の下表情に妙に引っかかりを覚えたが、どうせ私ではあの人の事を掴み切ることは出来ない。

 今はただ、書こうじゃないか。

 考えながらね。



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