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рассвет  作者:
これはただの女子高生だった私がストーカーと『英雄』に出会った頃のお話
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これはただの女子高生だった私がストーカーと『英雄』に出会った頃のお話:DATA 5

 瀬戸さんの手配してくれた家での生活が始まって早くも数週間が経過していた。

 瀬戸さんは変わらずよくわからない。

 しかし気を使ってくれているのだけはわかる。

 悪い人では、ないというのはわかる。

 しかしあの一緒にお弁当を食べた日からなかなか一緒にはならなくなった。

 代わりに女性が家には顔を出すようになった。


「休みの日なのになんで勉強してるの?」


 目の前にいる女性もそうで、基本的には私のそばにいるようにしているようだ。

 あるいはそう指示を受けているのかもしれない。

 その女性はタンクトップ姿だ。

 そのおかげで肢体を露わにしているが、鍛え抜かれたからだと言った感じだ。

 右腕の前腕にはバチバチにタトゥーが入っている。

 この人も恐らく、軍人だろう。

 玄関にも誰かが配置されているようで、厳戒態勢だと窺がえた。

 両親も、この生活に慣れつつある。

 加えて彼らへの信頼感も芽生えてきて、今も彼女らに私を任せてお買い物に行った。

 人間関係は、十分に出来上がっていると思う。

 私もだいぶ、気楽になっている。

 過ごしやすいと思っている。

 過干渉になりすぎない程度に接してきて、それでいて振り返ればそこにいるくらいの距離感は保つ。

 それが安心を抱く要因となっていた。

 しかし、この現状に至った理由は、まだ解決には至っていない。

 瀬戸さんは、向こうが動くのを待っているようだ。

 被害があった、という事実を残すためだという。

 私としては避けたいが、解決するためには必要なことだというのも、またわかる。

 でもそれは、ここがあの男にバレた、ということだ。

 それは、避けたい。

 ここにいれば安心。

 しかしこの生活は解決のためにいるのだからその解決の瞬間がいつか来てしまう。

 それは、きっと安全なそれではないのだと、私は考えている。

 玄関の扉が開いた音が聞こえる。

 どうやら別の人物が入ってきたのだろう。

 瀬戸さんは外で煙草を吸っている。

 外は安全だ。

 廊下を見るとやはり違う女性だった。

 リビングに入ってきて、私が勉強をしている机の近くまで来る。


「え、今日日曜日でしょ? なんで勉強してるの?」


「だよねえ。偉いよね。私とか学校とかまともに行ったことないのに」


 そんな会話に軽く返事をして、勉強を続ける。

 なんだか今日は妙に落ち着かない。

 ゲームなどをして耳を塞ぐのも避けたい。

 それくらいになんだか今日はそわそわしている。

 理由はわからないけれど。

 2人と世間話をしながら過ごす。

 まだ両親は帰ってこない。

 その時、後から入ってきた女性が突如フードの隠された首元に手を当てた。

 目線が鋭くなった。

 何かを察したのかタンクトップの女性が立ち上がり、椅子に掛けてあったジャケットの袖に腕を通した。

 気付けば、二人に両腕を抱えられていた。


「動くよ」


 リビングの奥へ抱えられて移動する。


重要標的ハイバリューターゲットの接近了解。防御体制に移行する」


 首に手を当てた二人が頷く。

 2人は私の前に立ちはだかるように立っている。


 気付けば、二人の手には黒い鉄の塊が握られていた。


「銃?」


 私がつい漏らすと一人が振り返った。


「大丈夫、使わないよ。そうなることは絶対にない」


 そう自信満々に言う彼女。

 暫くすると外から話し声が聞こえた。

 聞き覚えのある声、瀬戸さんだ。

 何かを言っている。

 そしてもう一つの声だ。

 男の人の声。

 どうにも、聞き覚えがある。

 誰かはわからないが、随分と前に話した記憶があるような、そんな曖昧な感触。

 何度か会話を経て、その会話は怒号に代わる。

 瀬戸さんではない誰かの声が大きくなっていく。

 それが、きっとあのストーカー男の声なのだろう。

 何を言っているかまではわからないが、あまり声を張り上げることに慣れていないのかかな切り越えのような感じだ。

 どうあっても私は、それを受け入れることが出来ず、頭を抱えて蹲る。

 外で何が起こっているのかわからない。

 わからないから怖いのもあるが、わからない者同士である瀬戸さんとストーカー男の衝突というこの状況も、恐怖心を加速させる。

 何よりこれで解決できなければ?という思いがどうしても出てしまう。

 瀬戸さん達がどれだけお世話を焼いてくれていても、どうなるかはわからない。

 不安だけが加速していく。

 外から叫び声が響いてきた。

 私はそれに耐えられず短く悲鳴を上げてしまう。

 それとほぼ同時に鈍い音が、室内にまで響いた。

 一度ではない。

 少し間をおいてもう一度、今度はより強く、重い音。

 何かが何かに強くぶつかった音だ。

 そして声が聞こえてくる。


「確保!」


 瀬戸さんの声だ。

 瞬間廊下の奥から何個もの足音が現れて玄関に向かって一気に進み出した。

 全くその存在に気付けていなかった。

 恐らく今日だけでなく、この日よりも前からずっと、奥の部屋には誰かがずっといたのだろう。

 その人たちは玄関を開け放ち外に雪崩れていった。

 外から怒号が響き渡り、その度に私の体は震えあがる。

 しかし少しして、それは静かになった。

 ジャケットの女性が小さく呟いた。


重要標的撃破ハイバリューターゲットダウン、カピィ」


 それが、事件の終息を告げる鐘となった。

 私は彼女が私の肩を叩いたことで我に返った。


「終わった。もう大丈夫」


 彼女はそう言って私の横に座った。

 もう一人は外に出ていった。

 暫くするとパトカーの音が聞こえて、ほぼ同じタイミングで両親が部屋に駆け込んできた。

 2人に一頻もみくちゃにされてから抱きかかえられて外に出る。

 ぞっとした。

 玄関前の通路は血で濡れていた。

 通路の外側の柱にも同様に血痕があった。

 大きな血痕。

 その血痕の向こう側にはひび割れがあった。

 余程強く何か(・・)をぶつけたのだろう。

 少し離れた所で瀬戸さんが煙草を吸っていた。

 振り返った瀬戸さんと目が合った。

 少しだけ声を出した瀬戸さんは言った。


「終わったぞ」


 そして瀬戸さんは駆け付けた警察官数人に取り押さえられ、抵抗もせずに現行犯逮捕となった。

 止めようとしたがそれを他の方々に停められてしまった。

 婦警さんにタオルを掛けられながらパトカーに乗せられる瀬戸さんを見ている。

 その瞬間に私を見る瀬戸さん。

 なんだかそのシーンは、ワイルドサイドの友達に伝えておきたいことがありそうな曲が流れそうだな、などと思いながら見送る。

 私もパトカーに乗せられる。

 これで、ようやく終わるのかと思ったその瞬間、私の目から涙があふれだした。

 意識せずともそれがあふれ出す。

 婦警さんから肩を抱かれて励まされる。

 この後は事情聴取だろう。

 恐らく長い一日が始まる。

 しかしそれは私にとっての「全ての始まり」に過ぎなかった。


死線(デッドライン)』と言う存在との出会いと、後の、長い闘いの日々の始まりでしか、なかった。

 この日が、正しく始まりだったのだろうと思う。

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