これはただの女子高生だった私がストーカーと『英雄』に出会った頃のお話:DATA 3
放課後。
場所は変わり近くのサ○ゼへ来ている。
人目が多い方が安心できるとして私の提案だ。
両親が迎えに来てくれて合流したあのジャージの男性、瀬戸大輝さんとコーヒーを飲みながら話し合いを開始する。
「娘さんが言うには恐らくストーカーだという男が判明したと。で、学校ももうバレてしまったと」
瀬戸さんはそう言いつつコーヒーに無限にシュガースティックを入れていく。
甘党……っていうレベルではないように感じるが。
両親もそれを見ながら信じられないという顔をしつつも頷く。
「そうなるとまずいな。思ったよりも行動が速い。お前が学校に行っている間、俺とご両親で俺の知り合いの警察関係者と弁護士と話し合いをした。法的なカバーも受けられる。家の周辺のパトロールも強化できるし、安心感は違うと思うがやはり常時見張れるわけではないし家の中に入れるわけでもない。そこで、だ」
私もコーヒーに砂糖を入れながら聞く。
瀬戸さんは右目の眼帯を外した。
湯気を鬱陶しそうにしている所を見るに、蒸れるのだろう。
そうして露わになった顔を見て、私は、愕然とした。
両親は咄嗟に目を逸らした。
眼帯とジャージの襟で目立たなかったがそれを外すとさすがにわかる。
大きな裂傷痕だ。
眉から顎に。
違う。
逆だ。
顎から、目に向かって真っすぐに、異常なまでに綺麗に、皮膚が切り開かれていた。
しかし奇跡的なのか、目は無事のようだ。
それがいいのか悪いのかはわからないが。
当の本人はどこ吹く風でいる。
私達はそれぞれの反応をしながら彼の言葉を待つ。
「隠れ家を用意する。俺と一緒に住めってんじゃねえ。女を呼ぶ。ご両親も一緒に当分住めばいい。その間に俺らが対象を捕捉する」
「何故そこまで……してくれるんですか?」
私は何も考えず素直にそう聞いた。
正確には聞いてしまった。
コーヒーを飲みかけていた彼はその手を止めて上目遣いで私を見る。
ていうか、睨んだ。
怖い。
しかしなんだかよく見ると幼さの残る顔だ。
下手すれば私と同じくらいではないかと思うくらい。
「私共としても聞いておきたいと思います。娘を助けようとしてくれるのもわかる。警察署でのあなたの行動やコネであなたの背景が信用に足ると十分に理解しています。しかし、やはりあなたの目的や正確な立場が分からない。何故そこまでしてくれるのか、せめてそれだけでもお教え願えませんでしょうか?」
父が背筋を伸ばしてそう問うた。
コーヒーを飲みかけの瀬戸さんはその姿勢のままため息を吐いてカップを置いた。
「どう見ても何かに巻き込まれてる子供を、仮にも公務に勤めてる人間が見過ごせねえってのは建前だが、まあ、正直に一言でまとめると、少なくともお前より年上の俺が、お前を助けるのにはそこまで大きな理由なんてねえし要らねえ。ただ追い詰められてそうな奴に手を伸ばそうとしているだけだ」
……尻餅着いた私を見下ろしてましたやん。
と言うのは今は言わないでおこう。
「お前、随分と両親には大事にされてそうだが、しかし。何かを抱えてるな? 目を見たらわかる。何人も見てきた。お前の人間性は、歪みかけだ。まだ間に合う。そう思った。まあ、出来たら本を読みながら歩くのは止めた方がいいが」
「……すみません」
「理由なんて特にない、が返答になる。それで納得がいかないのなら最初に行った公務に属する人間だから、でいい。どうとでも受け取っていい。もちろん金もとらない」
両親はまだ思案げだ。
当然。
誰かもわからない人間にそうそう信頼を預けられるものか。
「とりあえず警察署への被害届、迷惑行為としては受理させた。捜査は正式に始まる。しかしやはりそう速く動くわけではない。安全地帯にいる必要は確実にある。シェルターを手配してもいいがそこでの被害だって過去には起こっている。俺が手配する隠れ家は関係者しかいない。多少安全度が違う」
「関係者?」
「軍人だ」
私の問いに彼は即答する。
ようやくと言う風にコーヒーを飲む。
……猫舌、のようだ。
「私共も一緒に、でよろしいんですよね?」
「くどいな。娘を一人にする気か?仕事にも行っていい。その間は女の同僚たちが面倒を見る」
頷く両親が私を見る。
「どうする? パパとママは1日彼といた。今の会話もあって、信頼できる人だと思っている。まだ不安はあるが、これ以上ミズキを不安にさせたくない気持ちの方が大きい。彼なら、なんだかわからないがミズキを裏切らないと信じられる。こんな父親で済まない。彼に任せることを許してくれないか」
パパンは私の目を見て、申し訳なさそうに、しかし真っ直ぐにそう言ってくる。
私は少し考えて、頷く。
流されて、ではない。
パパンが言うように、何故かわからないが、この人なら、本当に状況を変えてくれるんじゃないか?という不思議な感覚があった。
私は顔を上げて彼を見る。
「不束者ですが、よろしくお願いいたします」
彼はコーヒーカップを置いて、私を呆れた顔で見る。
「お前意味わかってんのかそれ。ご両親、日本語の間違いがないか定期的に確認してやれ。親なら子のためになる事への努力を忘れるな」
「……面目ない」
何故か頭を下げる両親だった。
「話を戻す。学校まで来た以上、実力行使に出る可能性が高い。だから早急に移動する。しかしご両親。手間だが悟られないように夕方には家に帰ってくれ。出来るだけ変化を悟らせないようにするんだ。だから毎朝学校へもちゃんと行け。あくまでも日常が続いていると思わせるんだ。その間周囲を俺の仲間たちで探る」
「わかりました」
私も頷いておく。
「じゃあ早速人を集める。引っ越しだ」
彼は立ち上がって私を見下ろす。
「何を持っていく? 車のサイズが変わる」
「あ、ゲーム環境を全般」
それを聞いた瞬間瀬戸さんは目を瞑って、小さく、鼻を鳴らした。




