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рассвет  作者:
рассвет
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рассвет

新規格!

 私は新しい職場の廊下を歩いている。

 清掃が行き届いた綺麗な廊下。

 すれ違う者たちが皆私に笑顔で挨拶をくれる。

 とてもいい環境だ。

 しかし、少し離れた宿舎では、何だろう。

 何故か爆発音と少しの悲鳴が聞こえる。

 だがそれは、ここでは日常茶飯事で、今笑顔で挨拶をくれた将校も、驚きもせず通り過ぎていく。

 私も慣れたもので、音の方向を一瞥しただけですぐに廊下に目を戻した。


「『あだ名付き』、かぁ」


 私はそう独り言を吐いて、廊下を進みづける。

 歩いて暫く、一つの部屋に辿り着く。

 執務室とプレートが植え付けられた扉。

 なおその扉の横の扉にも複数執務室がある。

 慣れか、数えていくしかない気がするがこれを改善する気はないのだろうか?

 私は今までの道を思い出し何個くらいの執務室を通り過ぎたかを思い出し、まあ大丈夫だろうとノックをした。


「多分隣」


 こちらの声掛けを待たずしてそう返ってきた。

 隣だったらしい。


「失礼」


 それだけ言って一個隣へ。

 ノックする。


「やあエラ少佐」


 扉を開けた初老と言ったところの白人男性がそう私に言ってくる。

 敬礼をして、入室をする。


「いやはや入室に敬礼をしてくるとは。他の者たちは、その、なかなかね」


「当然の義務かと。『赤い稲妻(ライトニング)』もしませんか?」


「しないね」


「なるほど」


 まあ、彼はそれは許されるし、大尉でありながら私に対して時々子ども扱いするように飴をくれるのも、まあ私もそう咎めたりはしないが。


「しかし申し訳ない。エラではなく、もう日本の名前で、カワサキ、あるいは、ミズキと呼んでいただいて構いません。まだエラは……」


「そうか、愛国者の娘か」


「正確には愛国者の精鋭部隊の隊長の娘です」


「あの『エラ』か。今現在も捜索を続けているが未だに消息不明らしいな。最後に存在が観測されたのは愛国者戦争後のFDL最後の任務で君を助けたあの一撃のみ、か。……承知した。ではカワサキ少佐。お忙しい中ご足労頂き、感謝する」


「ご命令とあらば喜んで」


 私は執務室内の向かい合った椅子に座り、肩に掛けていたSCAR-Hを椅子に立てかける。

 白人男性はコーヒーを入れ始める。


「緊張しないでくれていい。気楽に行こう。そうだね。カワサキ少佐も私を『赤い稲妻』のように「ミッチェル」と呼んでくれて構わない」


「ではミッチェル少将」


「よろしく」


 コーヒーを持ってきたミッチェル少将からそれを受け取り、口に含む。

 苦い。

 いやいかん。

 だから『赤い稲妻』に子ども扱いされるのではないか。

 ここは大人としてしっかりとブラックコーヒーを飲んで見せねば。

 ……頑張って半分ほど飲んで気付いたが、私よりも年上の『赤い稲妻』は砂糖だらけのコーヒーを飲んでいたではないか。

 何故私だけ大人ぶる必要があるのか。

 馬鹿らしくなり、ミッチェル少将に砂糖を要求する。


「気付かず申し訳ない」


 そう言ってシュガースティックを差し出すミッチェル少将。

 受け取り、砂糖を、四本ぐらい入れる。


「君も、甘党なんだね」


「も、ということは、『赤い稲妻』もですか。人生は辛いから。コーヒーと酒は甘いくらいがいい、でしたっけ?」


「ああそんなことを言っていた」


「『師匠』も、そう言っていました」


「『師匠』、ね」


「まああの人は、お酒は飲まなかったですがね。いつも、マックスコーヒーばかり」


「あれ甘いか? 私には辛く感じる」


「一周回って辛みを感じるくらいからが甘さだと、彼は言っていました」


「……結構庶民的な思考も持っていたんだね」


 庶民的思考かどうかは疑問だが。


「あの人の場合糖分を摂取しないとでしたから」


「噂では聞いたことがあるが。いや今は置いておこう。本題に入ろうか」


 頷く私に彼はタブレット型の端末を渡してくる。

 そこには私のプロフィールが記載されていた。


 ・カワサキ・エラ・ミズキ

 ・現22歳

 ・既婚

 ・139㎝

 ・体重はシークレットです。


 などの基礎的なプロフィールに続き


 ・旧最終防衛線(FDL)生存者

 ・国境なき軍隊戦(AWB)生存者

 ・愛国者(Patriot)戦争生存者


 と来歴も記載されている。

 その下に注意書きで


 ・最後の英雄の弟子


 と、そう記載されている。

 それを見て私は気づかず、小さく笑ってしまい、ミッチェル少将がどうしたと問うてくる。

 私は首を振って、端末を返す。


「間違いありません」


 端末を受け取ったミッチェル少将は別の端末を取り出し、操作しそれを机の上に置いた。

 ボイスレコーダーらしい。


「ここに来てもらったのは君の過去の記録と君自身の認識のすり合わせだ。ここでは毎年行う。再調査も兼ねてね。もちろん記憶違いなどもあるだろうから、お互いに合わせていこう」


「承知しました」


「まずは、古い記録から順に愛国者戦争まで、語ってもらおうか。まずは君が『師匠』と出会った時から。頼むよ。伝説の『рассвет(夜明け)』」


 私はコーヒーをもう一口含んで、口を潤す。

 姿勢を正して、頷く。

 そして語る。


「私がまだ十六歳の高校生の時、私は『師匠』いや、『死線(デッドライン)』と出会いました」


 これは何も持っていなかったただの女子高生だった私が、後に『最後の英雄』と呼ばれることになる人物と出会い、軍人になるまでの記録である。

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