再会
《said登ジュン》
ショーが終わって、肩車したまま俺は幼女の保護者を探すことにした。
目的地の迷子センターに向かって歩き出す。
「俺の名前は登ジュンっていうんだ。お名前は?」
「アイナだよ!」
「アイナちゃんか〜ええな。俺には弟がおったんやけど、妹はおらんからかわええわ」
「かわええ?」
「ああ、可愛いってことやで」
「アイナ、可愛い?」
「うん。可愛いな! めっちゃ可愛い。さて、お姉ちゃん探そか?」
「はい!」
ショーを一緒に見たことで、仲良くなれてよかった。
それに見た目もどこか見覚えがあるような愛らしい感じを受ける。
どこで見たんやろ?
「お姉ちゃん!」
「えっ?」
迷子センターに連れて行けばいいと思っていたのに、どうやら運よくお姉ちゃんが見つかったようだ。
アイナちゃんが言う通りに進んで行った先にいたのは、雪乃フユナさんだった。
どこか焦った様子で、額に汗を滲ませている。
「あっ、お姉ちゃんがいた!」
「えっ?」
驚いた声を出す雪乃さん。
どうやら、雪乃さんの妹ちゃんがアイナちゃんで間違いないようだ。
「あれ? 雪乃さん。もしかして雪乃さんの妹さんだった?」
「登君」
焦っている顔ではないけど、声には驚きと乱れた息遣いが感じられる。
多分、必死にアイナちゃんを探していたんだな。
よかった。会わすことができて。
「あれ? お姉ちゃんを知ってるの?」
「うん。お姉ちゃんと同じ学校なんだよ」
「ふふ、そうなんだぁ〜」
「アイナ! 手を離しちゃダメだって言ったじゃない!」
あの静かで誰とも話をしない雪乃さんが大きな声をあげて怒った。
それに驚いたアイナちゃんが、泣きそうな声を出す。
「うっ、ごっごめんなさい」
それだけ雪乃さんも不安だっただろうな。
会えたことで安心と、怒りが湧いてきてぶつけてしまったんやろうな。
それは母さんがショウを心配して、俺が病室で暴れた時のような感じだったから伝わってきた。
「はいはい。美人姉妹が喧嘩なんてしない」
「あっ、あなたには関係ないでしょ!」
「そんなことないよ」
「えっ?」
「アイナちゃん。さっきのショー面白かったよな?」
「うん。お兄ちゃんが肩車して、いっぱい見れたよ」
よかった。泣くまでショーのことを口にできて、まだアイナちゃんはこっちの話を聞いてくれる。泣いてしまうと話を聞くところじゃなくなるからな。
「その時のヒーローも言っていただろ。笑う時だと思った時には、泣くことはないって! お姉ちゃんに出会えて嬉しい時だろ? だから今は笑って、会えて嬉しいっていう時だ」
「うん! お姉ちゃん。ごめんなさい。会いたかったよ」
俺がアイナちゃんを肩車から下ろすと、アイナちゃんは頷いて雪乃さんに抱きついてちゃんと言葉を告げる。
雪乃さんの方が泣いてもうた。
あ〜やっぱり不安やったんやろな。
妹を探して、必死に探したんやろ。
高校一年生は見た目は大人でも、やっぱりまだまだ子供やからな。
不安にもなるよ。
「私も、私もごめんね。私がアイナの手を離したのがいけないのに、アイナを怒ってごめん」
「おいおい、雪乃さんも違うだろ。アイナちゃんは、雪乃さんに会えて嬉しい。雪乃さんもアイナちゃんに会えて嬉しい。だから、ごめんじゃなくて、良かっただろ」
せやけど、アイナちゃんが我慢したのに、雪乃さんが泣いてしまったら、アイナちゃんも泣きたくなってしまうからな。
「アイナ! 会えて良かった」
「うん! うん!」
ええなぁ〜美人姉妹の感動の再会や。
ここでどっかにいなくなれば、ええねんけど。
この二人を放置していなくなるのは違うよな。
「うんうん。それでええって。せやけど、ここにおると目立つからな。そろそろジュースでも飲みにいこか」
「うん! ジュース飲む!」
アイナちゃんが反応してくれてよかった。
ショーを見て大きい声をたくさん出してたからな。
喉が渇いていたんだろう。
雪乃さんもアイナちゃんが反応したから、すぐに応じてくれた。
「お兄ちゃんのお話って、面白いね」
「そやろ? 俺にも歳の離れた弟がおって、いつも笑わしててん」
ショウが子供の頃から病院で俺が相手をしとったからな。
アイナちゃんぐらいの年齢は得意分野や。
そのあとは、二人が落ち着くまで一緒にいて、別れた。
東京観光をしていて雪乃さんと妹さんに会うなんて、世間の狭さを感じるな。
まぁ高校に行ってれば、近くのショッピングモールで会うのは普通なんかな?
「せやけど、帰るために電車になりたいけどヤバいな。全然わからへん。東京地下迷宮って聞いとったけど、ホンマやわ」
東京は怖いところや、地下に潜ったらどこに行けばいいのかわからなくなる。
さっきからグルグルと同じところばっかり回ってるような気がするわ。
しかも、ちょっと曲がったら人気がなくなって、ナビを出しても地下だからあってるのかわからん。
「ヤバいな。マジでわからん」
「やめ…て、ください」
「いいじゃん。一人なんでしょ?」
「違います! 友達と約束してて」
「え〜、ならそれまででいいからさ」
あ〜……。
こんな地下街でもナンパってあるんやな。
しかも女の子の方は嫌がってるじゃん。
ちょっと外れた場所で人目がつきにくいとこに追いやられたんかな?
はぁ〜、モブとしては見過ごすのが正解だと思うんだけどな。
だけど、ここは高校じゃないしいいか。