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入学式

《side登ジュン》


 引っ越しを終えて高校入学までは、あっという間に過ぎていった。


「ジュン、写真撮るで」

「姉ちゃん。写真を撮ってる人なんて他におらんよ」

「ええから、ええから。お母さんに送ってあげたいねん」


 恥ずかしいと思いながらも、母さんのことを言われると逆らうことはできない。

 入学式の看板の前で写真を撮った。

 周りからは笑われているように思うけど、姉ちゃんは気にしていないようだ。


「それじゃ私は帰るから、頑張っておいで」

「うん。ありがとう」


 姉ちゃんは入学式の写真を撮りにきただけで、父さんと母さんに写真を送ってくれるはずだ。


 俺は姉ちゃんと別れて入学式が行われる体育館に入って、自分のクラスに整列する。


 長い校長の話を聞いて入学式が終わり、体育館を出るとザワザワと人だかりができていた。


 何やろうと思って覗き込むと、四人のメチャクチャ可愛い子達が歩いている。


 どの子も東京でもあまり見たことがないぐらい飛び切りの美人揃いや。

 クリっと大きな瞳に通った鼻筋、幼い印象をあたえる小さな口が絶妙なバランスで配置されている。

 

 小柄で可愛い花が咲いたような愛らしい子。

 ロングへアーのしっとりとした雰囲気の綺麗な子。

 人懐っこい感じで真夏の向日葵を思わせる、よく笑う子。

 

 三人の後を無表情で歩く冷たい印象を受ける子。


 彼女たち四人が並んでいるだけで、春夏秋冬が同時に訪れたのではないかと思わされる。

 入学したてで身に着けた学校指定の制服には、よくアイロンが掛けられており雑誌に出てくるモデルさんのように似合っていた。


 四人が通り過ぎるまで見つめて、俺は心に誓う。


 モブになるためには、絶対にあの四人とは関わらない。



 春夏秋冬を思わせる四人の美少女達は入学式の日に注目の的だった。

 教室に向かっている途中で、前を歩く奴らが会話をしている内容で名前までわかってしまう。


 桜野 ハルさん。

 秋月 イザヨイさん。

 海原 ナツミさん。

 雪乃 フユナさん。


 春夏秋冬が名前に入った四人は奇跡の美しさとか言われた。

 どこから名前を知るんだろうと思って、SNSを検索すると、入学した高校の掲示板が立てられて投稿されていた。


 写真などは載せていないようだ。


 名前を載せるのもプレイバシーの侵害ではないだろうか? そんなことを思っているとすぐに削除された。


 やっぱり学校側も、SNSの警戒を最近は強めているんだろうな。


 そんなことを考えながら、教室に入って廊下側にある自分の席へと座る。

 前後左右はやっぱり知らない顔ばかりだった。

 モブである俺は、教室の花形と呼ばれる最前列でも、最後列でもないど真ん中の廊下側だ。


 遅刻しても絶対にバレる。モブには相応しい場所だと内心で喜んでしまう。

 不意に横を見た瞬間に、俺は固まってしまう。


「えっ?」

「何かしら?」


 あまりに驚きすぎて大きな声を出してしまった。

 それに反応して隣の女子が声をかけてくる。


「あっ、いえ。初めまして関西から来ました登ジュンです。よろしゅうお頼み申します」

「えっ! あっ、はい。雪乃フユナです」


 緊張しすぎて訳分からん挨拶してもうた!!!

 つい問いかけられたから、昔の癖で名乗ってしまうなんて、自分のノリの良さが恨めしいわ。


 これはちょっとやばい状況なんじゃないか? 俺が美少女と話しているのを見られたら、モブ生活が破綻してしまう。

 

 目立ってまう! 困ったな。


 せやけど、めっちゃ美人やねんけど、横顔綺麗すぎん?

 

 よく見ようと顔を覗き混んでしまう。

 俺の視線に気付いたのか、雪乃さんは無表情のまま顔を背ける。


 無表情じゃなくて、笑った顔が見たいのに残念やな。


「とりあえず、雪乃さんよろしくな。俺はモブを目指してるねん」

「は? モブを目指す?」

「おっ、モブって言葉はわかるんやな」

「えっ、ええ。本を読むのは好きなので、言葉と意味は知っています。ですが、モブは目指すものではないと思うのですが?」


 意外に話がわかる雪乃さんについつい話したくなってしまうが、先生が教室に入ってきた。


 順番に自己紹介が始まって、俺の番がやってきた。


「えっと、登ジュンです! 関西から親の都合でこっちに引っ越してきたばかりです。関西弁の訛りが抜けていないので、からかったり、いじめたり、せんといとください! ホンマに頼みます。あと、俺は高校生活はモブとして生きて行こうと思ってます! せやから、大人しくしとりますわ!」


 俺が自己紹介を終えて席に座ると何故かドッと笑いが起きた。


 何も面白いことは言うてないのに、何が面白いのかわからんなぁ〜。

 やっぱりこっちの笑いのツボが掴めん。


「登。自分からからかったり、いじめたりってフリみたいに聞こえるぞ」

「先生、これは冗談ちゃいますよ。俺は本気です! みんなもやで、イジメあかん! 絶対!」


 俺が言葉を発するとそれだけで笑われる。

 横の雪乃さんを見れば、顔は無表情のままやけど、肩がプルプルと震えていた。


 う〜ん、これは笑っていると判定していいんちゃうやろか?


「はいはい。俺もイジメは絶対ダメだと思っている。みんなも登の言葉に従ってやってくれ」

「「「「は〜〜〜い」」」」


 うんうん。温かいクラスで居心地は良さそうやな。


「あなた、モブになるつもりではないの?」


 自己紹介が進んで、少し経ってから雪乃さんから、そんなことを問われた。

 小声やったから隣の俺にしか聞こえてない。


「えっ? なるつもりやけど? まぁ見ときや。俺ほどモブに相応しい男はおらんってところを見したるわ」

「全然自覚がないのね」


 もっと堅そうに見えた雪乃さんやけど、言葉が砕けてきていい感じやな。


 ただ、あの無表情だけはあかん。

 

 絶対に笑ったら可愛いのにもったいないわ。


「そんなことよりも雪乃さんは笑顔を作らんの?」

「えっ?」

「笑った方がもっと可愛いと思うねんけどな。今は確かに近寄り難い美人って感じやけど、話してみたら面白いし。笑ったらもっと可愛いって思うねんけどな」

「なっ!」


 俺の言葉にいきなり顔を真っ赤にする雪乃さん。


 何を赤くなることがあるかわからんけど事実やろ。

 あんだけ色々な人から綺麗やって視線を浴びてて、知らんとは言わせんで。


「あっ、あなたって恥ずかしげもなくそんなことを言うのね。恥ずかしくないのかしら?」

「何を恥ずかしがるん? 思ったことをそのまま言うただけやで」

「はぁ〜、あなたと話しているとこっちの方がおかしい気がしてくれるわ」


 何やら疲れた顔をされて、そっぽを向かれてしまう。

 

 自己紹介が終わると、解散になり陽キャたちが、すぐにクラス全員で親睦会としてカラオケに行こうと言っているが、俺は断らせてもらった。


「なんだ、ノリが良さそうなのに」

「チッチッチッ! 俺はプロのモブになるんや。だから敢えてここは断らせてもらうで、ちなみに俺の十八番は優里のレオでめっちゃ泣かせることや!」

「おっ、おう、そうか。なんかよくわからんが、お前にこだわりがあることはすごく伝わったよ」


 陽キャラ男子が立ち去っていく。


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