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関西から東京へ

《side登ジュン》


 俺が小学校の時……。


 弟が重い病に侵された。

 寝たきりになって病院に入院するばかりの日々。

 母は弟につきっきりで、家に帰って来ない。


「ねぇ、母さん。ショウは元気なの?」

「ごめんね。今度病院に連れて行ってあげるからもう少しだけ待ってね」


 それは一年、二年と続いて年に数回だけショウの元へ会いに行くことができた。


「お兄ちゃん。もっと面白い話をしてよ」

「え〜。またかよ。いいか、最近はダンス動画が流行ってるからな」


 俺は面白い動きだと思った動きをショウの前で披露する。

 動けば動くほどショウが笑ってくれる。

 だから、俺が頑張ってダンスを踊っていると病室に入ってきた母さんに怒られた。


「病院で何暴れてるの!?」


 そう言って病室を追い出される。

 病室の中から、笑っていたショウが咳き込んでいるのが聞こえてきた。

 それが凄く辛そうで、我慢していたんだと思うと胸が痛くなった。


「母さん。ショウはいつ元気になるの?」

「……」


 俺は出来るだけショウに会える時のことを考えて、たくさんのお笑いを勉強するようになった。

 

 ショウを笑わせてあげたい。


 いつの間にか、俺は中学生になっていた。

 ショウは、俺が小学校を卒業式する頃にいなくなった。


 最後に会いに行った時。


「お兄ちゃん。ありがとう。いつもたくさん笑わせてくれて! お兄ちゃんがいてくれてよかったよ。お兄ちゃんはいつかたくさんの人を笑わせる人になると思う。頑張ってね」


 自分の方がしんどいのに、俺の将来を楽しみだと言ってくれた。

 それから体調が急変して……。


 だから、俺はショウの分までたくさんの人を笑わせたい。


「やっぱりノボリは面白いな」

「ジュン最高!」


 気づけば中学の三年間で、俺を知らない同級生はいないんじゃないかと思うほど人気者になっていた。


 ネットで見たネタを披露したり、体を張ったリアクション芸にチャレンジをしたり、とにかく笑いと共に生きてきたと言ってもいい。


 今の世の中はネットを検索して、NEWTUBEを見れば大抵の笑いを学習することができる。

 ボケに対して的確なツッコミをすることで、ドッと笑いが起きた。


 逆に強烈なボケのキャラがいれば、ツッコミをしてやることで、そいつも人気者になれる。

 だけど、クラスメイトと作る笑いの中で注意しないといけないこともある。


 決してやってはいけないのは相手を落とすようなツッコミだ。

 絶対にツッコミを受けた方は良い気分はしない。

 だから、悪口や悪意のある弄りはしなかった。


 それだけはしないと心に決めて、自らボケて場を温めた。

 ノッてきてくれたやつにツッコミを入れて、場を盛り上げて色々な奴と仲良くなった。


 コミュケーション能力こそが最強の武器だと思い続けてきた。


 だけど、中学の卒業が決まる頃。


 父と母は離婚した。


 母さんは、ショウの世話をするのに疲れてしまった。

 自分自身、心が疲れてしまって、病院に入退院を繰り返すようになった。

 だから、お婆ちゃんとお爺ちゃんと一緒に暮らしていく。


 父さんの仕事が忙しくて、関西から東京へ引っ越すことが決まったのが離婚の原因だった。

 父さんは仕事、姉ちゃんは大学が東京ということで、三人で東京に引っ越した。

 

 東京にきて一番に思ったことは……。


「おっ、オシャレだなぁ〜」


 駅を出た瞬間から、街を歩く女の人たちの姿が垢抜けていた。

 歩いていると全員がオシャレで綺麗な人に見えた。

 いや、関西にだって可愛い子や綺麗な子はたくさんいたんだけど、次元が違うって思うぐらい数が多い。


 どこを見ても綺麗な人ばかりなんだ。


 それでいて空気が違った。

 どこか冷たくて人情味を感じない。

 今までは小さい頃からの友人ばかりだった。

 周りの顔は知り合いばっかりで暖かかった。


 だけど、ここには俺を知っている人はおらん。


 東京の全てに圧倒された俺は一歩も動けなくなって、姉ちゃんが手を繋いで家に連れて行ってくれた。


 東京の一軒家はオシャレで、一階に大きなリビングと、父さんの寝室。

 トイレに洗面所、お風呂も広い。

 2階は姉ちゃんの部屋と俺の部屋。


 今までは寝る時は家族一緒に寝てた。

 ご飯も一緒に食べるのが当たり前やった。

 

「父さん、遅い日が多くなるから二人で晩御飯食べてくれるか? 洗濯は残しといたらやっとくで。あと、これからは自分のことは自分でしてくれ。お前たちも大きくなったからな。父さんを助けてほしい」


 今までは全部を母さんがしてくれていた。

 これからは自分でやらなあかんくなった。


 父さんは毎日二人にお小遣いを置いて行ってくれる。

 姉さんは、大学に入ってバイトを始めるからと、俺に多めにお小遣いをくれた。


「晩御飯はジュンの好きな物を食べてええよ」と言ってくれた。


 一人部屋をもらったことも嬉しい。

 せやけど、家族がバラバラになったような気がして、寂しいと思うような気分になった。


 引っ越しして環境が変わって、東京という世界に俺は圧倒されてしまった。

 

 だから、ある一つの決意をすることにした。


「姉ちゃん」

「何?」

「俺、モブになる!」

「はぁ? 何言うてるん。あんた?」

「だって、俺の努力は全部無駄やってん、こんなオシャレな街で、俺みたいなシロウトのノリとツッコミでは生きていかれへん。だから、普通に影の薄い高校生を目指すわ」


 俺の宣言を聞いて、呆れた様子を見せる姉ちゃん。

 姉ちゃん曰く、大学は地方からもたくさんの人が来るから関西弁でも恥ずかしくないと言っていた。


 俺は東京行きが決まってから標準語を勉強した。

 たまに関西弁が混じってしまう。


「好きにしたらええけど。嘘ついたら絶対苦労するで」

「わかっとるよ。関西から来ていることとか、標準語はあんまり得意じゃないから、話すのが苦手やって言うとくわ」

「はいはい、精々頑張り。あんたお笑い好きやから芸人にでもなるんかと思ってたわ」


 ショウと約束したから、たくさんの人を笑わせられる芸人さんに俺はなりたい。


 大阪やったら吉本入って、芸人目指して、今をときめく芸人さんになるんやって、どこかで夢見とった。


 だけど、東京にはいっぱい芸能事務所があって、ノリが違う自分が入っても絶対上手くいかん。


 だから、モブになって観察する。


 東京では何が受けるんか? 面白いんは何か? いっぱい勉強して芸人になるんや! ショウのためにも俺はならなあかん。


 ダメやったら、別の道に進むんも本気で考えなあかんからな。


「まぁ、全国区になりたいなら、関西弁よりも標準語を覚えなあかんよ」

「わかっとるわ! あっ、わかってるよ。姉さん」

「うわっ、キモっ!」

「キモないわ! キモくないですよ!」

「自分で言うててわかるやろ」

「うん。めっちゃ違和感あるわ」


 それでも俺は絶対に標準語をマスターするんや。


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