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境遇

《side雪乃 フユナ》


 幼い頃に私は両親を事故で失った。

 目の前で炎上する車内。

 必死に私を助けてくれた母、炎上する車の外へと出してくれた。


「逃げて、逃げなさい!」 


 母の叫び声で、私は車から離れるように母を残して走り去った。

 息が切れるほど走って、ずっと私は泣き続けた。


「ハァハァハァ」


 飛び起きた私は、夢に母の顔が浮かんでいた。

 居眠り運転のトラックが転倒して、乗っていた車が巻き込まれて事故に遭った。

 母は横転する車の中で私が傷つかないように、抱きしめて守ってくれた。

 車が燃える中で、外へ出してくれて……。


 それからだ、私が笑えなくなったのは……。

 

 母に対して感じる申し訳ない気持ち、どうにもできなかった自分の無力さ。

 何度も私の心を締め付けて、母を救うことができたのではないかと問いかけるたびに胸が痛い。


 当時、結婚したばかりだった父の弟であるマモル叔父さんの養子として引き取られた。

 5歳ぐらいで、その時から私の表情は変わらなくなってしまった。


 それでも優しい叔父夫婦は、私のことを本当の子供として育ててくれて、私が十歳の頃に叔父夫婦に第一子が生まれた。妹のアイナは、コロコロとよく笑う子で、見ているだけで癒やされてしまう。


 妹が成長するのがとても嬉しくて、それと同時に私だけが家族ではないと心が締めつけれた。

 叔父夫婦に迷惑をかけたくない。

 私は高校の入学が決まって、すぐにアルバイトの面接を受けた。


 1日でも早く大人になりたい。


 叔父夫婦の子供ではない私は家族の邪魔をしているのだから。

 働いて、自立して、家を出る。


 高校は進学校ではあったが、自由な校風のお陰で、バイトを許してもらうことができた。

 ただ、成績を落としてしまうとバイトは禁止になるので、勉学も疎かにはできない。

 

 高校に行く前にスーパーの品出しと、夕方には惣菜売り場でバイトをするようになった。


 表情が変わらないことを説明して、接客業ができないことを伝えた。

 それでもスーパーの店長さんは雇ってくれた。

 マモル叔父さんの知り合いで、優しい人。


 バイトだけじゃない、叔父夫婦の手伝いはなんでもしたい。


「本当にいいのかい?」

「はい。大丈夫です」

「ありがとうね。フユナ。アイナのことをよろしくね」


 叔父夫婦の仕事は忙しいので、歳の離れた妹であるアイナの世話は私がしている。

 夕方の惣菜売り場は、週末と叔父夫婦がいることがわかっている平日だけ。

 

 品出しはできれば、毎日行きたい。


 お金を貯めて家を出るために。


「お姉ちゃん。お外に遊びに行きたい!」

「そうね。近くのショッピングモールに行こうか」

「うん! お菓子買って〜」

「いいわよ」


 表情が変わらない私に対しても、アイナは可愛く笑いかけてくれる。

 笑いかけてあげたいけれど、私にはそれができない。


「ショッピングモールは人が多いから手を離さないでね」

「うん。わかった」


 私がもっと気をつけていれば良かった。

 

「お姉ちゃん! あれ見たい!」


 そう言って、手を離して走り去っていくアイナ。

 不意打ちだったので、すぐに追いかけたけど、人の多さで見失ってしまった。


 どれだけ焦って視線を彷徨わせていても見つけられない。

 不意に、ショッピングモールの鏡に映る自分の顔が目に入った。

 こんな大変な時なのに、私の表情は普段と変わらない……。


 焦ることも、悲しむことも、なんの感情も浮かべていない。

 私は無力で、あの子の手を握っていてあげることすらちゃんとできない。


「あっ、お姉ちゃんがいた!」

「えっ?」


 絶望して、自分を責める私に対してアイナの声が聞こえてきた。

 その姿は私よりも高い位置から見下ろしていて……。


「あれ? 雪乃さん。もしかして雪乃さんの妹さんだった?」

「登君」


 名前を呼ばれて、私は隣の席に座っている、少し変わった男の子と視線が合う。


「あれ? お姉ちゃんを知ってるの?」

「うん。お姉ちゃんと同じ学校なんだよ」

「ふふ、そうなんだぁ〜」

「アイナ! 手を離しちゃダメだって言ったじゃない!」


 呑気に笑顔を浮かべて、登君と話しているので見て、私は声を荒げてしまう。 


「うっ、ごっごめんなさい」


 あっ、私が笑顔を崩して泣かせてしまった。

 私は何をしているのだろう。

 自分がちゃんと掴んでいなかったことが悪いのに、幼いアイナのせいにして、自分が悪いのにどうして素直にごめんなさいと言えないのだろう。


「はいはい。美人姉妹が喧嘩なんてしない」

「あっ、あなたには関係ないでしょ!」

「そんなことないよ」

「えっ?」

「アイナちゃん。さっきのショー面白かったよな?」

「うん。お兄ちゃんが肩車して、いっぱい見れたよ」


 いつも笑顔を浮かべているアイナが、登君に懐いた顔で嬉しそうに話をする。


「その時のヒーローも言っていただろ。笑う時だと思った時には、泣くことはないって! お姉ちゃんに出会えて嬉しい時だろ? だから今は笑って、会えて嬉しいっていう時だ」

「うん! お姉ちゃん。ごめんなさい。会いたかったよ」


 そう言って彼の肩車から降りたアイナは私を抱きしめた。

 そして、会いたかったと言ってくれた。

 私の表情は変わらないけど、私の瞳からは涙が流れ落ちる。


「私も、私もごめんね。私がアイナの手を離したのがいけないのに、アイナを怒ってごめん」

「おいおい、雪乃さんも違うだろ。アイナちゃんは、雪乃さんに会えて嬉しい。雪乃さんもアイナちゃんに会えて嬉しい。だから、ごめんじゃなくて、良かっただろ」


 彼は入学式の時と同じだ。

 空気を読まないで、好き勝手に声をかけてくる。


「アイナ! 会えて良かった」

「うん! うん!」


 だけど、今は彼が言っていることが正しい。

 私はギュッとアイナを抱きしめた。

 笑いかけてあげることも、怒る時にも無表情な私は怖いと思う。

 それでも私を慕ってくれているこの子が無事で本当に良かった。


「うんうん。それでええって。せやけど、ここにおると目立つからな。そろそろジュースでも飲みにいこか」

「うん! ジュース飲む!」


 彼のペースにつられて、私たちは彼にジュースを奢ってもらってしまった。

 そして、落ち着くまで一緒にいてくれた。

 その間、アイナの遊び相手になってくれて、すっかりアイナが心を開いているのがわかる。


「お兄ちゃんのお話って、面白いね」

「そやろ? 俺にも歳の離れた弟がおって、いつも笑わしててん」


 登君には弟さんがいるのね。


「アイナ、良かったわね」

「うん!」

「登君、アイナを見つけてくれてありがとう。それと、色々と気を遣わせてしまって、ごめんなさい」

「ええって、雪乃さんみたいな美人の助けになれたんは嬉しいだけや。何よりアイナちゃんみたいな可愛い子と遊べたからな」

「うわ〜!」


 登君がアイナを抱き上げる。

 アイナは嬉しそうに登君に抱き上げられて喜んでいた。


「アイナちゃん、気をつけて帰りや」

「うん。またね。登お兄ちゃん!」

「ああ、またな」


 そう言って彼と別れた私たちは帰り道でしっかりと手を握っていた。

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