真夏日の出来事
「……はい! 今、少年が警官に警護されて自宅から出て来た模様です! フードとマスクで表情は伺い知れません! ただうつむいて報道陣からは顔を背けているように見えます! 今パトカーに乗り込みました!! このまま管轄の○○署まで向かうと思われます! あっ! 一瞬こちらを見ました! なんていうか……わたしには、悲しい顔のように見えました……あ、パトカーが発車します! 現場からは以上です!」
20○○年の夏は狂ったように暑かった。
おれは、好きなサッカーにもろくに打ち込めなくて、仕方なくて家で詩を書いていた。みんなには秘密だ。SNS上でだけ、おれは性別年齢不明の詩人「マキナ」としてまあ中の下くらいには知られていた。
おれのスタイルはビジュアルに頼らない。テキストのみで構成する。頼ることがあるとすれば、味も素っ気もない原稿用紙の背景だけだ。フォントも明朝体W3のみを使い、フォントにも頼らない。
それでも付いてくる奴だけ付いて来ればいい、と思っていて、現にそのSNSの交流で仲良くなった人も何人かはいた。
通知音。メールが来たという。まああとで見ればいいので、急いで確認する必要はない。とりあえずこれを書き上げないと。
熊蝉の声がするのは午前中までだ。それまではワシャワシャとやかましい。熊蝉がいったん黙ったと同時に、詩編が出来上がった。
「月と敢えていう」マキナ
アップロードしてから、おれはGメールまでのページを繰った。……バッヂがない。さっきたしかに通知のポップアップはあったはずだ。アカウント内の未読を、迷惑フォルダを含めて探す。やっぱり無い。気のせいか? いや。
それはあとでサポセンに電話することにしよう。塾の時間だ。おふくろから弁当を受け取り「槇一」
「なんだよ」
「何かあったの?」
「なんで」おれは鼻をこすりながらいう
「気のせいならいいのよ。気を付けて行ってらっしゃい」
「うえい」