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黄泉の国

 雄一と謎の少女との戦いを遠くから見ていた者達がいた。


「どうだい? あのイケメンは【黄泉の国】でも通用しそうか?」


 そう尋ねたのは、長身の女性だった。


 黒色の軍服を身にまとい、紫色の長い綺麗な髪の持ち主だ。


 そして何より目を引くのはその大きな胸である。


 歩く度に揺れる胸に男性達は嫌悪感を抱くことだろう。


 そんな女性に対して、もう一人の女性は呆れたように息を吐くと口を開く。


 その女性は帝国では珍しい金髪で、小麦色に焼けた肌をしていた。


「いや〜無理だね。生きて帰ってこれれば御の字って感じの実力かな? まぁ、銀髪の女子よりはマシだけど」


「成長すれば見込みあるんじゃ無いか? 超低級とは言え、妖人ようじんを倒したんだぞ」


「いやいや、あれはたまたまでしょ。運が良かっただけ」


「そうか? 私はそうは思わんがな……それにあの女子もだ。二人共才能はあるよ」


「じゃあ、今後に期待ってことでギリギリ及第点だね。それじゃ、治療してあげますか」


「了解。私は、あのイケメンの手当てをするから」


「でたな面食い! モテない女は男に飢えてますね〜。まぁ、私もイケメンは好きだけどさ」


「うっさい! お前だってモテないだろ! 良いからさっさとやるぞ!」


 そんなやり取りをしながら二人は雄一と白鳥に近付いていくのだった……





 雄一達が目を覚ますとそこはベッドの上だった。


 雄一は、ゆっくりと身体を起こす……すると右腕に痛みが走り顔を歪める。


(そうだ、あの女の子と戦ってそれで怪我したんだ)


 雄一の脳裏にあの時の光景が蘇る……それはとても現実とは思えないような出来事だった。


 自分の身体を確認する……右腕には包帯が巻かれており、治療が施されているのがわかった。


 そして隣には白鳥が寝ていた。


(誰がこんなことを?)


 疑問に思っていると、不意に部屋の扉が開いた。


 そしてそこから二人の少女が入ってくる。


 一人は長身の女性でもう一人は小麦色の肌の少女だった……二人は手に食事を持っていた。


「お、目が覚めたみたいだね。良かった〜」


「傷の具合はどうだ?」


 二人は雄一に近付いてくるとそう尋ねてきた。


「えっと、大丈夫です……」


 雄一は戸惑いながらもそう答える。


 すると長身の女性は安心したように息を吐くと手に持っていた食事をテーブルの上に置いた。


「そうか……なら良かったよ」


 そう言って笑みを浮かべる女性に対して、もう一人の小麦肌の女性はジト目で見つめていた。


「ねぇ、あんたってホント面食いだよね」


「はぁ!? なんでそうなるんだよ!」


「だってそうじゃん。イケメンを見るとすぐ色目使うし」


「そ、そんなわけ無いだろ! ……お前だってイケメン好きって言ってただろ!」


「まぁ、そうだけどね〜。でも、あんた程じゃないし」


「くっ……この野郎!」


 二人が喧嘩を始めると雄一は慌てて仲裁に入る。


「あ、あの! お二人ともありがとうございます! 俺たちを助けてくれたんですよね?」


 そう言うと二人は言い合いを止めこちらを向く。


 そして小麦肌の少女が口を開いた。


「気にしないで良いよ。それより、お腹空いてるでしょ? これ食べて良いよ」


「あ、ありがとうございます!」


 雄一はお礼を言うと食事に手をつける……だがその瞬間激しい痛みが右腕を襲った。


 あまりの痛みに思わず箸を落としてしまう。


 するとそれを見た小麦肌の少女が慌てて駆け寄ってきた。


「大丈夫!?」


「だ、大丈夫です……ちょっと痛みが走っただけですから」


「仕方ないな! 私が食べさせてあげるよ!」


 そう言うと女性は箸を持ち料理を口に運ぶとそのまま雄一の口元に近付けた。


「あの、自分で食べられますから……」


「遠慮しないで良いから! はい、あーん」


 女性は強引に雄一の口に突っ込む……そして、それを飲み込むと今度は別の料理を箸で掴む。


「ほら、これも食べて!」


 そう言って再び口元に運んでくるので仕方なく口を開く。


「美味しい?」


「はい、とても……」


「良かった〜それ、私の手作りなんだよ!」


「そうなんですか? 凄い美味しいです」


「でしょ! もっと食べて良いよ!」


「はぁ〜色目を使ってるのはお前のほうだろ……」


 長身の女性は盛大なため息をはいた。


 女性は嬉しそうに笑うと次々と料理を口に運んでくる。


 雄一は、それを食べながらあることを考えていた……それは目の前にいる二人のことだ。


「あの、失礼ですがお二人は何者なんですか?」


「ん? ああ、自己紹介がまだだったな。私は帝国騎士団第一師団所属、花園薫子はなぞのかおるこだ。階級は中尉だ。よろしくな」


「私は帝国騎士団第一師団所属、橘美月たちばなみづき。階級は同じく中尉だよ〜よろしくね〜」


 二人はそう名乗ると、雄一に笑顔を向ける。

 雄一の目の前にいたのは、帝国騎士団第一師団に所属する女性達だった。


 薫子と名乗った女性は長身でスタイルが良く、紫色の髪と目を持つ女だった。


 美月と名乗った女性は小麦色の肌をしていて、金色の髪をロール状に巻いていた。


 二人とも雄一から見ると整った顔立ちをしており、特に薫子は凛とした雰囲気を醸し出していた。

 

 帝国騎士団は魔生物から帝国を守護する組織であり、その中でも第一師団はエリート中のエリートが集まる部隊である。


 美月はその第一師団の中でも上位に位置する実力者であり、薫子もそれに追随する実力を持っていた。


 そんな二人の自己紹介を聞いた雄一は思わず言葉を失う……まさかこんな若い女性達が帝国を守る軍人だとは思いもしなかったからだ。


 二人は軍人の先輩だ、雄一達は士官学校を卒業すると階級は准尉になる。

 つまり二階級も上ということになるのだ。

 

 雄一は慌てて姿勢を正し敬礼をし、自己紹介をする。


「わ、私は榊原雄一です! 現在は士官学校で帝国騎士団の訓練生として訓練を受けています! 助けていただきありがとうございます!」


 すると、薫子はクスリと笑った。


「そんなに畏まらなくても良いぞ。もっと楽に話してくれ」


「そうだよ〜私も堅苦しいの苦手だし、気軽に接してよ〜」


 薫子と美月も笑いながらそう言った。

 

「わ、わかりました……」


「さて、では本題に入ろう」


 薫子は真剣な表情になると、雄一に視線を向けた。


「榊原雄一君。君はとある試験にギリギリだが合格したんだ」


「試験……ですか?」


「そうだ。君は、私と美月が用意した妖人をギリギリではあるが倒すことができた。すまないが、あの戦いこそが私達が君に課した試験だっだんだ」


「では先輩方は、最初から俺を監視してたってことですか?」


「ああ、そうだ。それに君はまだ未熟だが見込みがある……今後に期待しているぞ」


「おまけで、この白鳥って子も合格にしてあげる。彼女は、私が直々に鍛えてあげるからね〜」

 

「そして雄一君。君の指導は私が行うことになっている。これからよろしく頼むよ」


「えっと、よろしくお願いします……それで私達は何の試験に合格したんですか?」

 

 雄一がそう尋ねると、薫子は真面目な顔で答えた。


「それは……【黄泉の国】への入国試験だ」


 薫子はそう言うと、美月と顔を見合わせた。


 雄一はその言葉の意味を理解することができなかった……だが、薫子達は真剣な表情でこちらを見つめている。


「ここからは極秘事項だ、誰にも話すことの無いように。もし迂闊にこのことを話せば、君は帝国から消されることになる」

 

 薫子の言葉に雄一はゴクリと唾を飲み込んだ。


「分かりました……誰にも言いません」


 雄一がそう答えると、薫子は満足そうに頷いた。


「よろしい、では話の続きだ。【黄泉の国】とは、一年前に帝国に出現した大きな穴のことだ」


「あの、魔生物が住んでる穴のことですか?」


雄一が疑問に思っていると、薫子は説明を続ける。


「そうだ。その穴は直径約五百メートルもあり、深さは不明だ。穴には魔石が大量に埋まっていて、その影響で魔生物が蔓延っている……世間一般的な認識はそんな感じだろう……」


「でも、実際は違うんですか?」


 雄一がそう尋ねると、薫子と美月は頷く。そして口を開いたのは美月だった。


「そうだよ……あの穴の中……【黄泉の国】の世界には、魔生物なんかよりも何倍も恐ろしい、私達の常識では考えられない怪物が生息しているの……帝国ははその世界を調査するために【黄泉の国】へ私達、帝国騎士団を派遣した……でも、結果は悲惨なものだった……」


 美月の言葉に薫子も続ける。


「第一回の調査では、帝国騎士団の精鋭五十人が派遣された……だが、帰ってきた者は一人もいなかった」


「それって、まさか……」


「ああ、全員死んだよ……【黄泉の国】の調査に向かった帝国騎士団は全滅したんだ」


 薫子の言葉に雄一は言葉を失う。

 そして薫子が話を続ける。

「そして第二回の調査で、帝国騎士団は三十人の精鋭を送り込んだ……だが、帰ってきたのはたったの一人だった。その一人も瀕死の重傷でまともに会話ができない状態だったらしい」


「そんな……」


 雄一がそう呟くと、薫子は話を続ける。


「そして、第三回目の調査で帝国騎士団はやっとのことで成果を持ち帰ることができた。それは、あの穴の中に生息する怪物の生態についてだ……三回目の調査に向かった帝国騎士団の中に敵の素性を読み取れるユニークスキルを持つ者がいてな……そいつはの貴重なスキル故に第一回、第二回の調査では派遣され無かったんだが、ついに上層部の連中が重い腰を上げたて、そいつ派遣したんだ。そして、そいつは穴の中で遭遇した怪物の情報を持ち帰った」


「一体どんな奴だったんですか?」


「名は【黄泉の国】の主、伊邪那美イザナミ……その圧倒的な力の前に帝国騎士団は何もできなかったそうだ……それ以来、帝国騎士団は【黄泉の国】への調査を行うことが出来ていない」


「その伊邪那美っていう怪物が妖人を生み出して、帝国に仇をなしてるんだよ……」


「……だが【黄泉の国】の怪物達はまだ穴の中にいる。奴等は滅多なことがないと穴から出てこない……しかし、もし出てきたら帝国は壊滅するだろう」


 薫子の言葉に雄一は息を飲む。


「確かに帝国が壊滅するかもしれないなんて、世間に公表できないですね……」


「ああ、だから帝国騎士団は【黄泉の国】への調査結果を極秘事項として扱っている。だが、帝国騎士団は諦めた訳では無い……帝国騎士団は【黄泉の国】の主、伊邪那美を討伐をするために戦力を集めているんだ。その戦力を集めるために、私達が派遣された」


 薫子がそう言うと、美月が話を続ける。


「つまり、雄一君は訓練生ながらにその戦力に数えられているの……だから、薫子さんは雄一君に試験をしたんだよ」


「そういうことだ……まだまだ未熟ではあるが、私が一人前の帝国騎士団にしてやろう」

 そう言って微笑むと、薫子は雄一に手を差し伸べる。


「榊原雄一君……私達には君の力が必要だ。だから、どうかこの私の手を握って欲しい」

  

 そして、雄一は迷うことなくその手を取ると力強く握り返した。


 「はい、よろしくお願いします!」


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