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雄一の覚醒

 その熊型の魔生物は涎を垂れ流しながらゆっくりと近づいてくる……


 その目は、雄一達を餌としか見ていない。


 魔生物は一年前に出現した大穴に生息する生物であり、普通の生物とは大きく違う。


 普通の獣は、知性が乏しく本能のままに行動するが、魔生物は知能が高く罠や武器を使って襲ってくる場合もある。


 そして何より厄介なのは身体能力と耐久力の高さだ。


 通常の生物とは比べ物にならないほどの力を持ち、並の軍人では太刀打ちできないほどの強さを持つ。


 通常、魔生物と戦う場合は複数人のチームで挑むのが定石であり、一人で戦うなど自殺行為に等しい。


 だと言うのに白鳥は、一人で戦う気でいた。

 

 魔生物は、一気に距離を詰め白鳥に襲いかかった。


(速い!)


 予想以上の速さに驚きつつも、白鳥はその攻撃を難なく躱す。

 

 そして、刀で斬りつけるがその皮膚には傷一つ付いていなかった。


 しかし、それは想定済みだったようですぐに距離を取り魔術を発動させる。


「『風花ふうか』!」


 その言葉と共に、白鳥の周りに風と花びらが発生する。


 風は花びらを舞い上がらせ、魔生物の視界を奪う。


 その隙に、白鳥は一気に間合いを詰める。


 しかし、魔生物は馬鹿ではない。


 風で視界を奪われようとも嗅覚と聴覚を研ぎ澄まし、白鳥の位置を把握する。


 その鋭い爪で白鳥を斬り裂こうと腕を振り上げた。


 白鳥は、その攻撃を避けると魔生物の懐に潜り込む。


 そして、その心臓に刀を突き刺した。


「『風光ふうこう』!」


 すると、白鳥の刀は眩い光を放ち魔生物を内部から破壊していく。


「グォォォォオ!!!」


 断末魔の叫び声をあげ、魔生物はそのまま絶命した。


(凄いな……)


 白鳥の剣術の腕、そして魔術の威力に雄一は驚いていた。


「ふぅ……終わりました!」


「凄いね白鳥さん! あんなに魔生物を一人で倒しちゃうなんて……」


 雄一は、素直に賞賛の言葉を贈る。


 すると、白鳥は嬉しそうに頬を赤らめた。


「そ、そんなことないですよ……榊原君だったらも簡単に倒せますよ!」


「あはは、そんなこと無いよ。俺なんてまだまだだよ」


「そんなこと無いですよ!  榊原君は凄いです!」


「そうかな? そのありがと」


「はい! 榊原君は凄いんです!」


 雄一は、白鳥に褒められて少し照れくさそうにしていた。

 

 そんな時だ。


 茂みの中から一人の少女らしき人物が姿を現した。


 その少女は大きな鎌を持ち、黒いローブを身に纏っていた。


 そして、その顔には不気味な仮面が付けられていて表情は分からない。


 その少女は、雄一を見ると仮面の下でニヤリと笑った気がした。


(何だ?)


 雄一はその少女を警戒しつつも声をかけることにした。


 しかし、その前に少女が先に口を開いた……


「弱い人……」


「え?」


いきなり弱いと言われ、雄一は困惑した。


(今なんて言ったんだ?)

 

 聞き返そうとしたが、その前に少女が再び口を開いた。


 次に少女が発した言葉は帝国語ではなかった……


 すると、少女の身体から魔力が溢れ出した。


(何だこれ!?)


 その魔力は尋常ではない量であり、明らかに異常だった……そしてその魔力を込められた言葉はまるで呪詛のように感じられた……

 その言葉を聞いた白鳥は、恐怖で身体を震わせていた。


 そして、雄一も驚きを隠せなかった……


(なんだこの魔術は!?)


 そう思った瞬間、少女の身体から大量の触手が飛び出す。


 それはまるで生きているかのように動き出し、白鳥に襲いかかる!


(まずい!)


 雄一は、咄嗟に魔力で身体能力を強化し、白鳥を抱えその場から飛び退く。


 すると、先程まで二人がいた場所に触手が突き刺さっていた……そして、その触手はそのまま地面を抉り取ると再び少女の元に戻っていく。


(なんて威力だ!)


 その光景を見て背筋が凍った。

 

もし、あのままあそこにいたらと思うとゾッとする……


 雄一は、白鳥を抱えたまま距離を取る。


(この少女の目的はなんだ?)


 そんな疑問が浮かぶが答えは出ない。


 それよりも今は目の前の敵に集中することにした。


 雄一は、魔術を発動する。


「『天照の微笑み!』」


 しかし、少女はそれを軽々と躱す……


(速い!?)


 雄一は驚愕した。まさか避けられるとは思っていなかったのだ……少女の身体能力が異常だ……普通の人間ではありえないほどのスピードと反射神経を持っている。


 雄一は、再び魔術を放つがそれも避けられてしまう……


 今度は複数の魔力の弾丸を作り出し放つ。


 しかしこれも当たらない……まるで予知しているかのように躱されてしまうのだ。

 

 このままでは埒が明かない……


 そう思った雄一は、一気に距離を詰める!


 しかし、少女はそれを読んでいたかのように触手で迎撃してくる。


 咄嗟に魔力の盾を作り攻撃を防ぐが衝撃までは殺せない……そのまま吹き飛ばされてしまう。


(せめて白鳥だけでも……)


 白鳥を庇うように抱きしめ衝撃を和らげる。


 だが、新たな触手が目の前に迫っていた……


(まずい!)


 そう思った瞬間、触手が雄一達の前で止まる……いや、正確には止められていたのだ。


 それは白鳥の魔術だった。


 白鳥は、魔力で風の壁を作り防御していたのだ。


 そんな様子を見ていた少女は楽しそうに笑う。

 

「白鳥さん、ありがとう」


「いえ、これくらい大丈夫です! そそそれよりも、王子抱っこされちゃってます! 嬉しいような、情けないような、恥ずかしいような……複雑です!」


 白鳥は、顔を真っ赤に染め上げていた。


 しかし今の雄一は白鳥に構っている余裕は無かった。


  こっちは防ぐのが精一杯であるのに対して、向こうは余裕な様子で攻撃をしているのだ。


 このままではジリ貧だった。


「白鳥さん、君はここから逃げて!」


「え!? そんなの嫌です! 私も戦います!」


「でも、このままじゃ二人ともやられる……だから早く……」


 雄一は白鳥を地面に下ろして、逃げるように促す。


「でも、榊原君を置いてなんて行けません!」


「いいから早く逃げろ!」


 雄一は白鳥に怒鳴る。すると、白鳥は少し怯えたような表情をしたがすぐに真剣な表情になった。


 そして……


「嫌です!」


 白鳥は雄一の言葉を拒絶した。


「私は、榊原君と一緒に居たいんです! だから……絶対に離れません!」


「白鳥さん……」


 雄一は、白鳥の真っ直ぐな視線に戸惑ってしまう。


(どうすればいいんだ……)


 その時だった……敵の少女から魔力が溢れ出す。


 それは今までとは比べ物にならないほどの量であり、威圧的であった……その魔力の量と禍々しさに、雄一達は思わず後退りしてしまう。


「弱い人は……殺す……」


 雄一達に殺意を向ける。そして、触手が勢いよく伸びてきた!


 白鳥は咄嗟に魔力の盾を作り防ごうとするが、今度はそれは簡単に破られてしまう……そのまま吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。


「くっ!」「きゃっ!」


 痛みに耐えながら立ち上がろうとするが、雄一達の前に少女が目の前に立っていた。


 少女は、雄一と白鳥の首を掴み持ち上げる……そして、その仮面の下からは不気味な笑みが浮かんでいた…


「かはっ……」「ぐっ……」


 息が出来ない……苦しい……意識が遠のいていく。


(まずい、このままじゃ殺される!)


 雄一は必死に抵抗するがビクともしない……それどころかどんどん力が強くなっていき、首が締め付けられる。


 白鳥は最後の力を振り絞り魔力を放出する……しかし


「無駄……」


 少女は、触手を使い白鳥の腹を貫く。


「がはっ!」


白鳥は口から血を吐き、そのまま地面に倒れ込む。


(白鳥さん!!)

 

 その光景を見た瞬間、雄一の中で何かが弾けた……それは雄一が気がついていなかったユニークスキルが発動した音であった。


 雄一の魔力が一気に膨れ上がる……そして、その魔力を制御し解き放った。その瞬間、少女の触手が消し飛んだ……


 少女は、驚きの表情を浮かべ雄一を見つめる。


(……何が起きたの?)


 雄一は、少女を睨みつける。その目は怒りに満ち溢れていた……そして、ゆっくりと少女に向かって歩き出す。


 少女は警戒し触手で攻撃するが当たらない……雄一はまるで瞬間移動しているかのように一瞬で間合いを詰める。


少女は慌てて大鎌を振り下ろす、しかしその斬撃が当たることはなかった。

 それどころか逆に反撃を食らうことになる。少女は、ギリギリの所で回避し、後ろに飛び退く。


 少女の頬には一筋の血が流れていた……それは雄一の攻撃がかすり傷を与えた証拠であった。


(この私が傷つけられるなんて!)


 少女の中で怒りが込み上げてくる……そして、再び触手を発現させると、雄一に向かって伸ばす。


 しかし、その攻撃も当たらない……それどころかまたカウンターを受けてしまう。


(どうして!?)


 少女は混乱していた……今までこんなことは一度も無かったからだ。だが、少女はすぐに冷静さを取り戻す。


 少女は、再び触手で攻撃を仕掛ける……だが今度は先程よりも速く鋭い一撃だった。


(これなら!)


 しかし、その攻撃も避けられてしまう……そして雄一の魔術が発動する。


 少女は咄嗟に防御するが吹き飛ばされてしまう……そして地面に叩きつけられる寸前に、触手で身体を支え何とか着地する。


 (この感覚は何!?)


 少女の心に恐怖が生まれていた……それは初めて感じる感情だった。今まではどんな相手でも圧倒してきた……それなのに今は追い詰められている自分がいる。その事実が少女を苛立たせた。


(許さない!)

 

 少女は、再び魔力を放出する……それは先程よりも更に強大な魔力であり、禍々しいオーラを放っていた。

 

 雄一は、その魔力を肌で感じ冷や汗を流すが、それでも追撃の手を緩めない。


 少女が動き出すと同時に雄一も動いた。


 少女は触手を槍のように伸ばし攻撃してくる……雄一はそれを白鳥が持っていた刀で弾き、そのまま間合いを詰める。


 少女は驚きつつも触手で迎撃しようとするが、雄一の速さについて行けず攻撃は当たらない……そして遂に少女の目の前にまで迫ると刀を振り下ろす。


 少女は咄嗟に魔力の壁を作り防御するが、その壁は一瞬にして砕け散る。

 そして、そのまま刀が少女の右肩に直撃する。

 

 少女は苦痛の表情を浮かべる……だがすぐに反撃に移ると触手で雄一を拘束しようとするが、それを躱され再び間合いを詰められてしまう。


 少女には理解できなかった……自分がこんな格下相手に追い詰められているという事実が受け入れられなかった。


 少女は、雄一を睨みつける……だがその少女の目には涙が浮かんでいた。


(痛い! 苦しいよ! なんで私がこんな目に遭わないといけないの?)


 少女は、涙を流しながら心の中で叫び続ける……そして、遂に限界が訪れた。


(もう嫌だ! もう戦いたくない!)


 その瞬間、少女の魔力が暴走する……それは全てを飲み込み破壊し尽くす程の威力であり、雄一も白鳥も巻き込まれてしまう。


 それでも尚止まらず辺り一帯を消し飛ばす……そして、ようやく魔力の暴走が収まった時には、そこには大きなクレーターができていた。


 雄一と白鳥は、地面に倒れ伏していた。


(痛い……)


 身体のあちこちが痛む……特に右腕の傷が酷かった。出血も酷く意識を保つだけで精一杯だ……


(早く治療しないと)


 雄一がそんなことを考えていると、ふと視界に敵の少女の姿が映った。少女は、虚ろな目で立ち尽くしている……その姿はまるで抜け殻のようだった。


 雄一は、立ち上がろうとするが力が入らない……それどころか意識が遠のいていくのを感じた。


(まずい!)


 そう思った瞬間、少女は地面に倒れ伏した。そしてそのまま動かなくなる……どうやら魔力切れのようだ。


 だが、雄一の意識もそこで限界を迎えてしまったのだった……


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