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白鳥は警護役

 早朝、雄一はいつもの様に柔軟体操を行なっていた。


(昨日は大変だったな……)


 昨日の露天風呂での出来事を思い出し、思わず苦笑いがこぼれる。


(まさか、あれだけの人数の前で裸を見られるとは思わなかったけど……)


 雄一は別に女性に裸を見られても特に問題ないためあまり気にしていないのだが、やはり目の前でジロジロ見られるのは気恥ずかしいものがあった。


 そんな事を考えていると、いつの間にか後ろにいた晴人に声をかけられた。


「よっ。おはようさん!」


「ああ、おはよう」


「そう言えば、どうやら昨日風呂で覗きがあったみたいだな……これだから女子は嫌だよな」


「まぁ、誰も被害には遭わなかったみたいだから良かったじゃないか」


「そうらしいな……ただ女子が風呂場で全員鼻血を出して倒れてたって噂が流れてたけどな……」


 雄一の裸を見た女子は全員倒れてしまい、風呂の壁も壊れたままだった。


 この状況を放置するわけにもいかず、魔術を使って壁を元通りに修復したのだ。


 その後、教官が男子風呂を覗いていた女子達を捕らえられたが、被害者である雄一が覗きは無かったと証言したため、すぐに解放されたのだった。


(さて……今日も頑張るか)


 そんな事を考えながら柔軟体操を終わらせると、雄一は朝の走り込みに向かう。


「じゃあ、あれ少し走ってくるわ。また訓練で」


 晴人は軽く手を振り、雄一を見送った。


 雄一は、体力作りのために毎日欠かさずランニングを行なっていた。


 そのランニングは過酷を極め、毎日数百キロは走っていた。


 ただ走るだけでなく魔術で数百キロもの負荷を全身にかけ、身体を追い込む。


 それでも雄一は汗ひとつかかず涼しい顔で走る。


 士官学校の敷地を抜け、山の中を進む。


 帝国の美しい自然を楽しみながら、雄一は走り続ける。


 しばらく走っていると、前方に人影が見えた。


(あれは誰だ?)


 よく見えなかったため立ち止まり、目を凝らす。


 どうやら女子生徒のようだ。


(こんな森の奥の山に生徒が……?)


 雄一は、少し違和感を覚えるが、気にせず前を横切ろうとした。


 次の瞬間……突風が吹き荒れた。


 明らかに自然に発生したものではなかった。


「これは、風属性の魔術か?」


 風は女の子の周りを覆い、まるで竜巻のようになっていた。


 勢いは増していくが、小さく圧縮されていきいつしか女の子の姿と同じ人型の竜巻が出来上がっていた。

 

 雄一はその魔術に心当たりがあった。


(これは、恐らく風属性の最上級魔術『風神雷神』だ。だが、人型に形を変えて発動させるなんて聞いたことない……特に風属性の魔術は扱いにくかったはずだ……)


 風属性の最上級魔術が、こんな形で発動していることに雄一は驚いていた。


 しばらく見ていると、竜巻が徐々に弱くなっていき中から女の子が現れる。


 女の子の正体は白鳥だった。 


 銀色の髪がふわりと風に揺れ、青い瞳が雄一を射抜く。 


 その神秘的な姿は、雄一の鼓動を大きくさせた。


 白鳥は雄一の存在に気がつくと、顔を真っ赤に染めて慌て始めた。


「あぎゃっ! う、あえ! さか、さささ! 榊原きゅん! どどどどえおえお……どうしてここに!?!?」


「落ち着いて、白鳥さん」


「そそそ! そうですね!? あ、あの……私! そのぉ……」


 白鳥は動揺して上手く言葉を紡げない。


 雄一は、そんな白鳥を落ち着かせようと優しく話しかける。


 そして、ゆっくりと近づく……すると、白鳥はさらに顔を赤くし慌てていた。


「ひ、ひゃい!? ななな! なんで近づくんですかぁ!?」


「いや、落ち着いてもらおうと思って……」


「はい! 分かりました落ち着きます! ですのでそれ以上近づかないでください!」


「あ、ごめん嫌だった?」


 雄一は白鳥から二歩ほど離れた所で止まり、話を続ける。


「いえ! 全然嫌じゃ無いです! その逆です! 嬉しすぎて過呼吸になってしまうので……それと……少し汗をかいてるので……こんな匂い嗅がれたくないというか……」


「匂い? 別に気にならないけど……」


「ダメです! 私は気にするんです! こんな汗臭い女なんて榊原君に嫌われてしまいます! こんな私でもそれだけは嫌なんです……」

 

 白鳥は、俯き少し涙目になっていた。


「そんなことじゃ白鳥さんのこと嫌いにならないよ。それに頑張って訓練してた白鳥さんを汗臭いなんて思わないよ。むしろ、良い匂いがするかな」


「ひぇぇぇ! そそそ、そんなこと言わないでくださいよぉ!」


「あはは、ごめんね。でも本当に良い匂いだよ」


「ひぇぇ……もう無理です! 恥ずかしさで死んでしまいます!」 


 白鳥は、雄一の一言で完全に茹で上がってしまった。


(なんか可愛いな……)


 そんな白鳥を見て思わず頬が緩んでしまう。


「そういえば、白鳥さんはここで何をしてたの? こんな森の奥深くに女の子が一人でいるのは危ないよ」


 雄一は、白鳥がここにいる理由を聞いてみる。すると、白鳥は少し間を開けてから答えた。


「えっと……そのぉ……透明化になる訓練をしてました……それと男の子が一人の方が何倍も危険だと思います! 榊原君も気をつけて欲しいです……」


(ああ、そうか。この世界では常識だと男が一人の方が危険なんだった。つい前の世界の常識を持ち出してしまった……)


自分が異世界での常識を忘れていたことに気がつく。


「それもそうだね、気をつけるよ。それよりも透明化って言った? それってもしかして、今の魔術の事?」


「はい。そうです……風属性の最上級魔術『風神雷神』を応用させるんです……強風を操り光を屈折させるんです……でも、まだまだ制御が上手くいかなくて……」


 少し悔しそうに唇を噛み締めた。白鳥が悔しがっている理由は単に術が上手くいっていないからでは無かった。

 

 彼女は透明になり雄一の裸を見たかったのだ。


 しかし、透明化はまだまだ未完成で雄一の裸体を拝むことは叶わなかった……


 雄一に裸を見せられない悔しさと、自分の不甲斐なさから唇を噛み締めていたのだ。


 そんなことを考えているは露知らず、雄一は白鳥を慰める。

 

「でも竜巻を人型に出来るだけも十分凄いよ! それに、『風神雷神』を使える人なんて滅多にいないよ!」


「え、あ……はい! ありがとうございます……」


(榊原君は優しく格好良くて頭も良くて非の打ち所がない無さすぎです! これ以上私を惚れさせてどうするつもりですか! ……だと言うのに私は榊原君の裸を見たいがために頑張ってるなんて……)


 白鳥は、雄一の優しさに胸が高鳴ると共に罪悪感に苛まれていた。


(私は本当に最低です!)


「白鳥さん大丈夫? 顔色悪いよ?」


 そんな白鳥を見て、雄一は心配そうに声をかける。


「だ、大丈夫です! それより榊原君はどうしてここに?」


(私は今裸の榊原君を想像してしまいました……やっぱり最低です!)


「俺はランニングをしてたんだ」


「え、ランニングですか?」


「うん。毎朝の日課なんだ」


「榊原君は毎日こんな山の中を走ってるんですか!? 凄いですね……」


「そんなことないよ。ただ走ってるだけだし」


「でも、この山は一年前に発生した大穴の近くですよ! 魔生物だって出るって噂ですよ……それなのに毎日走るなんて……」


「あはは、実は魔生物と戦うのも目的の一部なんだ」


「えー!? ダメですよ危険過ぎます!」


「でも、強くならないといけないし……」


「それでもです! 榊原君は男の子なんですよ? もっと自分の身体を大切にしてください!」


(榊原君が死んじゃうなんて絶対嫌……)


そんな白鳥を見て雄一は優しく微笑みかける。


「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ」


 そう言って、雄一は自分の腕に魔力を流す。すると、魔力が腕に纏わり付き硬化していく。


(このくらいなら大丈夫だろ……)


 そして、その腕を軽く振ると目の前の木に拳を叩き込む。

 ドゴォォン! そんな音が鳴り響き、木はメキメキと音を立てて倒れていった。


 雄一の腕には傷一つ付いていない。

 それを見て白鳥は、目を見開いて驚いていた。


「こんなことを出来るくらいには強いからさ。だから心配しなくても大丈夫だよ」


 雄一は、白鳥に笑いかける。


「確かに、それくらい強かったら大丈夫だと思いますけど……でも心配なんです

……」


「あはは、心配してくれてありがとう」


「あの! ……もし良かったらですけど……私が付き添って榊原君の警護をするっていうのはどうでしょうか!?」


「え、警護?」


「はい! 榊原君は強いですけど……やっぱり心配で……」


(それに、榊原君の近くに居られる口実も出来るし……)


 そんな白鳥の言葉を聞いて雄一は考える。


(別に一人でも大丈夫だけど、白鳥さんの好意を無下にするのは申し訳ないな……)


「分かった。じゃあ、お願いしてもいい?」


「はい! 任せてください!」


(やったぁ♡ これで毎朝、榊原君と過ごせる!)


 白鳥は心の中でガッツポーズをするのだった。


「じゃあ、これかからお願いします」


「はい! よろしくお願いします!」


 こうして白鳥は雄一の訓練に同行することになった。

 

 ーーしかし、そんな和やかな雰囲気は突然終わりを迎える。


 雄一は、何かを察知し白鳥を庇うように立ち塞がった。


(これは……魔生物か?)


 すると、茂みの奥から巨大な影が飛び出してくる。


 それは、体長10メートルはあるであろう巨大な熊の様な生物だった。


「榊原君下がって! ここは警護役の私に任せてください!」

 

 そう言って白鳥は、雄一の前に出て腰に差していた刀を抜くのであった。

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