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男風呂覗き事件

 今日は週に一度の露天風呂が使える日だった。


 日頃の訓練の疲れを癒せるため士官候補生たちはこの日を週で一番楽しみにしている。


「雄一! 最近お前、白鳥と仲が良いよな」


「そうか?  いやでも、確かに最近良く話すかもな……」


「誰にでも優しくしてると、勘違いされて襲われても知らないぞ。女は獣だからな」


「それは流石に言い過ぎじゃないか?」


「いいや、そんなことないね。特に雄一は馬鹿みたいにイケメンだから、自分の人生棒に振ったとしても一発ヤリたいって思っても不思議じゃない。白鳥みたいな不細工な女なら尚更ね……」


「不細工って……いくら晴人でも言って良い事と悪い事があるぞ」


「くぅ〜やっぱりイケメンは違うね。イケメン様は、たとえ不細工でも優しくしてあげるんだ。流石だね」


「晴人……お前ってやつはそうやって茶化して……」

 

 雄一は思わず頭を抱えてしまう。

 

(全く晴人には困ったものだな)


 雄一は、晴人のことを親友だと思っている……だからこそ、彼のこういうところは直して欲しいと思うのだが、なかなか上手くいかない。


「にしてもお前、顔だけじゃ無くて身体もイケメンなんだな」


「お前、イケメンの言葉の意味分かってて使ってるか?」


 雄一は、晴人の言葉に呆れてしまう……


  この世界での男は、華奢な身体つきの方がモテる。


 元世界で言えば、守ってあげたくなるような中性的な男性がイケメンとされていた。


 そして雄一は、その中でも群を抜いてイケメンである。


 白く透き通る様な肌に、スラリとした手足、適度に引き締まった身体つきも相まってとても美しく見える。


 帝国人らしい黒髪を、肩にかかるくらいのポニーテールにしており前髪も綺麗に揃えられている。


 切れ長の瞳はまるで黒曜石の様に輝いており、見る者の心を奪う。


 容姿だけでもこれだけの魅力があるというのに、正義感が強く、誰に対しても公平であり面倒見が良い。


 また礼儀正しく真面目で素直であるため周囲の信頼も厚い。


 おまけに成績も優秀であり、戦闘能力まで高い……まさに完璧超人であった。


 そして、この世界の男性の人口は女性の十分の一であるため、雄一のモテ具合は常軌を逸していた。


 当の本人は恋愛や男としての優越感などに興味が無く、ただただ真面目に訓練に励むばかりであるが。


「なぁ、雄一って男からもモテてるって知ってたか?」


「はぁ!? 知らん! 怖いからそんな話するなよ……」


(男からもモテるとか……変な冗談はやめてくれ……)


「いや、俺も半信半疑だったんだけど……お前の裸を見てたら分かるような気がしてな」


「すまんが、俺はそれを理解してしまう奴とは一緒の風呂には入りたくない……」

 

 そう言って露天風呂から出ようとした時、隣の女湯から視線を感じた。


 その方を向くと、数人の女子生徒がこちらを見ていた。


 雄一と目が合った瞬間、慌てて目を逸らしたが一部はまだこちらを向いている……恐らくは覗き見をしていたのだろう。


(俺は見られても別に構わんが、ここには晴人が居るしな……)


 雄一は晴人の方を見ると、そこには彼の姿はなかった……どうやら既に露天風呂を出て行ってしまったようだ。


(まぁ、マイペースなあいつらしいな……これで露天風呂には俺だけだ)


 雄一は、改めて露天風呂に浸かると夜空を眺め一息をついた。


 すると、再び女湯から声が聞こえてきた……どうやら、また覗きに来たらしい。

 

 雄一は元の世界での修学旅行を思い出していた……クラスの男子全員で風呂に入り、誰が女子風呂を覗くかで盛り上がり、最終的にジャンケンで負けた奴が覗きに行くという流れになっていた。


(今思えのくだらない思うけど、最高に楽しかった思い出だな……)


 そして、覗きに行った奴がバレて怒られていたことを思い出す。


(あの時は大変だったな……)


 そんなことを考えて、思わず笑みをこぼしてしまう。


 (覗いていいのは覗かれる覚悟ある奴だけだ……あの時に覗いてしまった女子達への罪滅ぼしだと思って、今日は俺が犠牲になろう)


 雄一は湯船から上がり、露天風呂の縁に腰かけた。


 そして身体強化で聴力を上げ、耳を澄ませる。


 すると……女湯から、ざわざわとした声が聞こえてきた。

 

「ねぇ! 本当に榊原君が入ってるの!?」


「どうやら本当みたいよ! そこで鼻血出して死んでる奴らを見たら分かるでしょ!」


「えええええ! なら絶対に見たいわ!」


「ちょっと! 榊原君を覗くのは私が先よ!」


「何言ってんの!? あんたみたいな不細工が、彼の裸を見ようなんて百年早いわよ!」


「なによ! あんただって不細工じゃない!」


「なんですって!?」


「ちょっと待ちなさい! ここは争う場面じゃ無いわ! 敵味方関係なくみんなで協力するところよ!」


(なんだろう、すごい聞き馴染みのある声が聞こえるんだが)


「ぐぅ! ブスのくせに良いこと言うじゃない……」


「うるさいわね! 目的はみんな一緒でしょ! あんた、雄一の裸見たくないの?」


「見たいに決まってるじゃない!」


「なら決まりね! みんなで雄一の裸を見るのよ!」


『おおおおおおおお!』


 彼女達は思春期真っ只中である。こんなイベントは逃せるはずが無かった……


(なんかすごいことになっちゃったな……)


 そこからの女子の連携は凄まじかった。男の裸を見たい。ただその一心で、歪みあっていた者達が協力していた。


 そこには最早理性はなく本能のみで動いていた。


 彼女達の計画は単純明快、男湯と女湯を隔てる壁を壊すことだった。


 緻密な計画を練っている時間はない。


 その間に雄一が出ていってしまう可能性があったからだ。


 そのため、壁を壊すという強行策に出ることしたようだ。


 壁を壊せれば全員が雄一の裸体を見ることが出来るという点で、公平であった。


 みんなが雄一の裸を見るためにはただ壁を壊すだけではダメであった。


 広範囲かつ一瞬で綺麗に壊すことが求められる。


 そのために彼女達は魔術を使った。


 まず、魔力量の多い者が壁に手を置き魔力を流した。


 魔力を壁全体に馴染ませ強度を下げる……その次に魔力操作に長けた者が壁の中に浸透した魔力を操って脆い部分を繋ぎ合わせ、一瞬で壊れる急所を作りだす。

 

 最後に、身体強化を行なった者がその急所を思いっきり殴りつけたのだった。


 すると、同時に壁の中に閉じ込められていた魔力が一気に放出され、壁が一瞬にして粉々になった。


 男女を隔てた伯林(ベルリン)の壁はこうして破られた。


 この一連の流れを彼女達は、数秒の間に行なっていた。


 その連携力は、世界でもトップクラスであるだろう……彼女らにとっては、雄一の裸を見るためなら壁の一つや二つ壊すことなど造作もない事であった。


 そして、壁が壊れた途端、女湯から歓声が上がる。


『きゃぁぁっぁっぁぁ!』


 壁が破壊されて、雄一の裸体が露になる。そして、雄一は女湯に向かって声をかけた。


「よぉ……みんな元気そうだな……」


 女性陣が全員卒倒したのは言うまでもあるまい……

 

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