幼馴染との激闘
「今日の訓練内容は、対人戦だ。各自一対一の模擬戦をしてもらう。対戦相手は今までの訓練での成績順、上位の者から二名ずつ選出している。勝利条件は相手に負けを認めさせることか、戦闘不能にすることのどちらかだ……まずは実技成績トップの榊原と、次席の香月の模擬戦だ。各々位置につけ!」
「「はい!」」
教官の指示により、雄一と玲那は模擬戦の準備をする。
互いに向き合い、剣を構えた。
雄一は、玲那が剣を構える姿は優雅で美しいと思った。
玲那は剣道やフェンシングなどではなく、まるで実戦を想定しているような構えであったからだ……その姿勢からは彼女の自信を感じさせる。
だが、それでも雄一は負ける気がしなかった。確かに彼女の腕前はかなりのものだが、自分も入学時と比べて格段に成長しているのだから……絶対に負けはないと心の中で呟く。
それに自分のステータスには剣術Ⅳがある……このスキルは自身の剣技に補正がかかるため、かなり有利だ。
剣術スキルとは、剣術の型を使った反復練習をすることによって身についていく。
つまり剣術スキルはそのまま熟練度を示す。その熟練度が増えることによって自身の剣技に補正がかかる……雄一の剣術スキルレベルはⅣ。
スキルレベルは最大でVであり、Ⅳともなれば世界でも有数の実力者と言えるだろう……それを弱冠16才で、IVまで上げた雄一間違いなく天才と呼ばれる存在であろう。
更に雄一は戦闘技術lV、身体強化V、心眼V、戦闘継続lll、剣気lll、直感IV、見切りlV、状態異常耐性V、魔力操作IIIなどと戦闘に関するスキルをほぼ網羅しており、まさに戦闘の申し子と言えるだろう……
雄一は既に完成された武人であった。
もちろん魔術師としても一流である。全ての属性に適性があり、魔力量は常人のそれを遥かに凌ぎ、質も高い。
雄一は幼少期より祖父により英才教育を受けているため、魔術師としての才能も他の追随を許さない。
彼は名実ともに世界最強の魔術師と言えよう……
完全な武人であり、最強の魔術師である。それが平民、榊原雄一の正体であった。
……しかし、実践形式の訓練において雄一は玲那に勝ったことが無かった。
ステータス面では、もちろん雄一に分がある……攻撃、防御、魔力、全てにおいて雄一は玲那よりも遥かに上である。
それでも、雄一は一度も勝ったことがなかった。
ーーユニークスキル。
それは、特定の個人だけが持っているスキルのことだ。その効果はそれぞれで異なるが、どれも規格外の能力ばかりである……
ユニークスキルの代表的なものと言えば、帝国近衛師団長が持つ《天岩戸》。帝の持つ《三種の神器》。征夷大将軍が持つ《葵紋》。これら三つは規格外のスキルとして有名だ。
雄一の祖父、榊原源十郎もユニークスキルを持っていた……彼のユニークスキルは《風林火山》と呼ばれるものである。
簡単に言えば、自然全て自在に操れるのだ。風、林、火、山。
これら4つの自然を自由に操ることが出来る……それがどれほど規格外なことかは言うまでもないだろう。
そんな一つ持っているだけで、一騎当千と言われるユニークスキルを玲那は持っているのだ。
雄一が彼女に勝てないのも当然と言えよう。
玲那のユニークスキルはーー《月詠》
通称、夜の支配者。
彼女のユニークスキルも強力である……満月の夜ならば、まず彼女を倒すことは叶わないであろう。
具体的な能力は、夜になると彼女は全てのステータスが数千倍になる。また満月ほ時は、全てのステータスが数万倍になるスキルである……月夜ならば、彼女は世界最強と言っても過言ではないだろう……
そして厄介なのは、昼でも玲那の周囲を暗くさえ出来れば、彼女のステータスは暗さに応じて上昇するのだ。
彼女を倒すには、できるだけ光魔法を使い周囲を明るくし《月詠》を発動させないことだ。
逆に言ってしまえば、それ以外の手段では彼女に勝つことは出来ないと言える。
それほどまでに彼女のユニークスキルは強力であり、圧倒的なのだ。
「これより、模擬戦を開始する! 両者準備はいいな?」
「はい!」「ええ、もちろんです!」
「それでは、始め!」
教官が戦闘開始の合図を出す。
二人は互いに向かって走り出す……その瞬間、雄一の視界から玲那が消えた。
「ーーっ?!」
「こっちだよ、雄一!」
背後から玲那の声が聞こえた。
慌てて振り向くと、彼女は既に剣を振りかぶっていた……雄一は紙一重で回避する。
(くそっ! 速い!!)
玲那の一撃が余りにも速く、なんとか躱せたものの頬を浅く切られてしまった。
だが、雄一も反撃に出る。
彼女の隙を突いて剣を振るったが、難なく避けられてしまう……その後も何度か攻撃するが全て躱されてしまった。
(流石に玲那に無強化は無謀か……)
雄一は身体強化スキルを発動する。
さらに雄一は水魔術を発動させ、自信の血液量と循環スピードを加速させる。
全身が熱を帯び、身体周囲で蒸気が発生した。
更に心眼スキルによって、玲那の筋肉の収縮から行動を読み取ることに成功すると、次の攻撃を予測し剣を振る。
今までは手も足も出なかった雄一が、玲那に迫る。
そして今度は雄一の剣が玲那の頬を掠め、そのまま切り裂いた……彼女の頬から血が滲み、赤い線を描く。
だが、彼女は気にする素振りも見せずニヤリと笑った。
雄一は彼女の表情を見て、背筋に冷たいものが走る……明らかに今までとは雰囲気が違うのだ。
彼女の瞳には余裕が満ちていた。
まるで獲物を狩る豹のような鋭さと獰猛さを秘めているように感じる……そんな彼女の姿に、雄一は恐怖を感じた……
怖いのは当たり前だ、彼女は強敵なのだ……その認識を改めて、剣を握る手に力を込める。
玲那が先に動いた。
彼女は地面を蹴ると、一瞬で距離を詰めてきた。
あまりの速さに反応できず、気付けば彼女の攻撃を防ぐので精一杯であった……
彼女の剣が雄一の剣と激しくぶつかり火花を散らす。
そしてそのまま何度も剣戟をぶつけ合った。
まるで嵐のように繰り出される玲那の攻撃に、雄一は防戦一方であった。
彼女はまるで自分の手足のように、剣を振るう。
玲那剣技は美しく流麗だ。
それはまるで芸術品のような美しさがあり、見る者が見れば思わず感嘆の吐息を漏らすことだろう……
そんな玲那の剣と対照的に、雄一が放つ攻撃には荒々しさがあった……荒々しく、力強さを感じさせる。
玲那の攻撃には無駄が存在しない、故に洗練された美しさがある。
一方、雄一の攻撃には無駄が多かった……しかしそれは、一見無駄に見えるが実は何重にも施されたフェイントや、相手の思考の裏を突いた攻撃であった。
あえてリズムを崩させることで、相手にとっての想定外の動きをしているのだ。
どちらが優れているか、一概に言えない……
少なくとも雄一は玲那に技術では勝っていた。
だが、それでも玲那の才能には届かない。
玲那は雄一の攻撃を全て見切り、最小限の動きで躱してみせた。
そして、その隙を突くように攻撃に転じる。彼女の動きは全てが計算され尽くしているのだ。
「流石、雄一! やるねっ!!」
「玲那こそ……凄い剣技だ!」
二人は笑いながら戦い続けた。
互いに全力でぶつかり合い、そして時に相手を褒め合う。
それはまさに青春を謳歌する学生同士のようだった。
その後も二人の模擬戦は続いた……徐々に速く、苛烈になっていく攻防の中で雄一は玲那の剣術に驚愕していた。
(くそっ!! こんな剣技見たことがないぞ……玲那のやつ、明らかに以前戦った時よりも強くなってやがる!)
模擬戦を開始して、1分も経過していない……しかし、既に雄一は汗だくであった。
額からは大量の汗が流れ落ち、制服に染み込んでいく。
対する玲那も汗を流しており、頰を伝い顎から落ちた雫が地面にシミを作っていた。
しかし二人の表情に疲労の色は見えない……むしろその逆であり、生き生きとした表情をしていた。
「まだまだ、こんなものじゃないでしょう?」
「当たり前だ!」
雄一は身体強化スキルを更に強める。
全身の筋肉が軋み、血管が膨張する……骨もミシミシと音を立てていた。
そんな激痛に歯を食いしばりながら、雄一は剣を振るう。
「そう来なくっちゃ!! なら私も本気でいかせもらうよ! 『黄泉比良坂』!」
玲那が魔術を発動する。
その瞬間、辺りに夜の帳が下りたかのように薄暗くなった。
そして月光の様に、玲那の身体から溢れ出る魔力によって周囲が淡く発光する。
それは淡い紫色をしているため、まるで闇に咲く紫色の花弁のような美しい光景だ。
そして、雄一の視界に突如として現れた玲那の姿……彼女は今、雄一の目の前で剣を振り上げている。
(ーーっ!?)
咄嗟に反応した雄一は、剣を頭上に掲げることで防御することに成功した……しかし次の瞬間には、強い衝撃と共に吹き飛ばされていた。
地面に叩きつけられながら、雄一は訓練場の端まで転がっていき、ようやく止まった。
彼は急いで立ち上がると、玲那を見据える。
(ーーちっ!)
雄一は舌打ちをして、走り出す。
同時に魔力を練り上げていく……彼の持つ全魔力を注ぎ込む勢いで、身体強化スキルを発動したのだ。
「うおぉぉぉぉっ!!」
雄一は雄叫びを上げながら、玲那に迫った。
そして彼女の間合いに入るや否や、目にも止まらぬ速さで剣を振るった。
しかし玲那はそれを予測していたのか、最小限の動きで躱すと反撃に転じる。
(ーーここだ!)
「『聖の雷鳴』!」
雄一が放った魔術、それは光魔法であった。
玲那に向けて、光の刃が襲う……それを彼女は剣で防いだ。
しかし、それが狙い目であった……彼女から距離を取った雄一は、間髪入れずに第二波を放つ準備に入る。
「『天照の微笑み』!」
雄一が発動した魔法は、またも光属性の魔術であった。
これは、光を収束させてあたりに光線を放つもので、魔力消費も少なく使い勝手がいい。そしてそれを連射する。
玲那は雄一が放つ光線を、次々に弾くことで防御していく。
しかし、明らかに苦戦しているのが分かった。
それもそのはず、光属性の魔術は周辺を明るく照らしだす。
そのためユニークスキル《月詠》の恩恵を得ることが出来ないのだ。
ついに玲那が防御しきれなくなり、光線が彼女を捉えたーー
「ーーくっ!!」
彼女の身体は衝撃に耐えられず後ろへ弾き飛ばされた。
「まだまだ!!」
雄一はさらに、距離を詰めると玲那に向けて剣を振るう。
だがそれも何とか防がれてしまう……彼女は汗だくで、息も絶え絶えになってきているのが分かる。
「これで、決める!!」
雄一は最後の力を振り絞り、渾身の一撃を放った。
しかしーー次の瞬間には、彼の身体は地面に叩きつけられていた。彼の視界には、玲那の剣が首筋に突きつけられているのが見えた。
どうやら、彼女に負けたらしい……雄一は素直に降伏するしか無いようだった。
「俺の負けだ……」
******
***
模擬戦が終わり、二人は訓練場の端まで移動して座っていた。
玲那が持ってきていた水筒を貰うと、一息つくことができた。
雄一の隣に座っている彼女は、汗をかいており頰を上気させていたため少し色っぽく見えた。
そんな彼女の顔を見ていると、なんだか気恥ずかしくなり思わず目を逸らしてしまう……すると彼女はクスリと笑った。
雄一は咳払いをすると、話を切り出した。
「それにしても、驚いたよ。まさか玲那がここまで強くなってるとは思わなかった」
「ふふん! でしょう? まだ雄一には負けないんだからね!」
彼女は得意げに胸を張ると、ドヤ顔を浮かべた……そんな彼女を見ていると、つい笑いが込み上げてきてしまう。
(相変わらず、可愛い奴だな)
「ああ、完敗だ……それで、最後はどうやって俺を倒したんだ? まるで瞬間移動したかのよう動きだったが……」
「お! やっぱり雄一は感が良いね! そうだよあれは瞬間移動をしてるんだよ。『影の散歩者』っていう新しい魔術でね……効果は名前の通り、影の中であれば瞬間移動できるんだよ。まぁ、瞬間移動と言っても効果範囲は私の視界内だけど……」
「なんだよそれ! 反則じゃ無いか!」
「雄一だって、男なのにその強さは反則だ! 私が本気を出さないと勝てないのは、雄一くらいだぞ!」
「あははは、それを聞くと少し安心するは自分は弱く無いんだってね」
「もう、笑い事じゃないよ……雄一が強くならなくたって私が守るのに……」
「え!? なんだって。」
「な、なんでもない!」
玲那は頬を膨らませると、そっぽを向いてしまうのだった。
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