ヤンデレ白鳥
私の名前は白鳥雪葉、白鳥家の長女であり跡取りとして育てられてきた。
両親は非常に厳格な人たちで、幼い頃から遊ぶ時間などほとんどなかった……
習い事、それに訓練の日々が続き、友達と遊ぶことなど出来るわけがなく私は孤独を味わっていた。
私が反発すると両親は手をあげ暴力を振るった……私はいつも怯えていた。いつ殴られるか分からなかったから……
両親は美男美女であり、周りからもよくお似合いの夫婦だと言われていた。
だが……私は両親みたく美しくはなかった。
私には魔術の才能が有ったため、白鳥家から捨てられることは無かった。
それが幸福だったのかは私には分からないが。
学校では、当然のように酷いいじめを受けた。
物が無くなるなんて当たり前、机に落書きをされるのは日常茶飯事……教科書を破かれたことだってある。
他にも殴る蹴るの暴力、陰湿な嫌がらせ、そして下世話な噂話などたくさんの仕打ちを受けた。
だがそれでも私は誰にも反抗すること無く、耐えてきた。
逆らえばもっと酷い目に合うと分かっていたから……
自分が醜いことは自分が一番理解していたのだ。
家にも学校にも居場所の無い私は自分の能力を活かせる、士官学校に入る事を決めた。
士官学校は全寮制だ。
そして卒業すれば、士官になることが出来る……
士官になれれば、白鳥家の力を借りなくても生きていくことが出来ると考えていたのだ。
私は帝国騎士団士官学校に首席で入校した。
そして、学校では寮で一人部屋に住める権利が与えられた。
これは私にとっては何よりもありがたいことだった。
一人で生活できるスペースがあるのだから……私はイジメられることもなく安心して部屋で過ごすことが出来るのだから。
私の士官学校の生活は、最初は順風満帆だった。
だからだろう、私は浮かれていたのだ。
私は人生で初めて恋に落ちたのだ。
彼の名前は、榊原雄一……彼は次席で入学した天才だった。
いや、平民出身であることを考慮すると彼が主席だったのかも知れない。
平民は貴族でないという理由だけで減点対象となり、士官学校に入校するのは貴族の比ではないのだ。
彼は成績が優秀だけでなく、容姿も端麗だった。
私はそんな彼に恋をしていた。
こんな醜い私を好きになってくれる訳が無いと分かってはいたけれど……それでも私の心は彼に惹かれていったのだ。
そして、あの日……私は歪んだ感情に支配された。
絶対に彼と付き合える訳がない、そう分かっていたから、私は彼の下着を盗んでしまったのだ。
彼のモノを使って自分を慰めないと、やってられなかったのだ。
物凄く興奮したことを覚えている。
私は自分の感情を抑えることが出来なくなり……何度も自分を慰めてしまったのだ。
そして、休日の朝……私は図書室で本を読んでいた。
本を読むのは好きだった。
本を読んでいる間は、現実から目を背けることが出来たからだ。
私はお気に入りの恋愛小説を読んでいた。
この恋愛小説には、主人公が片想いの相手に告白するシーンがあった……私はそのシーンを自分に置き換えて妄想したのだ。
彼が私の告白に頷いてくれる場面を何度も何度も想像する度に、顔が熱くなるのを感じたのだ。
妄想がピークに達した時……ふと図書室の入り口から神楽坂さん達が入って来るのが見えた。
神楽坂さんは成績優秀で、容姿も端麗だ……私は彼女に嫉妬していたのだ。
だから、彼女が榊原君の事を好きなことはすぐに分かった。
正直、勝てる気はしなかった。
私と神楽坂さんの容姿の差は月とスッポン。
私の存在に気がついたのか、神楽坂さんがこちらを見た……その視線には明らかな悪意と嫌悪が込められていた。
他人の目ばかりを気にするように生きてきた私は、いつしか目を見るだけでその人が何を考えてるいるのか分かるようになった。
といっても私を見た人間はみんな嫌悪の感情を抱くので、得することは一度も無かった。
私は本を読むフリをしながら、彼女が居なくなるのを待った。
足音はどんどんは近づいて来る……足音の数からして神楽坂さん以外にもいるらしい。
私は早く居なくなってくれと願う……だが、その願いは叶わない。
神楽坂さん達は私を取り囲んだ。
(最悪だ……)
私の心臓は激しく脈を打った……これから起こるであろうことは容易に想像出来るからだ。
彼女達はきっと私を虐めてくる、今までもそうだった。
私に侮蔑の視線を向けた人は必ず私を虐めてきたのだ。
怖い……またあんな目に合うのは嫌だ。
そんな恐怖心が私の心を支配る……だが逃げることは出来なかった。
彼女達から逃げたら余計に酷いことをされるのは目に見えていたからだ。
私は俯いて、時が経つのをただ待つことしか出来なかったのだ。
「ねぇ。どうしてここにあなたみたいなブスがいるの? あーここっていうのは図書室のことじゃ無いわよ。この帝国にってことよ!」
神楽坂さんはそう言うと私を嘲り、取り巻きの人たちも笑っていた。
私は俯き、それに黙って耐える……ここで反抗すれば事態は悪化するだけ、だから我慢するしかない。
「なんとか言えよ!」
「きっゃぁ!」
神楽坂さんの横にいた取り巻きの一人が、私の髪を掴んで無理やり私を立たせた。
私はされるがまま立たされる……そして取り巻きの人たちは、私を見ながら笑い始めた。
もう嫌だ……死にたい……
私は今にも泣き出しそうな表情を浮かべてしまう。
そんな私を見て彼女達はさらに笑う。
私には彼女達の笑い声が地獄から響く悪魔の嘲笑のように聞こえた。
何時間にも思えるような間、私は彼女達から罵倒され続けた。
「それにあんた、榊原君のことオカズにしてるでしょ?」
「ど……どうしてそれを……う、うぅ……」
神楽坂さんの突然の発言に私は驚き、顔を上げた。
バレていた……私の醜い感情まで全て知られていたのだ。
私は絶望のあまり、自分の顔に表情がなくなっていくのを感じる……この場から消えてなくなりたい。
「うわぁ、榊原君可哀想……あんたみたいなキモい女からオカズにされてるなんて……」
それなのに神楽坂さんたちの言葉が私を逃さない。
言葉はまるで蛇のように私の心に絡みつく……逃れることを許さないのだ。
私は何も考えることが出来ず、ただ謝った。
それでも彼女達は私を許してくれない。
「はぁ!? 謝るのは私達にじゃ無いでしょ? 榊原君に謝りなよ!」
「そうよ! オカズしてごめんなさい! 好きなっちゃってごめんなさい! ってね!」
「それ最高ー! 土下座確定じゃん」
ごめんなさい、榊原君……本当にごめんなさい! もう許してください。
もう私を苦しめないで!……私の心はもう完全に折れていたのだった。
だというのに神様はさらに残酷な運命を私に課した。
私が顔を上げるとそこには榊原君の姿があった。
あああ、彼に全てを知られてしまった……私はそう思った瞬間、今まで一番胸が締め付けられた。
好きな人からの侮蔑。
目を見れば分かってしまう。
彼はとんでもない侮蔑の視線を向けていた。
自分が一番恐れていた事が現実となったのだ……私は彼に嫌われた、そうに違いない。
もう生きていけない……目の前が真っ暗になるのを感じた。
「おい、 お前ら……いい加減にしろよ」
榊原君の声が静かな図書室に響いた。
神楽坂さんを含めた取り巻き達は一斉に彼に注目した。
だが、私は顔を上げることが出来ない。
彼の顔を見る勇気が無かったから……彼が私の顔をどのように見るのか想像しただけで心が張り裂けそうになるから。
「な、なにしてるの? 榊原君? い、痛いよ……」
瞬間……私の髪から神楽坂さんの手が離れる。
私は何が起きたのか分からなかった。
勇気を振り絞りそっと顔を上げた……そして目に映った光景に言葉を失ったのだった。
私の目を釘付けしたのは、神楽坂さんを見下ろしながら憎悪を孕んだ瞳で睨みつけている榊原君の姿だった。
榊原君は、神楽坂さんの腕を掴み持ち上げていたのだ。
彼は私を守るように彼女の前に立ち、怒りの視線を向けていたのだった……そんな彼を見て私の心に希望の光が差し込み始めるのを感じた。
「なんで白鳥に酷いことするんだ? このクズ女が」
榊原君の怒りは、完全に神楽坂さんたちに向けられていた。
私は信じることが出来なかった、榊原君が私を助けるためにここまで怒ってくれていることを……
信じたい気持ちはあった。
だけど、私にそこまでする価値なんて無いから……きっと何かの間違いなんだと自分に言い聞かせた。
いつだってそうだ、希望を持てばその度に裏切られる。
榊原君が私を助けようとしてくれているのは、ドッキリか何かに違いない……
きっとそうだ。
そうでなければ、おかしいのだから……私はいつも誰かに嫌われてきたのに……榊原君がみたいなブスを助けてくれる訳がない! 私の中の冷静な部分がそう叫んでいた。
「失せろ」
気がつくと神楽坂さん達は、図書室から消えていた。
「白鳥、大丈夫か?」
榊原君は私に声をかけた……そして、私は雷に打たれたような衝撃を受ける。
いつも私に向けらる感情は怒りか侮蔑、もしくは哀れみを含んた侮蔑の眼差しだけだった……だけど、彼が私に向けた視線は優しさに包まれていた。
それを見た瞬間、今まで見てきた世界は完全に崩壊した。
私の世界は音を立てて崩壊してしまったのだ……私は彼の優しさに耐えきれず、涙腺が決壊したかのように泣き出してしまったのだった。
彼がハンカチを渡してくれる。
私はそれを受け取ると、涙を拭った。
だけど涙が止まることは無かった、一度決壊した涙腺は止める術を持ってはいなかったのだ。
私は子供のように泣き出してしまった、そんな私を見て彼は優しく頭を撫でてくれたのだった……その手の感触に心が温かくなるのを感じた。
初めて感情だった。
他人から優しくされたのは、生まれて初めてのことだった。
この優しさを知ってしまったら、もう今までの私ではいられない。
彼無しでは生きていけない!
好きという感情が波のように押し寄てくる。
……彼の優しさは私を溺れさせた、もう元には戻れないくらい深く沈んでしまった。
私の人生全てを榊原君のために捧げようと、心の中で誓ったの。
私が彼にどんなに好意を寄せていようとも、彼が私を好きになることは絶対に無いのだろう。
それでも構わない。
一生、彼の傍で生きていきたい、その気持ちだけは揺るがなかった。
私の中には、彼しか居ないのだ。
それ以外は要らない。
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き。
私だけを見て欲しい。
私のことだけを考えて欲しい。
私に夢中になってほしい。
私が彼の全てを支配したい……そんな気持ちだけが私を支配していくのだった。
その感情は、今まで私が生きて来た中で一番強いものだった。
私の人生は全て彼のために存在しているのだ……彼以外は考えられないし、考えたくない!
誰にも渡すもんか、彼は私だけのものだ。
私以外の女なんかに彼が好意を向けるなんて許さない! そんな考えは頭をよぎり、私はそんな自分を止めることが出来なかった……それほどまでに榊原君を好きになっていたのだ。
だから、彼には私だけを見て欲しい。
他の女の子に目を向けるなんてことは絶対に許せない。
もし彼が私以外の女の子に好意を寄せてしまったら……私はきっとその相手をメチャクチャにしてしまうだろう。
大好き♡ 榊原君♡ 愛してる♡
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