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美醜逆転

基本的毎日投稿します。どうぞよろしくお願いします。

今日はあと一話投稿します。

 士官学校での生活も1週間が過ぎ、雄一は士官学校での生活にすっかりと慣れていた。


 士官学校での授業は、魔術や剣術といった戦闘技術に重きを置いた授業が主だった。


 雄一にとってそれらは得意分野であり、全ての戦闘技術試験において満点の成績をおさめていた。

 

 容姿端麗で成績優秀な雄一は、あっという間に女子生徒達の憧れの存在になっていた。


 最初の頃は平民出身の雄一を疎ましく思う人間も当然いた。 


 特に貴族階級出身者は、成績優秀な彼に対して不満を抱いていたようだった。

 

 雄一はそんな相手にも優しく、差別なく接していた。


 そして彼のその性格は、多くの女子生徒の心を掴むことになった。


 そんな雄一の日常は、基本的には学校の授業と訓練、それから放課後に寄宿舎に帰っては自主練をするという毎日だった。


 今日もいつものように一日の授業を終えると、雄一は寄宿舎へと帰宅した。


 そして自分の部屋へと戻った雄一は制服から普段着へと着替えると、部屋に備え付けられている机へと向かった。


 そんな時のことだった。部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。雄一は、ペンを置いて椅子から立ち上がると、ドアへと向かった。


 そしてドアを開けるとそこには、隣の部屋の九条院晴人(くじょういんはると)が立っていた。


 晴人は、雄一と同年代の少年だった。彼は貴族階級出身であり雄一が気兼ねなく接することの出来る、数少ない友人の一人だった。

 

「雄一、勉強中悪いんだけど、少しいいかな?」


「別に構わないけど……」


「ありがとう! 実はちょっと相談したいことがあってさ」


 晴人はそう言うと、部屋へと入ってきた。


 そしてそのまま部屋の中央に置かれたテーブルの椅子に腰をかけると話を始めた。


 雄一も晴人に倣って椅子に腰をかけると、彼と向かい合うように座ったのだった。

 

「それで、相談って何だい?」


「ああ、来週のパーティの事でちょっとね……」


「パーティ?」


 晴人の口から出た言葉に雄一は首をかしげる。すると、晴人は言葉を続けた。


「ほら、士官学校に入学した僕達の歓迎会みたいなアレだよ」


「ああ、そう言えばそんなのあったな……」


 そこまで言われてようやく雄一は思い出した。


 士官学校に入学してからというもの、何かと忙しくしていたため、こういったイベントには全く興味がなかったのだった。


 しかし晴人は違うようだった。彼は目を輝かせると、興奮気味に口を開いた。


「士官学校って貴族階級が多いから、こういうネゴシエーションの場が結構重要なんだよ。ここでの振る舞い方一つで、出世に繋がったりするんだ」


「へぇ……そうなんだ……」


 晴人の言う通り、士官学校には貴族階級出身者が多い。


 そのため、彼らの階級社会に馴染むことが出世への近道と言われているのだ。


 雄一もそういう事情は理解しているつもりだったが、しかし関心を持てるほどではなかった。


「それで、そのパーティに一緒に行く相手で悩んでてさ……ほら女子と一緒に行くと勘違いされかねないし、どうしようかと思って……」


「ああ、そういうことか。女子に勘違いされて婚姻されたくないから、男子である俺と行きたいと」


「そういうこと! 実は俺、もう嫁ぎ先は決まってて、新たに婚姻されると非常困るんだよ……」 


 晴人は苦笑いを浮かべると、頬を掻いた。


 貴族階級出身者は政略結婚のために既に嫁ぎ先が決まっている場合がある。


 平民である雄一には関係のない話であったが、話を聞く分には貴族である晴人も大変そうだと雄一は思った。

 

「そういう事なら構わないよ。実は俺も、まだ相手を見つけられてなかったから丁度よかったよ……」


「あ、そうなんだ! ならちょうど良かった! でも雄一なら選びたい放題だろ? 誰か気になって子とかいないのか?」


「うーん、特にはいないかな? でも、強いて言えば玲那かな? 幼馴染だし」


 雄一がそう言うと、晴人は明らかに嫌そうな顔を浮かべた。


「おいおい、嘘だろ雄一! 確かに彼女は成績は優秀だけどお前と全く釣り合って無いぞ! 長い黒髪はツヤツヤでサラサラだし、胸は大きいくせに体全体はほっそりしてる。おまけに色白で肌はみずみずし。良く筋の通った鼻にまんまるで大きな瞳に薄い唇! こんな美人と正反対の容姿をしてちゃ、流石にキツいだろ……一体どこが良い言うんだ?」


 玲那の容姿を一つ一つ説明しつつ、全力で雄一に抗議する。


 雄一からしたら、晴人が説明した全てが玲那の良いところであり可愛いところだった。


 そんなことを晴人に説明するわけにもいかず、雄一は適当に誤魔化すことにした。


「ま、まぁ見た目だけじゃなく、玲那は性格だって良いし……」


「そうか? 俺には冷たくておっかなそうな性格に思えるけど……」


 そう言うと晴人は、腕を組んで首を捻った。


 確かに玲那はあまり愛想が良いタイプではないし、人当たりも良いとは言えない。


 しかし、それはあくまで表面上の話だ。


 少なくとも玲那は俺には優しい。優しすぎて過保護な面があるのは、ちょっとアレだけど……


 そんな事を思いつつも雄一はそれ以上口にする事はなかった。


「俺は雄一には神楽坂さんがお似合いだと思うけどな……」


「いや、神楽坂さんこそありないよ」


「はぁぁ? 正気か雄一? あの神楽坂さんだぞ! 髪はベトベトでパサパサ、お腹は出ていて胸は絶壁!色黒でカサカカした肌! 小さい目に分厚い唇! おまけに家柄も良い! 完璧な美少女じゃないか!!」


 雄一には、晴人が神楽坂がいかに酷い人間なのか熱弁したようにしか聞こえ無かった。


「俺は玲那の方がよっぽど可愛いと思うけどな……」


「いやいや! 絶対に神楽坂さんの方が上だね!」


「いやいや、そんなことないよ。玲那の方が可愛い」


「いやいやいや! 神楽坂さんだろ! ……待てよ、香月が可愛いって言うならお前もしかして白鳥雪葉(しらとりゆきは)まで可愛いって言うんじゃ無いだろうな!」


「白鳥?」


「ああ、白鳥雪葉だ! 知らないのか? 本当にお前は何も知らないな……」


 晴人は呆れた顔で雄一を見つめてから、溜め息を吐いた。


 やれやれと頭を横に張る。


「白鳥家は、帝国きっての天才魔術師の家系だぞ。中でも白鳥の天才っぷりは凄まじく魔術適性は基本の三属性に加えて、光と闇の二属性を足した五属性だ」


「そりゃ凄いな……」


 雄一は素直に感心した。


 魔術適性が二属性以上あるのは、貴族階級出身者でも少数だ。


 ましてや五属性というのは世界にも数えれるほどしかいないと言われているほどの希少性なのだ。


「ああ、確かにすごいが……彼女は帝国で一番醜い貴族として有名なんだよ。」


「え?」


 雄一が驚きの声を上げると、晴人は呆れた様子で話を続けた。


「白鳥雪葉の容姿は、一言で言えば化け物だ。彼女の容姿の酷さは、社交界じゃ有名な話だ。 透き通るような長い銀髪に、まるで宝石のような青い瞳。そして傷一つない白い肌。大きな胸と引き締まった腰。実際に見たらみんなドン引きするレベルの醜女だ。そんな奴が同期なんて最悪だぜ……」


 そこまで話した晴人は、再び雄一に視線を向けた。


「なぁ!? 流石の雄一も白鳥を可愛いとは絶対に言わないだろ?」


「い、いやぁ……その……」


 (めちゃくちゃ可愛いと思います)


 なんて言えずに雄一が返答に困っていると、晴人はニヤリと笑みを浮かべた。


 そして嬉しそうに言葉を続けた。


「やっぱりな! 雄一でも白鳥は許容範囲外か! よかったよ雄一もちゃんと一般的な美醜感を持っていて!」


「あ、ああはは……」


(一般的な美醜感を持ってないのは晴人だと思います!)


 なんて言えるわけもなく雄一は適当に頷いた。


「それじゃパーティの件よろしくな!」


 そう言うと、晴人は意気揚々と部屋を出て行った。雄一はそんな晴人の後姿をただ見送ることしか出来なかった……


 

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今日はあと一話投稿します。

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