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香月玲那の試験

 雄一と白鳥が妖人と戦っていた時とほぼ同時刻。


 香月玲那も戦いの最中にあった。


 玲那も雄一と同じように朝の特訓を日課にしていた。


 士官学校にあるに併設されている訓練場で、玲那は今日もいつも通りに一人で鍛練を行っていた。

 

 だが、その途中で異変が起こったのだ。


 突然地面が激しく揺れ始めたのだ。


 突然のことに驚きながらも、玲那は冷静に周囲を確認する。


 しかし、異変は玲那の立っている真下で起こっていた。


 玲那が立っている地面が崩れ、ぽっかりと大きな穴が空いたのだ。


 そして、その穴から巨大な何かが這い出てきた。

 

 それは一見すると蛇のようにも見えたが、上半身は人間の女性の形をしていて、下半身はまるで大蛇のように太く長かった。


 さらに、その巨大な体躯には無数の鱗があり、鋭い牙や爪を持っていた。


「な、何よこいつ!?」


 玲那は驚きながらも、すぐに臨戦態勢をとる。


「グォオオオオオオ!!」


 巨大な蛇の怪物は咆哮を上げると、その長い身体をうねらせながら玲那に襲いかかってきた。


「くっ!」


 玲那は素早く後ろに飛び退くが、完全に避けることはできなかった。

 

 鋭い爪が頬を掠めると、そこから血が流れ出す……


「私に傷を負わすなんて、中々やるじゃない……」


 玲那は頬の血を拭うと、再び構えをとる。すると、怪物は再び襲いかかってきた。


「今度はこっちの番よ!」

 

 玲那は素早く踏み込むと、一撃を放つ……しかし、その攻撃は空を切っただけだった。


(外した!?)


「グォオオ!!」

 

 怪物は雄叫びを上げながら、玲那に襲いかかる。

 

「しまっ……」


 迫り来る鉤爪を躱すことができず、咄嗟に腕を交差させて防御の姿勢をとる……次の瞬間、凄まじい衝撃が玲那を襲った。

 

 吹き飛ばされた玲那は地面を転がりながら、なんとか体勢を立て直す……しかし、その腕からは血が流れ出していた。


 怪物は再び玲那に襲いかかる……今度は鉤爪ではなく、長い尾による薙ぎ払いだった。

 

 玲那は横に飛んで躱すことができたが、その隙を狙っていたかのように怪物は口から大量の毒液を吐き出した。


(まずい……!)


 玲那は瞬時に横に飛ぶが、避けきることができず右足に毒液を浴びてしまう。


 その瞬間、焼けるような痛みが右足にはしった……


「ぐぅううっ!」


 玲那は歯を食い縛りながら、痛みに耐える……毒液がかかった右足は火傷したかのように爛れていた。


「はぁ、はぁ……」


 荒い呼吸を繰り返しながらも、玲那は怪物を睨みつける。


「よくも、やってくれたわね……」


 玲那は剣を構え直すと、再び怪物に向かって駆け出す。


 そして魔術を発動させる。


「『黄泉比良坂』『夜帳』『月夜』『闇夜』『暗夜』」


 闇魔術を重ね掛けし、辺りを暗闇にする。


 ユニークスキル《月詠》の効果を最大限まで上げるためだ。


 そして、さらに身体強化の魔術も発動させた。

 

 一瞬にして玲那の姿が消え去り、次の瞬間には怪物の背後に回り込んだ。


 そして、目にも止まらぬ速さで剣を振るう。


 その一撃は怪物の硬い鱗を斬り裂き、鮮血が飛び散った……だが、浅い傷を与えただけだった。

 

(これでもダメか)

 

 玲那は再び距離を取り構える。すると突然、今度は怪物の方が動き出したのだ。


 長い胴体を鞭のようにしならせて、玲那に向かってくる。


 その攻撃は正確に玲那の位置を捉えていた。


(厄介ね……化け物だから夜目が効いて、この暗闇でも私の位置がわかるのだわ)


 でも、と玲那は思った。


(この怪物は、私より弱い……)


 そして、戦いは終わりを迎える。


 玲那は怪物に向かって駆け出すと、《月詠》のスキル効果を自分の刀にのみ集中させる。


 その刀で一閃。

 

 怪物の鱗が裂けて鮮血が飛び散る……さらに続けてもう一撃を放つと、今度は相手の体を真っ二つに切り裂いた。

 

 傷口から大量の血が流れ出す……だが、それでもまだ怪物は生きていた。


 最後の力を振り絞り玲那に襲いかかる。

 

 だが、その攻撃は玲那には届かなかった。

 

 玲那の攻撃には三撃目があったのだ、怪物が気が付かないほどの速さで放たれた三撃目によって、怪物は頭を二つ割られ絶命した。

 

 玲那は一息つくと、自分の右足を確認する……傷口からは未だに血が流れ出ていたが、魔術で治癒できる範囲だった。


(これなら大丈夫そうね)


 そして、玲那は自分の周りに展開させていた闇魔術を解除すると、辺りは再び春の陽光に照らされた。


「ふぅ、何とか勝てたわね……」


玲那は一息つくと、怪物の死体に目を向ける。


(それにしても……あの化け物は何だったのかしら?)


玲那がそんなことを考えていると、突然背後から声をかけられた。


「あ……あの、ご……合格です……す……おめでとう……ございます」

 

 玲那が驚いて振り向くと、そこには一人の少女がいた。


 その少女は小柄で、黒い前髪で片目を隠している。


 着ている軍服はサイズが合ってないのかブカブカで、袖からは手が出てなかった。


 口調はどこかオドオドしていて、声も小さい。

 玲那が驚いていると、少女はさらに言葉を続けた。


「わ、私の名前は……さ、笹原可憐(ささはらかれん)……です。帝国騎士団、第一師団に所属してます……よろしくお願いします」


「え、ええ。よろしく……」


 玲那は戸惑いながらも挨拶を返すと、笹原可憐と名乗った少女は再び口を開く。


「そ、その……榊原さんの戦闘を見ていましたが、お強いですね……試験は合格です……香月さんには、伊邪那美討伐の部隊に入ってもらいます……よろしくお願いします」


「……は?」


 こうして玲奈も雄一と同じく、【黄泉の国】に入国する試験に合格したのだった。



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