第九話 吸血の都
私ヴァンパイアッ( `・ω・´)!
日が、暮れた。
それと同時に、どこからともなく沸き出す大量の蝙蝠。闇夜に蝙蝠でできた黒い渦が、幾多も現れる。
「ガキャァェ!!」
「っ!?」
後ろから叫び声が聞こえ、とっさに振り向く。青白い肌をした男が、私へと襲い掛かってきた。
理性のない瞳、口の中にある牙。レッサーヴァンパイアだ。
「はっ!」
私は瞬時に男に剣を振り抜く。弱い。単純な刃物では効きづらいのだろう。
「神聖付与」
剣に魔法で聖気を纏わせ、もう一度斬りかかる。スパッと、レッサーヴァンパイアの体が真っ二つとなり、切り口が灰へと変わった。これでもうこの吸血鬼が動き出すことはない。
「キャー!!!」
「止めろ!助けてくれー!!」
町中から悲鳴が聞こえる。急がなきゃ。
「グゴァ」
「ギュグェ」
そんな私の行く手を阻むようにして、大量のレッサーヴァンパイアが襲い掛かってくる。一体一体は大したことはないんだけど、とにかく数が多い!
「加速15!」
一気に加速し、回りのヴァンパイアをまとめて切り裂く。レッサー程度なら、聖気の付与した剣なら軽く触れれば倒せる。
「大丈夫ですか!?」
私は悲鳴の聞こえた方へと急行し、住民を助ける。
「家の中へ逃げて!レッサーなら扉を閉めれば入ってこれないから!」
そうしている間も悲鳴は聞こえ続け、私には大量のレッサーヴァンパイアが襲い掛かってくる。
(・・・一体どこに潜んでいたの?)
そんな疑問が頭によぎり、私を焦らせ続ける。民家は全て回ったはずだ。公共施設や宿、商店だって。その度に潜んでいた吸血鬼は倒してきた。
それなのに、何故?
「グルルァ!!」
!?
斬りつけた個体の中に、レッサーじゃないヴァンパイアがいた。その匂いが気になった。私は足を止め、ヴァンパイアの死体の匂いを嗅ぐ。
「、、、臭い。トイレの匂い?」
何でヴァンパイアから?トイレの匂いがする場所に潜んでいたとでもいうの、、、?
、、、、、、!?
「下水道!?」
合点がいった。そうか、成る程って。下水道。そこならあり得る。
下水道に大量に吸血鬼を忍ばせておいて、夜になった瞬間に外にだす。外に出た吸血鬼が住民の血を吸い、レッサーヴァンパイアを量産する。そうして眷族を増やす度に、吸血鬼は強くなっていく。
民家の中に人として吸血鬼を忍ばせておいたのも作戦だったのだろう。
違和感に気付かず、キフトム滅亡の影響だと勘違いすればよし。違和感に気付き、対応に走ろうと、どうせ民家を回る間に日は暮れるので下水道から溢れさせればよし。何らかの要因で、下水道に入ろうと、そこは日光の当たらない吸血鬼の領域。潜んでいた大量の吸血鬼で殴り倒す。できなくても地上に出てくる頃には日が暮れているから、民家の吸血鬼に暴れさせ、第二ラウンドの開始。
相手の方が二枚も三枚も上手だったことがわかる。私たちがきた頃合いを見て作戦を実行する。これは実行犯が現地に居なければできない。多分、キフトムから動いていないというのもブラフだったのだ。私たちの注意をキフトムへ向けさせるための。
「キシャァ!!」
「グルルァ!!」
襲い掛かってくる吸血鬼はどんどん強く、多くなってきている。早急に対処しないと、いずれこちらが力尽きる。
「エルカ!!」
「リリア!ヘーネ!」
しばらくの間、住民の救助に回っていると、リリアとヘーネがやってきた。二人ともボロボロで、救助に駆け回っていたことがわかる。
「エルカ!大丈夫だったか?」
「うん。もちろん。そっちは?」
「私もリリアも別状ないですわ。それよりエルカ、首魁の居場所はわかりましたの?こうなってしまえば、ちまちまと吸血鬼を倒すよりも、首魁を討ってしまった方が早いと思うのですが、、、」
「うん。だいたいどこに居るかはわかってるよ。」
ヘーネの言うように、ヴァンパイアは一部の例外を除いて、上位の吸血鬼を倒すとその眷族ごと滅ぼせる。町に広がっているレッサーやノーマルのヴァンパイア程度なら、一掃できる。
そして、今回の実行犯。首魁となる吸血鬼の居場所はおおよそわかっている。そこはーーーー
「私たちが見回っていない場所。敵は恐らく領主館にいる」
そう。多数の兵士に守られ、恐らく町で一番安全な場所。だからこそ、盲点となりやすい場所、領主館。そこにいる可能性が一番高いのだ。
「エルカ、頼んだぞ。私とヘーネは再び救助に戻る。その間に、、、」
「もちろん。任せてよ。この勇者にね」
リリア達との会話を終えると、私はすぐさま走り出した。領主館へと向かって。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
領主館へ着くと、閉ざされた門の前に、二体の兵士の格好をした吸血鬼がいた。元は門番だったであろうヴァンパイアは、私と目が合うと襲い掛かってきた。この様子を見るに、領主ももう吸血鬼になっているかもしれない。
私は何人もの吸血鬼を切り捨て、走った。執事、メイド、兵士。恐らく、この館に仕える全ての人が吸血鬼に変えられてしまったのだろう。
私は襲いくる吸血鬼を切り捨て、館内を駆け巡る。首魁である吸血鬼を探して。
しばらくそうしていると、ふと、一際豪華な扉が目に付いた。恐らく応接室か来客用の部屋だと思う。
私は勢いをつけ、扉を開け放った。
果たして、吸血鬼はそこにいた。
銀色の髪を月明かりで輝かせ、その両の瞳は血のように紅い。人一人を椅子にして座る堂々たる姿は、他のヴァンパイアとは格の違う空気を纏っていた。
「ん~?あっれ~☆勇者ちゃんじゃ~ん☆遅かったね~☆ミルド砦だっけ☆連絡、結構早く行ってたんじゃないの~☆来るの遅いよ☆だ、か、ら、私がこの町、名前なんだっけ?まいいや、とりあえず占領しちゃいました~☆イエー☆」
キャハキャハと、目の前の吸血鬼は嗤う。私を見下すようにして。
「あっ勇者ちゃん☆私の好物って知ってる?知らない?じゃあ、シンキングターイム☆」
チクタクチクタクと唱える吸血鬼をよそに、私は小声で魔法の詠唱を行う。
「答えはね~☆人間の生き血♪」
「ムグー!」
ニタリと笑う吸血鬼の横に、猿ぐつわを噛まされ、手足を縛られた少女が連れてこられた。
「とゆーわけで☆今から吸って行きたいと思いま~す☆」
「聖光滅裁波」
聖光滅裁波。聖魔法に属する魔法。悪しきを滅ぼし、正義を生かす。要するに、人間には無害だけれど、魔族には有効な魔法だ。そして、特にアンデッドやヴァンパイア等といった不死者に効果的な魔法でもある。
それが、吸血鬼に向かって、放たれーーーーーー無かった。
「え?」
カプリ。チュウチュウ。そんな擬音が聞こえてきそうな気軽さで少女の首から吸血鬼は血を吸う。呆然とする私を覚めた目で見ながら。
「プハァ☆あのさぁ、私、勇者を前に何の対策もせずにペラペラペラペラ喋れる程肝据わってないよ~?なーに普通に魔法放てると思ってるの?私ビックリしちゃった☆そーゆーのはまず自分の状況確認してからじゃないの?ちゃんと動けるのかどうかとかさぁ☆」
吸血鬼の言葉を聞き、私は体を見渡した。すると、体の至るところに赤い魔力の帯が巻きついていた。
(拘束魔法!?)
私は自分の血の気が退いていくのを感じた。魔法も封じられている。身動きもできない。これでは飛んで火に入る夏の虫ではないか。
「ん~☆あーもーいいや☆めんどくさくなっちゃった☆勇者ちゃんに期待した私がバカだったんだね☆もういいよ☆死んで?」
次の瞬間、私の目の前が赤く染まった。
もっと威圧感というか重圧感というか、、、緊張感というか、そういうものを文字で表せるようになりたいです。




