第27話 基地入口
「カーンのおっさん、次弾装填は終わってるのか?」
「やかましい! 今、やってる!」
ダニエルとカマル・カーンのやり取りを聞きながら、僕の頭の中には僕たちの攻撃でバラバラに破壊される強襲揚陸艇のビジョンが浮かんでいた。そして、元気で明るいイザベル・イングラム二等兵の姿も。
イザベルを危険にさらしたくはなかった。
しかし、ここにいる連中の安全を確保するためには、あの強襲揚陸艇は何としても退けなくてはならない。何せ指揮官は、敵には一切の容赦をしないレオンハルト・レンバッハ大尉なのだ。あの肉食獣のような男なら、カマラちゃんのような少女や採掘作業員のお年寄りが相手であっても、躊躇なく電磁誘導ライフルの引き金を引くだろう。
だから、僕はやらなければならない。
僕は、心の中で『イザベルだけはきっと大丈夫』と何の根拠もない都合のいいおまじないを必死で唱え続けていた。
「次弾装填完了」
「カマラちゃん、タイミング任せる。いけそう?」
カマル・カーンの報告を受けて、僕はカマラちゃんに通信機で話しかけた。
「う~ん、回避運動がひどくて、狙いが定まんない」
強襲揚陸艇は質量が小さいから、巡航艦や駆逐艦よりも、ずっと小回りが利く。
回避運動も頻繁に、かつ、激しく行うことができる。そして、操縦桿を握っているのはリヒャルト・リシャーネク軍曹だろう。油断など欠片も期待できない。
「装甲擲弾兵は、必ずこの基地内部に侵入を図る。強襲揚陸艇がマスドライバーの射出口から入ってこようとするはずだ。その時がチャンスだ」
逆に強襲揚陸艇にとっては最悪の瞬間だ。
こちらの武器は重装甲の宇宙巡航艦にすらダメージを与えることができるのだ。小型の強襲揚陸艇など、ひとたまりもない。
そこまで考えてから、ふと彼らが黙ってやられるわけがないことに思い至った。彼らだって、こちらの武器の威力は重々思い知っているはずだ。
「強襲揚陸艇はミサイルを装備している。コンテナの搬入は中止して宇宙港の出入り口は閉鎖した方がいい。ミサイルを撃ち込まれたら、大惨事だ」
「わかった」
カマラちゃんの声に続いて、カマル・カーンの不機嫌そうな声が響いた。
「おい、大丈夫なんだろうな!」
それは自分の娘に危険は及ばないだろうなという意味だろう。
「次に砲撃したら次弾装填はなしです。カーン親子は直ちに輸送船オフィーリアに避難してください」
「じゃあ、俺はもう娘を迎えに行く。俺たちを置いて逃げたりすんなよ!」
「あったりめーだ!」
カマル・カーンの発言に言い返したのは僕ではなくダニエルだった。
必要なことを差配し終わった僕の心は脱力感に襲われた。引き金を引くのはカマラちゃんだが指示したのは僕だ。イザベルにもしものことがあったら僕は自分のことが許せるだろうか?
「小惑星アエトラ表面に軍事施設なし」
強襲揚陸艇の中にリシャーネク軍曹の声が響いた。
私も光学モニターに映し出された小惑星アエトラの様子を目を皿のようにして見ていたが、多数のクレーターに覆われたいびつな小惑星の表面に人工物は見当たらなかった。要塞砲の砲塔はおろか、ミサイル発射管の姿すら見当たらないのだ。
「偽装しているはずだ。よく探せ!」
レオンハルト・レンバッハ大尉は、厄介ごとを何でも軍曹に押し付ける。
私は不快感を感じながら、さらに光学モニターに注意を凝らした。
宇宙巡航艦ペルセウスを大破させたのは、恐らく電磁誘導砲だ。そして、偽装しているとしたら恐らくクレーターだろう。私は不自然なクレーターにヤマを張った。
小惑星の周りを何周しただろう。
いつ攻撃されるかわからない時間は、とても長く感じられた。
強襲揚陸艇の内部は静まり返り、みんな光学モニターに、赤外線センサーに、レーダースクリーンに、神経を集中させていた。
「レールガン発射によるものと思われるジュール熱を探知!」
静寂を破ったのはリシャーネク軍曹だった。
私は近くのクレーターを食い入るように見つめた。
「前方、左のクレーターに異常を発見! 他に比べ深すぎます!」
私は強襲揚陸艇よりも大きなクレーターが、すり鉢状でないことに気づいて声を上げた。
「確かに、天然のクレーターとは思えないな」
スコット上等兵が、すぐに同調してくれた。
「クレーター内部にジュール熱を確認」
リシャーネク軍曹が素早く裏を取る。
しかし、小惑星を周回している強襲揚陸艇は、あっという間にクレーターから遠ざかった。
「要塞砲の砲口があそこだとして、基地内部への出入り口はどこなんだ?」
レンバッハ大尉の声に焦りの感情がにじんでいた。
「要塞砲の砲口が出入り口を兼ねているのかもしれません」
私は思いつきを口にした。
一番の下っ端のくせに生意気だと思われるかもしれなかったが黙っている方が落ち着かない。
それに、レンバッハ大尉に悪く思われても一向にかまわなかった。
「馬鹿々々しい」
案の定、レンバッハ大尉は私の考えを一蹴した。
「いや、そもそも要塞砲じゃなく、マス・ドライバーかもしんねえ。目的は違うが構造は基本的に同じだからな」
「そんなこと……」
スコット上等兵のつぶやきを否定しようとしたレンバッハ大尉は、途中で口をつぐんだ。
そして、私は完全に納得した。マス・ドライバーであれば、そこが宇宙船の出入り口だ。
「よし、軍曹、要塞砲内部に向けて、ミサイル攻撃だ」
「サー・イエス・サー」
レンバッハ大尉は、内心、私やスコット上等兵の意見を認めたようだった。




