第22話 臨戦態勢
「目標宙域に到達、装甲擲弾兵は第一種装備で強襲揚陸艇に待機のこと。繰り返す。装甲擲弾兵は第一種装備で強襲揚陸艇に待機のこと」
私たち地球連邦宇宙軍第二パトロール艦隊所属の装甲擲弾兵十九名は、武器庫に向かうと我先に自分の装甲強化宇宙服を着用しはじめた。
私も自分のパーソナルマークであるイヌのイラストをつけた装甲強化宇宙服を着用し、ヘルメットを下ろした。
一瞬、暗闇に包まれたが、すぐに全周モニターが作動し、周囲の状況がわかるようになった。
太り気味のロボットのようなフォルムは美しさとは無縁だったが、装甲が厚くパワーも大きいので、安心感という点では最高だ。これを着てしまうと簡易宇宙服で敵と撃ち合うことなど考えられなくなる。
「総員、通信状況に異状はないか?」
エアロックを通り過ぎ、宇宙巡航艦ペルセウスの艦底部にドッキングしている強襲揚陸艇に乗り込むと、指揮官専用の装甲強化宇宙服を着用し、最前列でこちらを向いて立っていたレオンハルト・レンバッハ大尉が、早速、指揮官風を吹かしてきた。
「通信機が動作している者は右手を上げろ」
リヒャルト・リシャーネク軍曹が意味のある指示にブレイクダウンしてくれたので、私たちは右手を上げて応えた。
「異常ありません。隊長」
「電磁誘導ライフルの残弾数確認、ジェネレーターの作動状況確認、気密確認、ガス交換装置作動状況確認……」
レンバッハ大尉は矢継ぎ早に指示を下した。三時間ほど前に定期点検で確認したばかりだったが、上官の御命令なので不承不承指示に従う。
「お嬢ちゃんは宇宙空間での実戦は初めてか?」
私が概ね点検作業を終えると、隣に立っていた古参兵が内緒話で私に話しかけてきた。
ヘルメットの額に蜘蛛のパーソナルマークをつけている。確かスコットという名の赤ら顔の上等兵だ。ぱっと見の年齢は五〇歳以上だった。
「はい」
「重力の弱いところじゃ、爆発で飛散した破片の勢いがいつまでも弱まらないから飛来物に気をつけるんだ。まあ、気を付けてもダメなときはダメなんだが」
何かと思えば先輩としての助言だった。すでに訓練所で叩き込まれていた知識だったが、有難く拝聴する。
「わかりました。気をつけます」
「手柄なんてどうでもいいから、ともかく生き残れよ」
内緒話にするわけだ。レンバッハ大尉辺りに聞かれたら大目玉だろう。
「まるで、お父さんみたいですね」
素直に返事をするのも差し障りがありそうなので、苦笑気味の返事になった。
「そうとも、お前さんや、この前いなくなっちまったマツダイラとか、俺から見れば息子や娘みたいなもんだ。親不孝はするんじゃないぞ」
にじむような笑顔で話している様子が想像できた。
「はい」
最初は、生意気な考えが頭をもたげたが本当にありがたかった。
そう言えば、この人はマーサが不名誉除隊になったときも営倉送りでいいんじゃないかと言ってくれた。
リシャーネク軍曹といい、フォッケル中佐といい、スコット上等兵といい、私の周りには本当に優しくていい人が多い。それに比べて、マーサは今頃どんな人に囲まれているのだろう。




