表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

第19話 出動命令 

「先程、宇宙巡航艦オリオンが宇宙海賊による襲撃を受けた。死傷者多数。敵は小惑星アエトラに拠点を設けている模様。我が第二パトロール艦隊は、これを強襲し制圧する」

 地球連邦宇宙軍第二パトロール艦隊司令官ジェラルド・ジスカール准将の声が艦内に響いた。将官の軍服を着た胸から上の映像が空間投影され、理知的で彫の深い顔は苦渋に満ちていた。

 訓練とトレーニングを繰り返すだけの単調な毎日を送っていた私にとって、そのニュースは強烈な刺激剤だった。

「やられたのは、オリオンって言ったか?」

「敵の規模はどれくらいだ?」

「久しぶりにまともな戦闘だな」

「第二艦隊だけでやるのか?」

「戦闘開始はいつだ?」

 宇宙巡航艦ペルセウスの兵員室は、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 そうしている間に空間投影の映像はショートカットの美しい女性士官に切り替わった。

「これより針路変更を行います。最大三Gの負荷がかかります。速やかに身体を固定してください。その後の加速は一Gで一時間を予定をしています」

 映像の主は、宇宙巡航艦ペルセウスの艦長フランカ・フォッケル中佐だった。

 彼女は同性から見ても魅力的な人で、有難いことに、この間、向こうから声をかけてもらった後、何回かトレーニングルームでお話をさせてもらったり、艦長室でお食事をさせてもらったりしていた。身の上話や相談事のような話をしたこともあるが、交わした話題は、どちらかというと他愛もないものが多かった。

 おすすめの3Dバーチャル映画のコンテンツとか、地球周回宇宙ステーションにある美味しいお店についてとか。

 でも、そのおかげで私の気持ちは以前に比べるとだいぶ楽になっていた。

 フォッケル中佐の放送を耳にすると、今までバラバラに好きなことを言っていた古参兵たちが、みんな慌てて寝袋に入りチャックを閉めた。

 さすがおじさんたちに絶大な人気を誇っている艦長だ。みんな素直でいい子になった。

 そう言えばマーサのチャックは硬かったな、時々開けるのを手伝ってあげたっけと、ふいに思い出した。欠員の補充はしていないので彼の寝袋は私の隣でそのままになっている。

「カウントダウンを行います。針路変更開始まで一〇、九、八……」

 フォッケル中佐は、声も凛としていて、それでいてどこか艶があった。

 普段騒がしい兵員室は見事に静まり返り、みんなおとなしく艦長のカウントダウンに聞き耳を立てた。

 昔のよしみで、リヒャルト・リシャーネク軍曹は、艦長とプライベートな会話を交わしているらしいが、そのことを知ったら他の古参兵たちは、どんなリアクションをするのだろう。

「三、二、一、開始!」

 寝袋の中で体が左に強く押し付けられた。急に突き倒されたような感覚だ。

「くっ」

 私は歯を食いしばって耐えた。

 しかし、苦痛を感じたのは、そんなに長い時間ではなかった。ふいに足元が『下』になり、一瞬、血の気が下がってクラクラした。しかし、ブラックアウトを起こすほどではない。

「目的地である小惑星アエトラに関する情報を伝える」

 身体が一Gの環境に慣れた頃、艦内放送の声が変わり装甲擲弾兵の隊長レオンハルト・レンバッハ大尉のものになった。私にとっては不快な声、マーサが軍隊から追われる原因となった男の声だ。

 大型肉食獣のような顔が空間投影されているはずだが、私は見たくないので見なかった。

「小惑星アエトラは直径四十三キロ、豊富な鉱物資源が埋蔵されている。我々は、そこを強襲し、違法採掘を行っているゴキブリ野郎どもを駆除する。訓練通りだ。油断するな!」

「サー・イエス・サー」

 兵たちの合唱が聞こえた。そう反応するように仕込まれているので条件反射だ。

 それにしても、宇宙海賊って、どんな人たちなのだろう。やはり、野蛮で、残忍で、狂暴なのだろうか?

 レンバッハ大尉は、艦隊が敵の戦闘艦艇を掃討することを前提にしていたが、今回の敵は旧型とはいえ宇宙巡航艦を葬っているのだ。決して侮ることはできない。

 最悪の場合、私たちは宇宙巡航艦ペルセウスの艦底部に張り付いたまま、ペルセウスともども宇宙ゴミになる可能性だってある。

「敵戦力の情報はありますか?」

 私や他の兵たちの気持ちを代弁するかのように、リヒャルト・リシャーネク軍曹が誰とは言わず士官たちに問いかけた。

「それに関しては私の方から答えよう」

 声と映像がジスカール准将のものになった。

「艦艇で確認されているのはステルス戦闘艦一隻だけだ。火力は駆逐艦に劣るが遠隔操作可能なミサイルを装備しており、それが厄介だ。ただ、それもタネの分かった手品に過ぎない。戦力差が三倍以上なので勝利はほぼ確実だ」

「サー・イエス・サー、ありがとうございます!」

 相手からは見えないはずだが、リシャーネク軍曹は律儀に敬礼した。

 上官も同僚たちも頼もしい限りだ。でも、隣に彼がいれば、この不安な気持ちを共有できたのにと、私は思わずにいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ