ラブストーリーは、また夢の続きで
少年、黒島梓は恋をした。
夢の中でしか会えない、その少女に。
「おやすみなさい」
「おやすみ、母さん」
今日もいつもと同じ会話をし、僕は布団に包まる。
イジメが原因で不登校の引きこもりになってから3ヶ月がたってなお、毎日欠かさず僕に言葉をかけてくれる母親の優しさに胸が痛くなった。
どうしてこんなことになったんだろう。
そんなことを考えながら僕は眠りについた。
「こんばんは、梓くん! また会えたね」
僕の目の前にとても綺麗な少女が立っていた。
整ったロングの青髪、程よい身長、大きすぎず、小さすぎない胸、笑顔の似合う顔つきの少女が。
もう何度目だろう、金曜日に決まってこの夢を見る。
そして、この夢の時だけ不気味なぐらい意識がはっきりしている。
欲求不満なんだろうか、思えばここ数ヶ月リアルの女性は母親しか見ていない。
「今日は一段と顔色が悪いね、何か嫌なことでもあったのかな?」
「・・・・・・」
僕は何も答えない、これは夢の中だ。僕が眠っている間に僕の脳が作り出した幻想だ。いくら人生が上手くいっていなくても自分の妄想なんかに慰められるなんて死んでもご免だ。
「今日も無視するの? もうそろそろ梓くんとお話ししたいな」
そういうと彼女は上目遣いで僕に近づいた。
「・・・・・・」
くっ、かわいい! 現実世界でこんな子に会いたかった、せめて自分の妄想でなければ、ってダメだ! 夢から覚めるまで無心でいなければ。
・・数時間が経った。もう何時間が経っただろうか、随分と長い時間この夢見ている気がするが、彼女はまだ、めげずに僕に話し続けている。
「それでね、私はそ・・・・」
ピピピピピピッ
目覚まし時計が鳴り、目が覚めた。起きてもなお夢の内容は鮮明に記憶に残っている。夢とは言えあんなにかわいい女の子を無視し続けるのには、心にくるものがある。
「はぁ、」
起きて早々ため息をついた。今日もまた、憂鬱な日々を送ることだろう。そう思いながらパソコンの前に座った。
・・一週間が経った。今日は僕の誕生日だったが、親から一言おめでとう、と言われただけのいつもどおりの退屈な日々だった。金曜日、彼女に会えることを少しだけ願いながら、僕は眠りについた。
「こんばんは、梓くん! また会えたね」
「・・・・・・」
「あっ! いま少しだけ笑った!」
やべっ、喜びが顔に出ちゃった! 無心、無心でいないと。
「それと、梓くん! 誕生日おめでとうっ!」
彼女はそういうと誕生日ケーキのようなものを取り出し、笑顔で僕のほうを見つめた。
「これ、、君が作ってくれたのか?」
思わず口から言葉が出た。
「えっへへ、料理は苦手だけど梓くんのために頑張ってみたよ! てゆーかやっと梓くんの言葉が聞けたよ、いっつも無視ばっかりして!」
「ご、ごめん、でも・・・ありがとう」
僕の言葉を聞いた彼女は、にかっと笑い、いいよ! と答えた。
何を気にしていたんだろう、自分は。こんなにも僕のことを思ってくれているのに、彼女のことを無視し続けて。いつまでくだらないプライドを引きずるつもりだ? もう彼女に甘えてもいいのではないだろうか。幻想だっていい、妄想だっていい、今の僕の気持ちは、ずっと彼女と一緒にいたい、だだそれだけだった。
「今日は誕生日だから、特別に食べさせてあげる! はい、あーん」
パクッ
「どう? おいしい?」
「うん、すごくおいしい、すごく」
味はしなかった、何の香りもしなかった。きっと夢の中だからだろう、それでもこんなに優しくされたことがなかったから、こんなに僕のことを思ってくれる人に会ったことがなかったから、本当に嬉しくて、もうずっと流れることのなかったうれし涙が、僕の頬を濡らした。
「ははっ、梓くん泣いてる! そんなにおいしかったかな?」
「おいしかった、でも、それよりもずっと嬉しかった」
少し泣いた後、涙を拭いて彼女のそばに寄った。
「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったね、教えてほしい」
「まだ言ってなかったっけ。私の名前はシーラ・カナリア、気軽にシーラって呼んでほしいな! 今更だけど、これからもよろしくね! 梓くん」
「シーラ、君に似合うとてもいい名前だね、こちらこそよろし・・・・」
ピピピピピピピピッ
目覚まし時計が鳴り、僕は目を覚ました。
「・・・・・・」
なんだろう、ものすごい喪失感を感じた。まだ眠たい、目覚まし音が頭に響く、いろいろな理由で目覚まし時計に怒りを覚えることが人生に一度はあるだろうが、今の僕ほど目覚まし時計に殺意が湧いた人間は今までいなかっただろう。
「・・・・さて、二度寝でもするか」
普通の学生ならもう、学校に向かっている時間帯だが、僕は死にかけのイモムシの如く自分のベットに逃げ帰り、布団に包まって二度寝を決め込んだ。
・・数時間が経った。最悪の目覚めだ。結論から言うと、シーラに会うことができなかった。その代わり、筋肉質で坊主頭の男と踊り狂う悪夢を長時間にわたって見せられた。シーラの微笑む顔を思い浮かべながら眠りに入ったのでより一層、悪夢が苦痛に感じた。だがなるほど、一度目が覚めてしまえば、また一週間待たなければシーラとまだ会うことができないのか。でも、何の色もなかった僕の生活に楽しみが出来た気がした。それのおかげか、少し物事を前向きに考えることができた。
・・一週間が経った。長かった、今まではさほど気にしていなかったが、引きこもりで趣味もゲームをすることぐらいしかない自分にとって一週間という期間はとても長く感じた。少しでも長くシーラといるため午後9時に僕は布団に包まった。こんなに生活リズムのいい学生は日本中探してもなかなかいないだろう
「こんばんは、梓くん! また会えたね」
「こんばんは、シーラ」
「今日は何の話しをする?」
「そうだな―、えっと・・・」
問題が発生した。女の子と話せるような話題を何ひとつ持ち合わせていなかった。まぁ、一日中自分の部屋に閉じこもっているから当然と言っちゃ当然のことなんだが。
「そんなに、気を張らなくても大丈夫だよ?」
「そうだよね、じゃあ僕が最近買ったゲームなんだけど『ドリーム・ダンジョン』って知ってる?マイナーだけどかなり面白いんだ、もし知ってたらどのキャラが好き?」
「ド、ドリーム? わかんないかな、ごめんね、ゲームのことはあんまり詳しくなくて」
しくった。女の子相手にマイナーなゲームの話は流石に自分勝手すぎた。シーラは僕の理想の人であって、僕のような人間ではないからな。一日中ゲームばかりしていた自分に対する嫌悪感で無意識に理想からゲームが好きな人を外していたんだろう。
「ごめん、他の話がいいよね」
「ううん、ゲームのことはよくわかんないけど梓くんの好きなことなら私興味ある」
「ホント?じゃあ・・・」
ゲームのことをたくさんシーラと話した。たぶんわかんない部分もたくさんあったと思うけど、必死に僕の話を理解しようと頑張ってくれていたのがとても嬉しかった。
「うーん、なんとなくわかった、楽しそうかも! 私もやってみる」
「うん、めっちゃ楽しいから絶対はまるよ! ってできるの?」
「たぶん」
そう言ってシーラは手を伸ばし、呪文のようなものを唱え始めた。
ポンッ。 僕と顔馴染みのゲーム機が出てきた。
「えええっ! なに今の! てゆうかなんでシーラが知らなかったゲーム機を??」
「・・・・なんでなんだろう」
どうやらこの夢は僕が思っていたよりずっと適当な創りなのかもしれない。
「せっかくだから、これで遊ぼっか」
「そうだね!」
夢の中でさえ、ゲームしてるのは人としてどうなんだろう、本当にこんなことばっかりしていてシーラは不満じゃないだろうか?いろいろ考えたけど、それもすべて消え去った。
「楽しいね!」
満面の笑みで無邪気に遊ぶシーラがより一層かわいく見えた。
ピピピピピピッ
目覚まし時計が鳴り、僕は目を覚ました。
記憶はしっかり残っている。起きてすぐにシーラの顔を思い出しながらベットの上でもがいた。あまり自覚はしたくなかったがこれは完全に、僕は彼女に恋をしてしまったんだと思う。
それから僕らは、毎週、夢の中で会っては他愛ない会話を繰り返した。僕は彼女と話す話題を見つけるべく、ゲームを減らして外になるべく出るようにして、いろいろな体験をするようになった。そうやって過ごしていく内に自分の心に変化が出てきた。いつか引きこもりから抜け出したいとは思っていたものの、思うように行動することが出来ず、その考えを放置していたが、彼女と過ごす内にようやく決意できた。
「そういえばまだ、引きこもりのことシーラに言ってなかったな、」
今夜シーラに引きこもりのことを打ち明けよう。そしてこの引きこもり生活と決別しよう。不安は当然あった。もしシーラに拒絶されてしまったら、また立ち上がることが出来なくなると思うから。それでも、今逃げだしたら一生ダメ人間のままだ。強い意志を持って僕は布団に包まった。
「こんばんは、梓くん! また会えたね」
「こんばんは、シーラ」
「今日は何の話しをする?」
震える手をグッと強く握った。
「・・・・今の僕の話、今の僕にとってとても大事な話。退屈かも知れないけど聞いてくれるかな」
「うん、わかった」
「・・・・不登校なんだ、自分。数ヶ月前から、君と出会う前からずっと。僕は気が弱くて、昔からいじられ体質だったんだけど、高校に上がってからそれがさらにエスカレートして精神的に苦痛な時期があって。少し経つと僕のイジメていた奴らは僕に興味を示さなくなったけど、その時には既に僕は完全に孤立していたんだ。それからは本当に何をしても楽しさ、やりがいを感じられなくて、日に日に学校に行く回数が減っていって気づいた時にはもうずっと自分の部屋に閉じこもってたんだ。でも、慰めてもらうために話したんじゃなくて、今日君に打ち明けたらまた元の生活に戻ろうと思っているんだ。だから元の生活に戻れるように僕の手助けをしてほしいんだ。」
身勝手なのは自分が一番わかっている。どんな言葉も受け入れるつもりだ。
「・・・・やっと自分の口から言ってくれたね。」
「!・・・・不登校のこと知ってたの?」
「うん、なぜか梓くんと会う前からずっと知っていた気がするんだ。ごめんね、内緒にしてて。でも、このことは梓くんの気持ちを聞いてからじゃないといけないと思ったんだ」
「そっか、じゃあ気持ちを伝えるのが随分と遅れちゃったね」
「うん、でも自分から言ってくれたのはとっても嬉しいよ、よくがんばったね」
そういうとシーラは微笑んで優しく僕の頭をなでた。僕は不意に涙をこぼした。
「私は梓くんがどんなことをされてきたのか、どんな気持ちで過ごしてきたのかわからないから、無責任なことは言えないけど、私は梓くんのこと応援してるよ!」
「・・・ありがとう、シーラ。気持ちの整理がついたよ」
「よし、その調子でがんばれ!」
「うん」
「・・・・そういえば、まだしっかりと別れの挨拶とかしてなかったね」
「そうだね、でもまだ起きるには早くないかな?」
「ううん、今日はいつもより早く目が覚めちゃうみたいだよ」
「・・・・え! 目が覚めるタイミングとかわかるの?」
「うん・・・・なんでなんだろう」
やっぱりこの夢は適当だな。
「じゃあ、さようなら! また会えるよね?」
「たぶん会えると思うよ、また夢の続きで。じゃあね」
目覚まし時計が鳴る前に僕は目を覚ました。最近は睡眠時間がかなり長かったからなのか。シーラと居られる時間が少し減ったのは残念だったが、気持ちを切り替え、学校への支度を始めた。
「また夢の続きで。いい響きだな」
来週シーラに会うとき、いい話が出来るように頑張らなくちゃ!
・・一週間が経った。この一週間、僕は毎日学校に通えていた。最初こそ少し変な目で見られたものの、意外にもみんなが僕を受け入れてくれた。一部の人間からは陰口のようなことが聞こえてきたが、ほとんどの人が明るく振る舞ってくれたので気にならなかった。長い間登校していなかったからか、多くの人が僕に話しかけてくれた。そのおかげで少し友達が出来た。でも昔の僕だったら一部の陰口ばかり拾っては、ふさぎ込んでいただろう。彼女に出会って僕は本当に成長することが出来たと思う。
僕は早くシーラに会うためにまだ外が明るいうちに布団に包まった。
ピピピピピピッ
目覚まし時計が鳴り、僕は目を覚ました。今日は何の夢も見なかった。僕は慌てて時計を見たが、そこには土曜日の午前7時と表示されていた。
「あ、あれ・・・おかしいな、」
僕は不安を隠すことが出来なかった。
「・・・たまたまだよな、またシーラに会えるよな、」
今まで一度も、金曜日にシーラの夢を見なかったことはなかったけど、それでも、心配を押し殺すために、根も葉もない根拠を言い聞かせ、自分を落ち着かせた。
一週間が経った。シーラに会えるよう必死に願ったが、やはり彼女が夢で現れることはなかった。
また一週間が経った。シーラに会えるよう必死に願った、やはり彼女が夢で現れることはなかった。
さらに一週間が経った。・・・・やはり彼女が夢で現れることはなかった。そして僕は気づいた。もうシーラには会えないことを。理由は大体想像出来た。彼女は僕が元の生活に戻れるようにするため、僕の夢に出てきてくれたんだろう。でももう僕は、何の不自由のない生活が送れている。だから彼女は現れなくなった。
「会いたい。またシーラに会いたい。そうだ、もう一度引きこもりになれば」
最悪だ、少しでもそんなことを思ってしまった自分を心底軽蔑した。でも、また会いたい、まだ学校に行けたことを伝えれてない、感謝の気持ちも伝えられてない、まだまだしたい話がたくさんある、・・・・まだ告白もしていない。どれだけ願っても、もうシーラには会えない。最後に別れの挨拶が出来ただけでも良かったと思うようにしたが、ものすごい辛さを感じ、どうしようもない悲しみが心に残った。その日僕は布団に包まって、一日中泣いた。
月日は流れ、僕は今日、高校を卒業した。あれ以降、いじめを受けることなく、たくさんの友達に恵まれ、今思い返せばとても充実した高校生活だったと思う。
それでも、やっぱりシーラがいないとなにか物足りなかった。シーラがいたから今の僕がいる。今日もシーラと夢で会えることを願って僕は布団に包まった。
「こんばんは、梓くん! また会えたね!」
僕は目を疑った。そこには僕がずっと求めていた姿があったから。
昔とても好きだったあの声が聞こえたから。
シーラが僕の目の前に立っていたから。
「・・シ、シーラ?ほんとにシーラ?」
「もう私の顔忘れちゃったの?ひどーい」
「ちがうよ!」
「なんてね、冗談だよ」
なんでシーラがまた僕の夢に現れてくれたのかはわからないけど、そんなことはどうでもいい。ただもう一度会えたことが本当に嬉しかった。あまりの嬉しさに僕はまた泣いた。
「うぅ、やっと会えた、もう二度と会えないと思ってた、、」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で僕は言った。
「まったく、大げさなんだから」
そういって僕の頭を優しくなでた。とても懐かしい気持ちになった。
「・・・・君にずっと話したかったことがたくさんあるんだ、たぶんすごく長い話になると思うけど、最後まで聞いてくれるかな」
シーラは頷き、満面の笑みで僕に言った。
「はい! また二人でたくさん話しましょう。夢の続きで!」
処女作です。最後までお読みいただきありがとうございました! なかなか難しく思うように書けませんね、誤字とかあったらごめんなさい、面白いと感じたらブクマ登録ぜひぜひ(≧▽≦)