9話 氷姫
はぁ、昨日はある意味で大変だったな。
『確か·····ツカサは「紅蓮の鬼姫」とやらと会談したのではないか?』
そうだよ。
『·····にしてもお主凄い嫌われようだな』
言うな。虚しいだけさ。
まぁ、もう慣れたけど·····。
『紅蓮の鬼姫』ことクレハの呼び出しの翌日、俺はいつも通り学園に登校した。
実力テストの悪を倒した俺を、不正で倒したと誰かが広め、未だに悪意をぶつけてくるクラスメイトがいる。
それだけならいいのだが、やられた張本人である悪が面倒な行動を取らないか心配だ。
まぁ、魔法を使えばそれも意味をなさないが。
「ツカサ·····」
そんな時俺の席に近寄る女生徒がいた。
銀髪を肩まで揃え、蒼穹のような蒼き双眸。クレハこそないが、膨らみを感じる双丘。
「姉さん」
『む? ツカサ姉なんて物がいたのか?』
いや、血は繋がってない。
俺と同じ孤児だよ。
『ほう。では何故、姉なんだ?』
先に拾われたのが姉さん――赤院 アゲハである。
せっかく端正な顔立ちをしているのに普段無口なだけに近寄りがたく、『氷姫』と呼ばれる。
ちなみに、何故俺が新城という苗字を使ってるかと言えば、あの家に住んでいないからである。
あの家――赤院家に住んでいたときは何不自由なく過ごせたが、このままではいけないと俺が元の苗字である『新城』を名乗り、家を飛び出したのだ。
·····まぁ、結局行くあてもないので赤院家に送還されたが、今は寮生活でしっかりと自立出来るように頑張っている。
「ツカサ、噂聞いた。どうやったの?」
アゲハはどうやらあの噂を聞きつけたらしい。
噂が流れてからしばらくたったが、今聞きに来るのね。マイペースなのは変わりない。
「なんもないよ」
「·····そう」
そう言って彼女は帰るのかと思えば、突然ぺたぺたと俺の体を触り始める。
クラスが騒然とするなか。
「前よりも筋肉がついてる。それに·····くんくん」
えっ? 急に俺の首元まで顔を近づけて匂いを嗅ぐ。
やめてっ! クラス中の視線が俺に注目されてる。
「他の女の匂いがする·····」
·····怖いんですけど。
姉さん、怖い。ジト目でこっちを睨まないで。
『この女なかなか鋭いな·····』
感心してる暇じゃないだろうが。
「クレハさんの匂いじゃなくて?」
「母さんの匂いとは違う」
即答で断言するアゲハ。
あんまり隠してるわけじゃないけど、アンリと魔法のことは話したくないかな。
まぁ、姉さんは信用してるからいいけど。ここで話すのもクラスの目があるし。
どうした方がいいかね?
『私としては魔法も私自身のことも公言しては構わないが?』
はぁ、でもなぁ。魔法もアンリもコイツらに言うのもやだしな。
『なんだ? 独占欲か?』
姿は見えないが、おちょくってるのだけは分かる。
まぁそうだよ。アンリのことを大切にしたいからね。
クソ野郎共に教えるかよ。
『·····そ、そうか。まぁアゲハという女に言うのは私は構わないぞ!』
照れてるのか?
まぁ本人の許可も頂いたし、ここで言うのもアレなんで寮の部屋まで来てもらうか。
「姉さん。詳しいことは後で話すから」
「·····分かった」
言外にここでは言いたくない俺の心を察したのか、アゲハは踵を返して自分の教室にへと帰っていった。
そして、こう言った時はだいたい姉さんは俺の部屋に尋ねてくる。
もともと、研究熱心な所もあるので気になる事があれば自ら出向くのがアゲハであるのだ。
その後の授業全てにおいて、嫌悪と嫉妬の目線をくらう羽目となったが。
俺は気にせず授業を受け続けた。