6話 魔法開発
さて、月日が経つのは早いもので、アンリと初めて会ってから一週間が過ぎようとしていた。
魔法という概念はこの一週間で俺に多大な影響を及ぼした。
まず、イジメが無くなったことだ。
·····いや、正確にはイジメを出来なくなったが正しいのか?
魔法により俺は気配や害意に対して敏感となり、前もっての対処をすることにより未然にイジメを避けてきた。
それにより罵声も無くなってきており、帰り際に悪たちに連れていかれる前に魔法で『どこでもドア』を使用。
悪たちは消えた俺を探すのに必死で俺が既に帰っていることを知らない。
ついでに言うと俺はある理由により、勝手に部屋への突入はされないため、部屋まで戻れば安全圏で一安心という生活を送っていた。
もちろん、魔法の練習や開発、技法を生み出したりなど魔法関連にも力を注ぎ込んでいた。
「ツカサよ。今日は何の魔法を開発するんだ?」
人型となったアンリが魔法陣を描いている俺に質問をする。
「ん? 今回は身体強化の魔法だね」
ここ数日は防御関連の魔法を、そして今日は身体強化の魔法を生み出している。
「前から不思議に思ったのだが、ツカサは攻撃系の魔法は使わないのか?」
「いや、使うよ。でも最初は防御と身体強化の魔法を優先しないとアレが近づいてくるからね」
アレとは実力テストのことである。
この学園は勉学も教えてくれるのだが、基本は武術などの戦闘。そして実力テストとは月に一度実施され、その生徒の努力を見るというものだ。
一ヶ月間の学んだことを存分に発揮し、勝たなければならない。が、俺の場合専用の『魔器』がない。
故に学んだことを発揮しろと言われても発揮のしようがない。だが、実力テストは強制なので俺の場合は汎用魔器が支給される。
この状態で攻撃系の魔法を放っても教師は評価しない。故の防御と身体強化である。
「なるほどな」
俺の一通りの説明を聞いたアンリは納得がいったようで首を縦に振る。
「出来たかな」
それから数分、適当な紙に魔法陣を描ききり、詠唱を考えた。
「アンリ頼む」
「任せてくれ」
すかさず俺はアンリを体内に戻し、イメージしながら詠唱をする。
「《足よ》《速くなれ》」
すると魔素が薄く俺の足にまとわりつく。
試しに数歩歩けば、断然速い。
『しかし何度聞いても不思議だな』
多分詠唱かな?
『それ以外になにがあるんだ? それにしても詠唱がこんなデタラメでも発動するとは私でも知らなかったぞ?』
まぁ、あの時アンリは要はイメージ出来ればいいと言っていたので、わざわざ『顕現せよ』なんて言葉を使わなくてもできるかな。と思ってやったら案の定成功。
魔法を使用しているとバレなくて済むし、何より戦闘時に長ったらしい詠唱をするなんて無理に近いからな。
「ふぅ、やはりお前のその才能は凄いと思う」
いつの間にか人型に戻ったアンリはそう呟く。
「それにしてもアンリってなんで魔法を知ったんだ?」
今の人型になる時と言い、魔素状態になる時と言い不思議なことばかりだ。
魔素で作られた人造人間なのは分かるが何を目的としたものなのかイマイチ分からない。
「まぁそれは追追だ。そんなことよりもだ。腹が減ったぞ?」
またか·····。
何回か聞いているのだが、こうやってはぐらかされる。まぁ言いたくないのなら無理強いするつもりもない。
ただ、今みたいに興味本位で聞いてしまうのだ。
「へいへい」
そうして、俺はフライパンで野菜炒めを作りながら、長考する。
あれから一週間、アンリと共に過ごしているが如何せんコイツの目的が分からない。
宿主という話を聞いた時は休みたいと言っていた。恐らく何かしらで力を消耗をしたのだろう。
人造人間ということで誰かから狙われているという可能性がある。
それに、魔法という存在を知っていたという疑問。それらを踏まえるとアンリという人物像がどんどんと分からなくなっていく。
考えれば考えるほど不思議に思う。
しかし、俺はもちろん見捨てるつもりは無い。俺を救ってくれた恩人に値する人だ。
出来上がった野菜炒めを盛り付け、アンリに渡せば事前に炊き上がったご飯と共に食べ始める。
「う、うまい。やっぱり野菜炒めは最高だな」
頬にご飯粒をつけながら野菜炒めを頬張るアンリを見て、俺は長考の末一つの結論に至る。
それは――守りたいこの笑顔であった。