14話 クレハの力
何故ここにクレハさんが!? いや、それよりもアンリの安全を早く確保しないと。
「アンリッ!」
「あぁ、わかった」
即座に手を伸ばし、アンリを己が身に入れる。
「何故ここに?」
「そう警戒しないでよ。──と言いたいところだけど、警戒は続けた方がいいよ。これから私は、君を倒さなきゃいけないんだから」
「クレハさん……」
「その計画は政府の機密事項。それを知ってしまった一般人がどうなるか、なんて分かりきっていることでしょ?」
やはり、ここに来たのは……俺を倒し、口封じを図る為。それが一番確実なのは、殺すこと。
「それほどまでにこの計画を知られたくないんですね?」
「そうよ。政府の思惑が全て入っているこの計画は、特にツカサくんみたいな生徒には知られる訳にはいかなかったんだけどね?」
「クレハさんは、アンリの正体に気づいていたんですか?」
「……えぇ」
苦虫を噛み潰したように、渋い顔をするクレアさん。
「でも、息子同然のツカサくんを殺すわけにはいかないって、だけどね、それを知ってしまった。なら、政府の命令通りに任務を遂行するしかないじゃない」
クレハさんはその実力から学園長まで上り詰めた人。
そんな人と、俺がどこまでやりあえるか……。
「これから貴方には私を倒しても、アンリを奪還するべく政府の強者たちが襲ってくるわ。貴方にその覚悟はある? アンリの味方でい続ける覚悟が……」
覚悟? 俺は今まで一介の生徒だった。それも、落ちこぼれ……。
そんな俺にアンリは光を与えてくれた。
『ツカサ……』
アンリの心配そうな声が耳に入る。
安心してくれ。俺だけはお前の味方でい続けてやる。
「覚悟なら出来てる」
「…………そう。なら、これを握りなさいッ!」
クレハさんが何かを投げる。
これは──
「汎用魔器よ。これから私と決闘をして、貴方のその覚悟、見せてもらうわ」
あの紅蓮の鬼姫と対決か……。
「望むところだ」
すると、クレハさんが微笑んだ。
「じゃあ、今からするわ」
「はい」
「場所はこの学園全域。安心して? 生徒にはみんな帰ってもらったわ」
ならば、心おきなく魔法が打てるな。
「開始は私が十を数えたら、その間貴方は好きなところに行きなさい。だけど、この学園内から出ることは無理よ。じゃあ始めようかしら」
そして、クレハさんは数え始める。
「《足よ》」
身体に少しダメージが残っているが、大丈夫だ。身体強化で距離を空ける。
『なんでだ? 十の間に先制攻撃を仕掛けた方が良くないか?』
いや、間を空ける。
紅蓮の鬼姫は、その名のとおり『火』の属性を持つ魔器の所有者だ。しかし、今まで彼女の魔器を見たことがある者は少ない。彼女が、学園長という立場に就いているということもあるが、その原因として、彼女の魔器は火そのものと言われているからである。
「だから、相手の手の内が分かるまで、遠距離で魔法を放つ」
『わかった』
体内における魔力の循環はアンリがサポートしてくれる。なら、魔法のイメージと魔法陣。詠唱さえ、キチンとしていればあの時みたいに、ここで魔法を開発出来る。
イメージするは水。広範囲に雨の如く。しかし、威力は弾丸のように。
「《顕現せよ》《大地を潤す天の恵み》《凶器となりて、眼前の敵を撃ち落とし》《その力を示さん》──<天の弾丸>」
魔法陣が空高く顕現する。それは徐々に広がっていき、十を数え終わったであろうクレハさんを標的に発動する。
降り注ぐ雨、しかし、それは弾丸が如く飛来する。
そして、それはクレハさんに直撃したはずだった。
「これが魔法、か……」
爆炎の中、一人現れるクレハさん。
「蒸発した?」
俺の魔法は今なお発動中だ。しかし、遠目からでも分かる程にクレハさんにダメージが入ってない。
「どんだけ火力あんだよ」
思わず呟いた一言が、クレハさんの耳に届く。
「ヤバイ」
身体強化はまだ続いてる。できるだけ距離を離して──ッ!
「逃げられないわよ?」
あんだけ距離があったのに、もうそこまで!? いや、既に俺のすぐ後ろまで距離を縮めている。
「炎でブーストして!? クソッ」
足から放出されている炎が、俺の身体強化を上回っている。
「<天の弾丸>」
至近距離から、手のひらに魔法陣を出現させ、ガトリングガンの如く撃ちまくる。
だが──
「効かないわよ?」
水の弾丸が、クレハさんに触れた瞬間、ジュワッと蒸発する。
なら。同じ炎で……
「《顕現せよ》──」
「やらせない」
詠唱中に炎で邪魔を入れる。集中が乱れて、イメージが魔力に通らない。
「そこッ」
瞬間、衝撃が俺の腹を襲う。
「グハッ」
クレハさんの顔が一瞬曇るが、追撃が止まることはなかった。
顔面に右ストレート。そこから体をひねって蹴りをもう一度腹に決める。そして、かかと落としで連撃は幕を閉じる。
地面に叩きつけられ、立ち上がろうとするたびに痛みが襲う。
「無理しない方がいいわよ。今のは全部アゲハが貴方に与えたダメージに上乗せしたのだから、無理したら貴方の体が持たないわ」
確かに、そうだろう。
「だけど、アンリを渡す訳にはいかない。俺が殺される訳にはいかない。そう、負ける訳にはいかないんだァ」
雄叫びと共に、俺は力を振り絞り立つ。
魔法は意味を成さない。戦闘経験も未熟、勝つ為の道標は愚か、いつ死ぬかも分からない。
だけど──
「貴方……」
──俺の顔には笑みが、不敵な笑みが浮かんでいた。
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