13話 絶対支配計画
目が覚めるとそこは、見知らぬ天井だった。
上体を起こせば、ズキリと激痛が走る。
「いっつ……<迅雷装甲>の反動か」
そんな痛みに耐えながら、上体を起こしきり、辺りを見渡す。
どうやら、ここは医務室のようだ。四方はカーテンに囲まれ、俺が寝てたのは医務室のベッド。今まで、戦闘をほとんどしてこなかったので、無縁だったものだ。
──と、ここで俺は下半身に乗っかった重みに気づく。
「アンリ?」
いつの間に、俺から出ていたのだろうか?
「ん……」
どうやら、眠っていたらしい。俺の言葉に反応し、その綺麗な黄金なる双眸がパチリと見開く。
「あぁ、起きたか」
「おはよ……であっているかな?」
「いや、今は夜だ」
カーテンのせいで、気づかなかった。アンリが立ち上がり、カーテンをめくれば、見慣れた月が俺を出迎える。
「この感じだと、心配をかけたかな?」
「当たり前であろう? ツカサは私の宿主だ。死んでもらっては困る」
そこは嘘でも──
「当たり前だろう? 心配かけおって(むぎゅ)」
そう言って俺に抱きついてくれたら、良かったのに。
「どうした? 雷のせいで頭をおかしくしたか?」
「おい、なんで俺の考えていることがわかったんだ?」
「私はお前と一心同体だったんだぞ? そのぐらい分かる」
だったらやってくれても良かったのに……
「そうか。ならば、木属性の魔法でむぎゅっとしてやろう」
「それだとむぎゅっとじゃなくて、バキっと骨が折れるんですけど!?」
そこまで言って笑い合う。
「ここまで、元気なら大丈夫だろう」
「……そういえばさ。俺ってどのくらい気を失っていたの?」
「うーん。だいたい一日ぐらいか、そこいらだったぞ?」
それだと、姉さんやクレハさんがうるさそうだな。
「誰か、俺に見舞いしにきた奴はいたか?」
「……そこそこだな。まず、あの氷姫にどうかったのか? という疑問を聞きに来た生徒。あとは私の正体を聞きに来た生徒だな」
「それ、全員見舞いじゃないぜ」
「まぁあ、二人……女生徒と女教師。お前の姉さんと母さんは来たぞ」
なら、先にそう言ってくれ。
なんで、俺の気分を下げる事を先に言ったんだ。
「それは……私の勝手だろう!?」
「平気に俺の心と会話しないで」
怖いわ。
「それよりも、アンリ。お前姿見せて本当に良かったのか?」
「前も言ったが、別にそう決めたわけではない」
「だけど、俺の体内に初めて入る時言っていただろ? 休ませてくれって。何かに追われていたんじゃないのか?」
俺の言葉にアンリの顔が沈む。
「俺はお前の事を知らない。だが、お前が言いたくないのなら別に無理して聞こうとは思わない。だけどな、俺のせいでアンリがってことにはなりたくないんだ」
アンリは驚き、そして一瞬顔を歪めた後、ゆっくりと語り始めた。
「私は、最初話した通り、魔素で作られた人工生命体だ。そしてそれを実行したのは政府だ」
「なんだと?」
「私の試験体ナンバーはE01。通称アンリと名付けられていた」
語っているアンリは、少し身を震わせ、今のにも壊れそうで、消えそうな感じを纏っている。
そんなアンリを見て、思わずその手を握った。
握った手はいつになく冷たくて、凍えそうだったけど。手放さない。手放したくない。すると、少しだけだが、震えが収まった気がした。
幾分か落ち着きを取り戻したアンリは続ける。
「モンスターとは、マザーと呼ばれる始まりの魔物の子供。モンスターの体を形成する物質の名が魔素ということは知っているな?」
「あぁ」
「だから、人間……政府はこう考えた──『魔素でなら人工的に人間を生み出せるのでないか?』と」
俺は聞いててバカらしく思えてくる。
「なんの為にそんなことをしなきゃいけないんだ!?」
「忠実な道具が欲しかったんだ……」
「え……?」
「人間とは感情があり、感性があり、心がある。それ故に、モンスターの脅威から身を隠してしまう」
ここ、ソルム学園にモンスターは来ない。
世界最高峰の警備システムと、クレハさんの力により、我々生徒の目に留まる前に処理されるのだ。
「だから政府はこんな学園を創設したんだ。兵という名の道具を作るために……だが、それでも忠実な道具になるとは限らない。先程も言った通り、人には心がある。そう上手く思い通りにはならないんだ。だから作ることにした。感情や心を持たない兵……魔素による人工生命体を」
なんだそれ?
「それは秘密裏に進行され、国家機密としてこう呼ばれていた──絶対支配計画と」
「絶対支配計画?」
「そうだ。その計画の唯一の成功例なのさ。私は……」
「アンリ……」
手を握っているから分かる。
彼女の心には、人間に対する恨みや憎しみなどの憎悪が渦巻いていることが。
「アンリ……何故お前はそこまで計画に熟知しているんだ? それに──何故アンリに感情が、心があるんだ?」
「それは──」
ドゴォォン! と爆音が鳴り響く。
「これは?」
医務室の扉が燃えている?
「ツカサくん……知っちゃったんだね? それを……」
「クレハさん!?」
医務室に入って来んのはクレハその人だった。
ここから物語が加速していきます。
一応短期連載なので、あしからず。