12話 勝つ為の道標
さて、強がって見たが、全くといって勝つ為の手が思いつかない……
『おいおい……』
アンリの呆れる声が脳内に響くが、実際、技の練度が違う。
言い訳にも聞こえるが、汎用と固有の魔器のスペックの差は歴然。悪みたく、俺を侮っている相手なら、魔法による奇襲によりなんとかなるかもしれないが、姉さんは一瞬の油断もしていない。
加えて、先程の<氷雪の世界>と<氷華の舞>。
あの完成度となると、手の打ちどころがない。
今のところ、姉さんに勝つのは不可能だ……
『ツカサ……』
なに? アンリ。
『お前は、今まで何をしてきた?』
何って……魔法の開発とか?
『そうだ。魔法をお前は出来る。たしかに、さっきの<氷雪の世界>は見事だったが、所詮は擬似魔法。つまり、劣化コピーに他ならない』
それでも、使用者が姉さんなら、十分魔法と同じか、それ以上の力を発揮すると思うけど?
『いや、それはない』
なんでさ。
『それは──』
「? 来ないなら、こっちから行く」
姉さんが、氷剣を振りかざし、急接近し始める。
よ、避けない、と?
足元が凍っている?
しまった──<氷雪の世界>か!?
切られるッ!
俺は、反射的に魔器で、氷剣を受け止める態勢を取った。
間違いなく、魔器は折れる。
負け──
「なぜなら、私がいるからだよ」
え?
氷剣が止まった?
いや、受け止められている。
「!? 貴方も戦闘に参加?」
俺の前には、アンリが立っていた。
「いや、私個人に戦闘能力はないよ」
「ならなぜ、私の氷剣が素手で止められているの!?」
アンリは、一見素手で、氷剣を受け止めているように見える。
が、それは違う。
魔法だ。
魔法で強化して、彼女は氷剣を受け止めている。
「ツカサ。前にも言ったろう? 魔法は全ての可能性を否定しない──言い換えれば、魔法に不可能はない」
突然と俺の前に現れたアンリに、観客が騒然とする中。アンリは平気そうに俺に語る。
「いいのか。姿を見せても?」
「別に見せてはならないと決めてる訳ではないし、それに──」
「なんだよ?」
アンリは、観客席の上。特別観客席の方を見上げる。
あそこは確か……クレハさんがいるところ。
「もう、私の正体に感づいているからな」
「え?」
アンリの言葉に、驚き。意味が分からず聞きなおすと。
「私の前で余裕?」
「話はこれが終わってからな」
姉さんの事を忘れてた。
……仕方ないか。一旦、今のを忘れて戦いに集中しないと。
「アンリ。前みたいに倒れないか?」
「いや、正直いってもう持ちそうにない。だから、お前の体内にもどる前に、一言だけ」
半分以上、霧になりながら彼女は言う。
「魔法の開発を、今ここでしろ」
それだけ言うと、「じゃあな」と消えた。
体内に戻ったアンリは、静かに寝息を立てている。
魔法で疲れて眠ったか。
「なんだったの? 今のは……」
姉さんは、突然現れ、突然と姿を消したアンリに驚きながらも、氷剣を構える。
「いや、関係ない。倒す!」
アンリは、俺に勝つ為の道標を立ててくれた。
なら、アンリの為にも勝たなきゃならない。
「<氷華の舞>」
舞が如き、連撃が俺を襲う。
しかし、俺は必要最低限避けるだけで、思考に全集中を注ぐ。
魔法陣を紙に書く事は不可能。なら、頭の中で魔法陣を構築する。
身体能力強化魔法では、<氷雪の世界>は防げない。
かといって、火属性で溶かしても、効果は薄い。溶かしている間に攻められたら、今までと変わんないから……求めるは、氷雪を全く気にしない圧倒的なスピード。もしくは、一瞬で溶かす程の圧倒的な熱。
…………氷属性は、水属性の派生。
──っ。なら、こちらも派生属性で……熱があって、スピード……
「ちょこまかと──」
これだ!
「《顕現せよ》《雷神が如く煌く稲妻》《我が身に纏いし》《その力を示せ》──」
「──<氷雪の世界>」
「──<迅雷装甲>」
イメージしたのは<雷>
熱を持ち、圧倒的なスピードを誇る。
即興のあまり、詠唱と魔法名まで全部言ってしまったが、これが俺の誇る。現在、最強の魔法。
迅雷装甲。
青白く、触れれば、一瞬にて絶命するであろう量の雷光が体中に迸る。
その雷光は形成を開始し、俺の姿は、神話に語られる雷神のように──
背中には、雷で形成された小太鼓。額には角。腕にはガントレットが、脚にはレギンスが顕現する。
「その姿は?」
<氷雪の世界>が、一瞬で溶ける。
バチバチッと鳴り響く音に、姉さんは後ずさる。
「<迅雷装甲>って言うんだ。さぁ、姉さん。俺も行くね」
急ごしらえと、強力な魔法故なのか、魔力の減りが異常に早く、アンリが眠っている今。そう長くは持たない。
ざっと……一分ってとこか。
余裕かな。
「《足よ》」
この<迅雷装甲>のお陰か、思考が通常の倍、いやそれ以上。
詠唱もいつもより、早い。
「──ッ! <氷雪の世界>」
「無駄だよ」
<迅雷装甲>を纏っている、今。そんな小細工も通用しない。
「《刀に雷を》」
汎用魔器に、雷を纏わせる。
一瞬だ。
この一瞬で、終わらせなければならない。
汎用魔器も、そう長くは持たない。
終わらせる。
「──<雷光・煌き>」
一閃。
バキンッと魔器が折れる。
「俺の勝ち、だね」
折れたのは氷剣。
つまり、姉さんの負け。
俺の勝利、だ──
一瞬の脱力感の後、体中に痛みが走り、そして、俺は意識を失った。