10話 絶対支配
「久しぶりに来た」
「上がっていいよ」
放課後、姉さんであるアゲハは、思っていた通り俺の部屋を訪れた。
「早速教えて」
間髪いれずに俺に問うてくるアゲハに苦笑しながら「とりあえず上がってから」とリビングにへと案内する。
「ふう、じゃあ説明をするね」
コクりと、頷くアゲハ。
よし、出てきていいよ。
すると、俺の体から黒いもやが出てきて人型に形成しはじめる。
見慣れた黒髪が姿を見せ、黒いもやはアンリにへと変貌を遂げた。
その一部始終を見たアゲハは、驚愕を隠せない。
「……どういうこと!?」
「話すと長くなるけど、いい?」
そして、俺は話した。
ところどころの詳しい魔法の説明はアンリに任せつつ、出逢ったあの時から何まで……
昔から、姉さんは俺の嘘を見破るのが上手い、というよりかは百発百中で見破るのだ。そして、それはクレハさんも同じだ。
ほんと、なんでわかるんだろうな……まぁ、それは置いといてすべてを話した。
すると姉さんは──
「アンリ……弟を、ツカサを見つけてくれてありがとう」
俺は姉さんの言葉の意味が分からず困惑する。
「ツカサは昔から何をやってもダメだった」
事実だ。
剣、銃、格闘、槍……すべてが出来なかった。
この世界で生きていくには戦闘能力は必須だった。
しかし、全てに置いて才能が無かったのだ。
「ツカサは諦めずに努力をしてきた……でも実ることは無かった」
同級生が遊んでる中、一人で素振りをした。
的に向かって銃を放った。
何度も自分の型を見直し、改善してきた。
しかし、その全てが同級生に通用することは無かった。
「だから、ありがとう……ツカサを見つけてくれて……才能を見出してくれて……」
涙が頬を伝った。
姉さんがそう思ってくれていたなんて知らなかった。
あぁ……ありがとう姉さ──
「でも魔法には興味がある」
ええ?
「明日、私と対戦して」
……そうだった。
姉さんは姉さんだった。
なんか感動を返して欲しい。
まぁ、だからこそ、これでこそ姉さんだな。
「いいよ」
「ふふっ楽しみ。じゃあもう帰る。もうそろそろ母さんが帰ってくる」
足早と踵を返す姉さんに苦笑を溢す。
「じゃあ明日、ちゃんと来て」
「わかってるよ」
そして姉さんは帰っていった。
「なんかツカサの姉というのは面白い存在だな」
「まぁ否定しないけど」
* * *
「ただいま」
「あらおかえりなさい。あら今日はどこにいっていたのかしら?」
アゲハが、自宅の戸を叩くと、義理の母であるクレハが出迎える。
「ツカサのところ……」
「えぇ!! それなら私も呼んでよぉ」
いい年して頬を膨らまし、いかにも怒ってますみたいな顔をする義母にアゲハはあからさまにため息を吐き出す。
「母さんがいるとツカサが困る」
「あなたが行っても変わんないと思うわよ?」
「は?」
「なにか?」
二人は決して仲が悪いというわけではない。
むしろ良いと言えるだろう。
しかし、だ。
そこに『ツカサ』が関わると途端にその仲は変わる。
昔から、ツカサがどっちと一緒に寝るかや、どっちの隣で食事を共にするかなどで喧嘩が勃発している。
実は、ツカサがこの家から出たがった理由としてはこれの方が大半を占めていることは秘密だ。
「まぁ、今回は過ぎた話だから許してあげるわ」
あれから、一時間の言い争いがあり、クレハが折れたことでこの話は終わりを告げた。
「ご飯はどうするの?」
「明日の戦いに備えて、研究するから部屋で食べる」
「そう。わかったわ」
そして、二階に向かうアゲハを見送ったところでクレハは、途端に顔を引き締めた。
「アゲハの言っていたアンリって……」
言い争いの時にたまに出てきた『アンリ』という名前。
「まさか……」
クレハの脳内には、突然政府から届いた要請状の内容が思い浮かぶ。
その要請状に軽く触れられていた極秘プロジェクトの名前と逃げ出したという試験体のナンバー。
「トライアンフトリガープロジェクト。またの名を──」
政府が秘密裏に進めていた計画。
「──絶対支配計画……」
書いてあったのは、魔素による人工生命体の開発……
逃げ出した、唯一の成功例。
「試験体ナンバーE01。通称──アンリ」