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1、悪役令嬢だと気付きました。


 私の名前はカミーユ・オルレアン、15歳。

 オルレアン公爵の令嬢にして、次期王太子妃である。


 フランセイズ王国のシャルマーニュ王太子の婚約者として、日々厳しい王太子妃教育を受ける日々を過ごしている。


 シャルマーニュ王太子との婚約式を来年に控えているけれども、王太子殿下は気難しい方で、関係は必ずしも良好ではない。


『あれ?私、もしかして悪役令嬢だったのかしら?』


 その自覚は、唐突に訪れた。


 サン・ソーヴル大聖堂。

 今ちょうどその祭壇の前で、司祭により列聖の宣言が行われている最中だった。


 シルヴィ・アルト-子爵令嬢。


 決して高い身分とは言えない、子爵家の令嬢である彼女に、突然、神の託宣が降たのだ。


 様々な奇跡を立て続けに顕現したシルヴィ令嬢は、またたくまに聖女と認められた。


 そしてついに、生きているうちに入ることはまずない聖人の列に加えられるという、列聖の宣言をされるまでになったのだ。


 そして公爵令嬢として、その儀式に参列していた私、カミーユの頭の中には、不思議なことに、その後の展開が、まるで早送りの映像を見るかのように流れ込んできた。


 聖女として認められたシルヴィは、シャルマーニュ王太子と恋に落ちる。

 すでに王太子と婚約をしていた私、カミーユはそれを妬み、シルヴィに様々な嫌がらせをする。


 その私の嫉妬心を見た、反オルレアン派の貴族の罠に嵌まり、私は悪魔と取り引きをして聖女シルヴィを害そうとした魔女に仕立て上げられた。

 

 そして魔女認定された私は、火炙りの刑を受け、18歳の短い生涯を終えたのだった。


「ひっ…!」


 頭に流れ込んできたあんまりな結末に、私は目眩がした。

「カミーユ、どうしたの?」

隣に座っていたカミーユの母が、私の異変に気付いた。

「お母様…、私、具合が悪いみたいです…。」

突然の記憶の奔流に、私は完全に混乱していた。

「それはいけないわ。外に出て休みましょう。」

真っ青な顔をして、脂汗を浮かべている私を見て、お母様は急いで聖堂から私を連れ出してくれた。

「うう……。」

母と侍女に付き添われて、別室に運ばれながらも、私の頭には更にその後の映像も流れてきていた。


 蔓延した伝染病、それは全て魔女として殺された、私の恨みが引き起こしたものだと思われた。

 下町から発症し、貴族の間にまで広がったその病は、恐ろしいほど多くの人々を殺した。


 あまりの惨事に心を痛めた聖女シルヴィは、何日も教会で祈りを捧げ、ついに開眼した聖なる力を使って、伝染病から人々を救ったのだった。


「ああ……。」


 別室の簡易ベッドに横たわらせて貰いながら、私は流れ込んでくる、あまりにも恐ろしい未来の映像に喘いでいた。

 いったいこれは何の記憶なのか。


 そう、小説…。

 確か…、本。何かの時に読んだ本の筋書きと同じだった…。


 私は混乱する記憶をなんとか整えようと必死だった。


 私は、そう、学生だった。

 日本の学生だった私は、学業の傍ら、本や漫画を読むのが大好きだった。

 けれどある日突然、当時大流行した新型重症呼吸器症候群に懸かり、18歳の短い生涯を終えたのだった。


 そう、それが私の、現カミーユ・オルレアンの前世だったのだ。


 前世、そう、私は前世では日本の女子大生だった。

 ではなぜ、この先の未来を知っているのか。


 文字が浮かんだ。同時にとても綺麗な挿し絵。

 小説、そう、確か前世で読んだ小説が、まったく同じ内容だった。

 中世ヨーロッパをイメージした世界を舞台にした、愛と魔法のファンタジー小説。


『アンフィニ・アフェクシオン』略してアンアフェの内容と、この世界はまったく同じだったのだ。


 アンアフェの主人公は聖女のシルヴィ・アルト-である。

 

 私、カミーユ・オルレアンは、主人公を散々邪魔して嫌がらせをする敵役で、最後には火炙りという最悪の死に方をする悪役令嬢である。


「私が、火炙りに…、3年後……。」


 

「カミュ、大丈夫かい?具合が悪いのだろう?」

私の不調を聞いたお父様が、儀式を抜け出して、わざわざ私が休んでいる部屋まで来てくれた。


「カミュちゃん、可哀想に、きっと疲れがたまっていたのね。」


 その後ろにはお母様もいる。お母様が、離れて参列していたお父様をわざわざ呼びに行ってくれたようだった。


 オルレアン公爵とその妃という高い身分でありながら、お父様とお母様は、本当に心優しく、愛情たっぷりに私を可愛がってくれていた。


「お父様…、お母様っ…!」


 そんな優しい両親を残して、3年後に火炙りだなどという最悪の刑を受けて死ぬなんて、最低の親不孝だった。

 私の目から涙が溢れる。


「ごめんなさいっ…!」

「何を泣いているの?」

「泣くんじゃない、苦しいのか?」


 私の様子に、両親は心配して、私の背中を撫でてくれた。


 優しい両親、親不孝な私。


 この残酷な未来は、どうしても変えることができないのだろうか?


 両親の優しい胸に包まれながら、私は突然の覚醒を、必死に受け止めようとしていた。


 

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