19話 ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている
皆様それぞれが帰るべき場所に戻ることになりました。
ヨハンネスもといユーハン様は男爵閣下であることもあり、いい加減開けっぱなしだった領地へ。
メルヒオール様とエミリアさんは、グレイ様の生誕祭も目前であることと、領地の位置関係の都合で王都にあるお屋敷に向かうそうです。
ジェスカとハナちゃんはパウルス戻るそうですが、ジェスカは継続して私の護衛として働くそうです。
マリアも故郷のレークアに戻るそうですね。
アンジェリカとエディータは一度、ジバジデオ王国へ戻られるそうです。一度って何?
ルイーセ様とバルトローメスは、バルトローメスのご実家に帰られました。
エレナはナダルに戻るのかとお聞きしましたが、このまま私についていくと仰いましたのでご同行願いました。
そして私とエリオットお兄様、エレナ。それからなぜかグレイ様は今ベッケンシュタイン家に向かっております。
最後に別れたのは一番近くに住んでいるマリア。
すべての事件が解決したため、マリアはもう私の護衛である必要はなくなりました。元々騎士団所属の為、しかたありませんね。
「マリア、何かあったらいつでも連絡して頂戴。あなたがどんな身分であろうと、私にとってはかけがえのない存在なのだから」
「ありがとうございますお嬢様。いえ、もうお嬢様ではないのですね。また会いましょう、ルクレシア様」
もうお嬢様ではない。そうですね。一時的に彼女の主だったのですから当然です。
すべて終わったのですね。いえ、まだ決着がついていないことが二つあります。公爵令嬢ルクレシアをやめるための二つのこと。
思えば初夏。グレイ様のくだらないお遊びから始まりました。
グレイ様の生誕祭までに婚約者を見つけられなければ、グレイ様と結婚すること。
私はあの変態と一緒になると心が休まらないと思い大焦りしてレティシアのお茶会でルイーセ様やルーツィアに相談。
この時ルーツィアが、グレイ様の幸せの為に私と結婚して貰おうとしていたなんて、知りもしませんでしたけどね。
そして最初に目をつけたのは、大人になってからほぼ会話もしたことがないイサアークでしたが、これが飛んだ変人。
グレイ様といい、イサアークといい、周りの男は変人ばかり。頭を抱えたくなりましたわ。
そこからでしたね。私の人生って変人さんばかりだなって。そんな変人ばかりに愛されていた自分がつらかった。
それも過去。だって変人だなんて定義。私の物差しでしかありませんでしたから。
世界は広い。他国の王族は蛮族ですし、幼い頃から知っていた姫も、謎の宗教を口にする頭のおかしい人でした。
私の周りには男女問わず変な人、個性の強い人が集まってきていつしかそれが楽しくて。
今、私がこんなにも尊い方々に囲まれているのは、全て公爵令嬢として育てられたからです。
きっと平民として育てられていたら、巡り合えなかった方々。
本当の両親に育てられていたら、それはそれで別の出会いが待っていたでしょう。
ですが、今の私の幸せはこの道の先にしか求めることはできません。
私はベッケンシュタイン家に戻りますと、早速ヘロニモお父様が迎えに来ました。
もう公爵閣下の座はお兄様にお譲りになりお暇になった方。
私は夕食後にヘロニモお父様にお話がありますとお声がけし、ヘロニモお父様はわかったとだけ言い屋敷に戻られました。
「それではグレイ様は私の部屋に来てくださいますか? エレナ、お茶の用意」
「かしこまりました」
そしてエレナにお茶を入れて貰い、一度退室して頂きグレイ様と二人きりになりました。
「グレイ様、ご質問があるのですが宜しいでしょうか」
「何かな?」
「どこまでが計画通りなのですか?」
「それはどういう意味かな?」
「いえ、聞いてみただけです。なんかこのタイミングだったらお次はグレイ様の番かしらと思いまして」
「あのね…………君は一生悲劇のヒロインなのかい? もう終わったんだよ。少なくともクラヴィウス家が関わってきたことに関する悪事はね」
「そうですね」
あとは父の行いのみ。
ヨランデお母様を殺害し、私の父に成り代わった男。最後の決着は話し合いで済むと良いのですが、はたしてどういう結末が待っているのやら。
グレイ様は黙って紅茶を口に含み、私もすべて飲み干しました。
「君たちの会話に僕は立ち入っていいのかな?」
「むしろ問答無用で参加する気だと思っていました」
「ほら挨拶しないとだし」
「しなくて結構です」
本当はわかっています。今から私に婚約者を作れない。私達は結婚する。
エレナに呼ばれ食堂に向かっている最中、フリードリケとバッタリ遭遇。
「あの天啓諜報隊の方々は」
「それぞれの人生を歩むことになりますね。もう私達に主はいません。主の最後の遺言通り、レティシアを捕縛するところまで終わりました」
「ユリエの件はごめんなさい」
「何を仰っているのですか? ユリエ様はですね。あなたが天啓を暴くことができるほどまでに成長していたら、自らが死んででも、レティシアを止めることまでを想定して、我々に事前に指示しておりました。彼女が本当に目指していた世界平和の為に、我々も生きていくだけです」
そしてミシェーラの部屋に入ったフリーデリケさん。私達はお兄様の部屋に立ち寄りオルガ公爵夫人に挨拶しに行きました。
「夫人。戻りました」
「呼び方ぁ! わざとかい?」
「夫人、口調がなっていません。もっとお上品なお言葉をお選びください」
「え? え? わざとのなのかいルクレシア」
「はい、ご冗談ですお義姉様」
おなかもすっかり大きくなったお義姉様。出産はまだまだ先でしょうが大事そうにしている様子が羨ましい。
「お兄様はどちらに?」
「エリオットかい? ああ、さっきまで部屋に……あ、うん隅にいたね。目立たない人だからなぁ。僕が支えないとなぁ」
お義姉様はなんだかとっても嬉しそう。お兄様もそちらにいらしたのでしたら声くらい出して欲しいものです。
そして夕食。ヘロニモお父様、ユディタお母様。そして現当主となったエリオットお兄様に公爵夫人オルガお義姉様。
私と来客であるグレイ様がお隣りにされているのは、悪意でしょうか。
ミシェーラが私の隣りでにんじんを残そうとしているのを必死に食べさせようとしているフリードリケさんを見ては幼い頃の自分を思い出しました。
あの頃はヤーコフが世話をしてくださることが多かったですね。そう、私ちゃんとあの人に育てられていたのね。
そして夕食も終わり、ヘロニモお父様の待つサロンにグレイ様と二人でまいりました。
「これは王子殿下。何用で御座いましょうか」
「今日はルクレシアさん。いえ、彼女の本当の父のお話をしに来ました」
グレイ様がそう言いますと、ヘロニモお父様は目を見開きました。
「そうですか。事実を知ってしまいましたか」
「ええ。とても無視できることではありません。あなたから本当のことを聞きたい」
「わかりました」
ヘロニモお父様のお話は、ヤーコフがアンジェリカに送った手紙とほぼ一致。
私は服のうちに忍ばせていたミセリコルデを握りそうになりました。
しかし、今怒りに任せてヘロニモお父様に襲い掛かる訳にはいきません。
「お父様、私は幸せでした。ですがお父様の行いは一生許すことができません」
家族として育てられた以上、それが実は他人だったからといって一瞬で情がなくなる訳ではありません。
実母と言われてもあったことのない人。実父は別でしたがヤーコフお父様がヘロニモお父様を殺さなかったのはきっと、私をよりよい環境が育てられると判断したからなのかもしれません。
もし手を出してしまっていたら、ヤーコフお父様は公爵閣下を殺害した罪をせおうことになり、きっと私はどこかの施設に送られていたのでしょうね。
「ヘロニモお父様、私には二人の父がいます。貴方も私の父に違いありません」
「ルクレシア……」
「それで君は何を望んでいるんだいルー」
「罪は罪。償ってもらうつもりです。お父様は国外追放で良いですよね?」
「ああ、そうさせてもらおう。宜しいでしょうか王子殿下」
「そうだね、構わないよ。僕はこの場でヘロニモ元公爵閣下の処分はルーに任せるつもりだったし、どうせルーのことだから甘い処罰を下すと思っていたからね」
ありがとうございますとグレイ様にお伝えしますと、グレイ様は微笑みながら、それに彼が君を娘にしなければ僕たちは出会えなかったしね。
そういわれて私は、心臓の鼓動が急速に早まってしまいました。
父が私を無理やり公爵令嬢にしたのがおそらく十六年前だとして、そこから私は変人と呼ばれてもそん色のない方々に囲まれてきました。
このかけがえのない時間は間違いなく私の宝物でした。
途中、苦に比重の高い苦楽がありましたが、そういった経験が、今の私達の絆となっています。
さて、父の処罰は決まりました。
私が公爵令嬢としてやり残したことは、あと一つですね。
ルクレシアが公爵令嬢をやめる!?
次回最終回
今回もありがとうございました。




