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ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている  作者: 大鳳葵生
終章 有史以前から人々が紡いできたこと
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10話 オルガハウス

 船の上で流れが弱まるのを待っていた私達は、疲れ果てお互い眠ってしまっていたようです。


 日はまだ沈んでいない様子。とにかく陸地を探しましょう。


「もしかしてあれは島じゃないかな?」


「島!? いえ、船の上よりは幾分かマシよね」


 何やら小さな島。人がいることは期待できなさそうなそこに、何があるのでしょうか。


 手漕ぎで何とかその島にたどり着いたのは、そもそもの潮の流れがその島に行きつくようになっていたようにさえ感じました。


「あれは人工物のようだけど」


 グレイ様が指さしたその先には、オルガハウスと書かれた立札つきの小さな小屋がありました。


 ん?


 そういえば以前お義姉様が仰っていたような。確か……


『僕は昔北方の蛮族から逃げた時にね。無人島にたどり着いてそこで大量の保存食を作って自分専用の小屋を建てたのさ!』


 これのことですよね。


 オルガハウスと書かれた小屋の扉を開けようと思いましたが、鍵まで自作されています。


 私は何の迷いもなくミセリコルデでそれを破壊しました。


「こんな場所に防犯なんて不要ですわ」


「まあ、そうかもしれないけど」


 小屋の中には大きめのハンモックと小さめのテーブルがあるだけ。保管されていたであろう保存食はさすがに食べようとは思えませんでした。


「とりあえずあれ捨てといてください」


「令嬢に命令される王子。まあ、その後君が僕の為に何かしてくれるならいいけど」


「やっぱり私がやりましょう」


 グレイ様にお任せするほどのことでもありません。


 一応腐っている感じもなく、匂いもきつくないのでさっと捨てることができました。


 海に捨てに行っている間にグレイ様は森のどこかに進んでしまいましたので、私は重りになる鎧を脱いでハンモックの上に寝転がりました。


 そのまま眠りについてしばらく。ハンモックが揺らされています。


「起きないと全部脱がすよ?」


 ガバっと飛び起きたらそこにはグレイ様がいらっしゃいました。


「え? いつの間に鎧が!?」


「それは僕じゃないね」


「あら? あ、そうでした自分で脱ぎました」


 ハンモックからおろして頂き、テーブルの上に置かれた木の実や果物。


 この時期でも果物ってあるのですね。


「栽培したものじゃなくて自然のものだから味は期待しちゃだめだよ」


「そうなのですか?」


 言われてみれば色もなんか食事で出されるようなものと違いますね。後小さい。


 ナイフで切って頂いたそれを口に含みますと、みずみずしくもなく甘くも酸っぱくもなく渋い。


 次の果物は苦い。これは厳しいですね。


「明日はどうするんだい?」


「そうね、食料を集めつつ大陸を目指しましょう。いつまでも公爵令嬢と王子が行方不明という訳には行きませんわ」


「それもそうだね。でもルーは何をしてくれるんだい?」


「…………すみません、お助け下さい」


 さすがに一切手伝うつもりがない訳ではありませんが、その私が手伝って食べ物を台無しにする方が問題ですよね。


 私は集まった食料の管理だけさせて頂くことになりました。


 食料確保と簡単な調理。火の管理をすべてグレイ様にお願いしているのは申し訳ありませんし、せいぜい運び出すのを手伝うくらいはしましょうか。


 そして一晩過ごすとことになるのですが別の問題が発生しました。


 ハンモックが一つしかありません。


「一緒に寝よう」


「嫌です」


「じゃあルーがハンモックに乗って」


「では」


 私がハンモックに乗りますと、当然のようにグレイ様も乗ってきました。とりあえず二人分の重さには耐えられるようです。さすがお義姉様製。


「ってちがーう! 何平然と一緒に寝ようとしているのですか?」


「焦った顔、動揺した顔。全部近くで見せてよ。そして幸せな顔も、できればして欲しいな」


「難しいご注文」


 グレイ様が隣りで眠られるのよね。幼い頃に経験がないわけではありませんが、はっきり言ってあり得ない状態。


 心臓が急加速し、顔が真っ赤になるのがわかった私は、迷わず顔の向きをグレイ様の方から逸らそうとしましたが、グレイ様は私の両頬をしっかりと抑え込みました。


「こっちを見ていて欲しい」


「私の表情を楽しみたいだけですよね」


「それもあるけど、僕を見ていて欲しい」


「安っぽい言葉」


「ダメか」


 いいえ、決してダメという訳ではないんですけど。むしろ美しい顔をみたいなど、安易な誉め言葉よりも自らの欲望に直球なお言葉の方が、愛されているような気がします。


 だからつい、もっと言ってほしくて、ダメ出ししたくなるのです。


「じゃあ、もう言わない」


「え!? あ、そうですか」


 私が驚いてはいけません。きっとそういう反応すら楽しまれているのです。


「ほら、拗ねちゃった。言って欲しいならそう言わなきゃだめだよ」


「拗ねてなんて」


 これはそういう感情なのでしょうか。表情に出さないことができない。本当にグレイ様は昔からずるい方です。


 私が喜ぶことも、怒ることも、拗ねてしまうことも全部知っているのですね。


「もう離してください。十分でしょう。寝にくいです。顔は……背けませんから」


「合格」


 そういってグレイ様は私の頬に口づけをし、そっと手を放してくださいました。


 私の顔はどんどん熱くなり、ですが背けないと言った手前顔の向きを変えることもできず、走行しているとグレイ様の表情がより一層楽しそうになり、本当にずるい方。


「明日からどんどん働いてもらいますからね」


「君とこうして過ごせるならいくらでも」


「ああ、もう! おやすみなさい!」


「おやすみ」


 そういったグレイ様は私のことを思いっきり抱きしめて眠りにつきました。


 なんてことをなさるのですか!?


 グレイ様の行動のせいで私は心臓の鼓動が高まり、バクンバクンとするそれを抑えるのに必死になり、中々眠りにつけませんでした。


 ずるい人なので制裁が必要だと思います。そう思いませんか?


 私はそっとグレイ様の頬に悪戯をし、眠りについてやりました。


 翌朝。何かが思いっきり私を抱締めています。


「何をなさっているのですかグレイ様」


「この生活も悪くないね。でも、君に苦労は掛けられないね」


「質問の回答になっていません」


「気にする必要はないよ。だから明日もよろしく」


「嫌です」


「おはよう」


 そういった彼は、また私の頬にキスをし、そのままハンモックからおりました。私も彼に抱っこしてもらいおります。


「それじゃとりあえずまた果物を取りに行こうと思うけど君はどうする?」


「暇ですので安全な範囲で付いていきます」


「そっかー僕から離れたくないんだね」


「あまり変なことを言いますと、寝ているあなたにかみつきますよ」


 怖い怖いと呟いたグレイ様は、容器になりそうなかごを持って森に入っていきました。


 そのかごはやはりお義姉様お手製なのでしょうか。昨日作った感じではなさそうですね。


「鎧を着たいので手伝って頂けますか?」


「重くないかい?」


「見た目と違い結構軽いんですよ。ですがそれでも動きにくくて、それでも慣れておこうと思いまして」


「そう」


 グレイ様に手伝って頂き鎧を着用。


 途中明らかに不要ないたずらを仕掛けられそうになりましたが、あとでお相手しますと一言添えましたら真面目にやってくださりました。


 後でお相手したくないので、忘れていてくださることを願いましょう。無理でしょうけど。


「しかし君がそんな恰好をすることになるなんてね。成長したんだか、ワガママが強くなっただけなんだか」


「いいじゃない。私のワガママな悪評を広めた張本人でしょ?」


 そういいますと、グレイ様は笑いながら、こうなるなんて想像しないよって言われてしまいました。


 ええ、私も想像したことすらありませんでしたよ。


 鎧に包まれ、父の剣を持ち歩く。このようなことで、こんなに高揚するだなんて少し前の自分では考えられませんね。


 その後、果物の採取をしたり、本の知識で得た食べられる野草集めが始まりました。私案外公爵令嬢やめても生活できるのではなくて?


 本日の分と保存用の食糧を集め、これで問題なし。船のオールになりそうな太めの流木もゲット。


 その晩もグレイ様に悪戯され、私がこっそり悪戯を仕返しての夜を過ごし、朝を迎えました。


 それから数日、ついに目標数の量の食料の確保に成功。保存できるように乾燥もさせています。


 飲み水もある程度集められました。本の知識だけでなんとかなるか不安でしたが、グレイ様もある程度の知識と騎士団と一緒に演習を受けていらっしゃったそうで何とかなりましたわ。


「では戻りましょうか」


「方角は大丈夫?」


「太陽があちらから登りますので、大陸は太陽が昇る方に違いありませんわ。まあ、万が一間違えても海の端まで行けば逆だとわかりますわ!」


「端がすぐそばにあればね」


 さあ、帰りましょう。アルデマグラ公国。

現在のみんなの目標


ルクレシア ・無事アルデマグラ公国に帰ること

グレイ   ・ルクレシアを困らせること


今回もありがとうございました。

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