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ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている  作者: 大鳳葵生
第2章 公爵令嬢でもできること
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22話 お互いがお互いを護りたくて

 いつまでも続く金属同士のぶつかり合う音。三人は一体どれくらいの人数に囲まれているのでしょうか。


 私の肩が震えていたのでしょう。突然、肩をがっしり掴まれてエレナが真っすぐ私の目を見て喋りましたわ。


「ルクレシア……万が一の時は私が馬でお前を連れて逃げる。オカマとマリアとおっさんを置いていく覚悟はあるか?」


「え? それにエレナは乗馬ができるの?」


「ナダルの女をなめるなよ? 名馬と言えばナダル領の馬って言われているだろ?」


 三人を置いていく。私にそれができますでしょうか?


 かつてヤーコフさんを置いていくことを選んだ私は、後程どれほどの後悔をしたことでしょう。あの時は既に命が絶たれていましたから仕方なかったといえば、そうなのですが三人はそういう訳ではありません。


 亡くなられた方を置いていくことすら後悔した私が、生きている方を置いていくなんてできますでしょうか? いいえ、できません。


「エレナ」


「覚悟できたのか?」


「私は絶対に逃げないわ」


 私の答えを聞いたエレナは、少しだけ驚いていましたが、すぐにルクレシアらしいかもなと、仰り私のことをぎゅっと抱きしめましたわ。


「そんなお前だから護りたいんだよ。ルクレシア」


 エレナは私の腹部を思いっきり殴ろうとしましたが、私は最初からエレナが私を気絶させるだろうと気づいていました。拳を手で防ぎ、鳩尾に入ることだけは防ぎましたわ。


「私が気付かないとでも思いました?」


「正直思ったよ。長年の付き合いだっていうのに、こっちはバレバレでお前は随分急成長しちまったじゃねえか。専属メイド寂しくて泣いちゃうぞ?」


「既にポロポロこぼしているのは涙ではなくて?」


「馬鹿か? これは寂しさの涙じゃねえ。感動の涙だ」


 もう一度彼女と強く抱きしめ合いました。外ではヨハンネス達が今も必死になって戦っています。剣や槍がはじき合い、誰かの悲鳴が響き、時々何かが噴出したような音に、おそらく人体が地面に倒れ込むような音らしきものまで聞こえてきました。三人は無事なのでしょうか。


 その時でした。ヨハンネスの叫び声が聞こえ、私はつい反応してしまいました。


「マリア!!!」


 マリアに何か!? 私はその言葉に反応してしまい、つい馬車から顔を出してしまいました。


 そこでは、腕から血が流れながらも長い槍で体を支えながら戦っているマリアの姿。そこに切りかかろうとしてくる野盗らしき男を、ヨハンネスが剣で防ぎ、マルッティが蹴っ飛ばす。二人してマリアの救援に向かってくださったのですね。


 それにしても、あれだけ結婚願望のあったマリアの体になんてひどいことをしてくれたのでしょうか。勿論、マリアも騎士になった時から覚悟していたことでしょうけど。


 それにしても三人が一か所に集まっているように見えますが、馬車の近くには誰もいませんの?


 そう思った瞬間でした。後ろから大きな物音がし、振り返った瞬間にエレナの叫び声。何事?


 叫び声に気付いた三人の走ってくる足音も聞こえてきましたが、振り返った光景に私は唖然としていました。


 エレナは取り押さえられ、馬車には野盗が三人も乗り込んできていたのです。どうやらエレナは気絶させられているようです。野盗たちは布で顔を隠して、目が一部だけでているような恰好をしていました。


「おい」


 野盗が私の腕を掴んで話かけてきましたわ。


「お前を捕まえればいくら金が貰えるんだ?」


「……そのメイドを運ぶ手間におつりがくるくらいには、頂けると思いますよ?」


 だから……エレナを、返して…………


「へぇ。良い度胸だ。このメイドを運ばなくても、お前一人で結構な稼ぎになるっていうならお前だけ連れて行こう。お前の覚悟に免じてな」


 その瞬間、後ろから叫び声が聞こえました。


「お嬢様、避けてください!」


「やめなさいヨハンネス! エレナに傷がつくわ!!」


 すぐ後ろには剣を構え、野盗に向かって突きをしようとしていたヨハンネスが硬直しています。私が避ける気配がなく、このままでは私にも傷がつきかねないと判断したのでしょう。


「お嬢様! どいてください! あなたを護らなくてはいけないのです!」


「そうね、後で罰せられて頂戴。……ごめんなさいマリア。傷物にしてしまって」


「いいえ、この傷は覚悟の上です。ですが、お嬢様を護れなくては、この傷は名誉の勲章にならないのです。命令違反してでも、あなたを無事領地に連れていきます」


 その言葉には、エレナはどうなってもいいと仰っているように聞こえました。いえ、実際そう仰っているのでしょうね。


「お嬢様だの領地だの。それに着ているドレスも良い。停泊している馬車を見たときは少しでも稼ぎになればいいと思ったが、護衛がやたら強くて不思議だったんだ。これは大物だ。絶対手に入れてやる」


 野盗二人が前に飛び出し、ヨハンネスとマリアにとびかかりました。そしてエレナを抑えていた野盗が、エレナを真後ろに回り込んでいたマルッティに向けて投げ飛ばしまし、そのまま私を肩に担ぎましたわ。


「エレナ! マルッティ!」


「大丈夫だ! メイドの嬢ちゃんも無事だ!」


 そうですか、少しだけ安心しましたわ。ですが状況が最悪です。私が完全に敵の手中にいます。抜け出す手段はありません。ああ、きっとヨハンネス達は強く後悔するのでしょうね。それからお父様たちも……特にお義姉様は私を出発させた張本人です。もしかしたらベッケンシュタイン家に嫁ぐことをやめてしまうくらいには責任を感じてしまうかもしれません。


 他の野盗たちと応戦しながら、三人は戦ってくれていますが、私を連れ去ろうとしている野盗はそのまま馬車から離れていき、どんどんみんなが小さくなっていきましたわ。


 ごめんなさいね。皆様の覚悟を踏みにじってしまいました。三人対十数人という光景で、明らかに野盗たちよりも実力の差を見せつけるも、数が多すぎますし、私たちは碌な休憩を取れていません。


 さきほどの野盗の口ぶりから、彼らは私たちが何者か知らずに襲ってきたようですね。刺客とは関係ないのでしょうか。


「私たちを襲ったのは偶然?」


「あ? いや、情報をもらったんだよ。狙いやすい馬車があるってな。おっとそいつは俺たちにいつも情報をくれる奴だ。口は割らないぜ」


 では情報をもらったってことも言わなければ良かったのでは? まあ、良いですわ。つまりそのいつも情報を渡してくる方が実は刺客と繋がっているという可能性は捨てきれませんのね。


「随分冷静だな」


「まだ焦るタイミングではないわ。貴方お金になるって仰いましたでしょ? つまり一応生存できる可能性もまだ見込んでますの」


「そうか。随分とまあ気の強い女だ。だが、アジトに連れ込む奴はみんな生かして返さないに決まっているだろ?」


 ……なるほど、そういうことですか。確かにアジトの場所を把握した方など生かしておけませんよね。わかりますわ。徹底されていますのね。ですが、正しい判断だと思いましてよ。さぞかし優秀な方なのでしょう。さてと……助けてください! 助けてください! 待ってください! 助けてください! 死んでしまいます! お金にされた上に死んでしまいます! 嫌です! 嫌! 嫌! 待って! 助けてよ!!!!!!


「アジトとかじゃなくて、木に括り付けるとかでも……良くてよ? ね? ね?」


「お前結構馬鹿だな。人目につく可能性がある場所に匿えないに決まっているだろ。それにお前の開放は金にならないしな。だから解放はしない。その後は俺たちみんなでお前を使うなり売るなりするに決まっているだろ? まあ、畑の肥やしとかにする気はねーから安心しな」


 あー、誰か助けに来ませんかね。今からでも遅くないですよ?


 カッコつけてメイドを護り、無抵抗で捕まったままの公爵令嬢がいましたね。あちらの公爵令嬢はポンコツです。今すぐそのポンコツを救出してください。これはポンコツからの命令です。いえ、公爵令嬢からのです。


 私って本当に馬鹿ですわね。ヤーコフさんが命を懸けて救ってくださった命を、グレイ様のお手を煩わせ救ってくださった命を、私を命がけで護ろうとしたエレナを逆に護ってしまい、命を懸けて護ると誓ってくださった騎士たちの覚悟を、台無しにしてしまいましたわね。


 でも……エレナを護れましたわ。


エレナを護るために、エレナの覚悟を護れなかったルクレシア。


大人しく野盗に捕まったのも、生き延びれると信じてしまったから。


しかし、現実は甘くなかった。


今回もありがとうございました。

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