14話 うちの騎士の紹介なら一応無害かも?
お義姉様と出会ってから翌朝。せっかく出会ったオルガお義姉様とお話もしたいのですが、私は急遽エレナ、ヨハンネス、マルッティ、マリアを招集しました。目的は当然リンナンコスキ家の夜会に出席する際のエスコート役探しですわ。
「急すぎますお嬢様」
エレナは他の人がたくさんいらっしゃいますので、綺麗な喋り方で喋っています。ここ最近では着替えやメイクの時にしか暴言の多いエレナと会話しませんね。
「仕方ありません! お兄様に頼むつもりでしたが、お義姉様がいらっしゃいますもの」
あまりタイミングが宜しい訳ではありません。その上、あのように少々変わった所のある方ですが、あんなにお優しいお義姉様を邪険になんてできませんわ。夜会でお義姉様の様子を少し見てみたいところもあります。
「うーむ。嬢ちゃんが声をかければ案外誰でもくるんじゃねーか? あ? 俺は奥さんしかエスコートしねーぞ?」
「貴方の誠実な所は把握しています」
マルッティは一応ガルータ伯爵家の当主で、今回も当然奥さんと一緒に参加されるようですわ。
「そういえばマルッティ。貴方には息子さんがいましたよね? 彼はどうなのでしょうか?」
「ミコラーシュか? あいつは煌びやかな場所が嫌いだからなぁ? 声はかけてみるが、すまねえな。さっきは誰でも来るって言ったがうちの息子は例外だ」
「独身……そのミコラーシュ様は私と結婚できますか?」
「マリア黙って」
「すまねぇな。できれば貴族令嬢と婚姻させてやりてぇからマリア。おめえはダメだ」
「そうですか結婚したい……結婚できるかな……」
私より深刻そうですわねマリア。私も婚約者ができましたら婚活のお手伝いして差し上げますわ。でも私より先はダメです。絶対にダメです。
マリアは当然あてがなかった様子。他の独身騎士の知り合いに当然貴族の方々もいらっしゃるようですが、マリアが近づくと皆逃げ出すそうですわ。何をしたらそうなるのよマリア。
本当に結婚できなそうなマリアは、ここにいては自分の精神力がそぎ取られてしまいます。と言って退室しましたわ。ごめんなさい。今度、どなたかの披露宴に護衛として連れて行ってあげますね。……一緒に泣きましょう?
「ヨハンネス! 貴方は誰か呼び出せないの?」
「私ですか? そうですね。一人来てくれる方がいるかもしれません」
「あら? 貴方から紹介して頂ける方ですのね? その人はちゃんと男性?」
「男性ですよ。それに彼もお嬢様のことは綺麗だと言っていましたし」
ごめんなさいねヨハンネス。なんだか信用できませんでした。……あら? あらあら? その方は私をご存じ? あー、いえ私を存じ上げている方なんてどこにいてもおかしくありませんよね。
「私を綺麗って言われましても。一般論ではなくて?」
「……ご自分で仰ってしまうのですね。まあ、一般論と言っても過言ではないくらいお嬢様は綺麗ですが」
当然です。私の美しさは全人類共通認識ですわ。まあ、とにかくヨハンネスが紹介したい相手は、私に対して一般論でありますが、好印象であるということなのですね。でしたらまあ、宜しいですわ。一度くらいお会いしましょうか。
早速、彼に向けて手紙を書きましょう。私はレターセットとペンを持ってきますと、エレナが強引にそれを奪います。
「ダメですよ! お嬢様が文字を書きましたらインクでダルメシア様になってしまします」
すごい暴言が飛んできた気がします。え? 普段暴言が言えなくなった反動ですか? そもそも私ご自分で手紙を書くつもりはありませんでしてよ? 勿論、恋文となれば挑戦してみようかなとは思いますが、あくまで一度お茶しましょうってお誘いするだけです。
イサアークの件の反省をいかし、今度はこちらに招く方針ですわ。一体どのような方がいらっしゃいますのでしょうか。
「日付はどうしますか?」
「急で申し訳ありませんが明日の昼頃が良いですわ。早めに見きわめないとといけませんし」
「では、手紙が書き終わりましたら、私がお届けします」
「そうね、お願いヨハンネス」
ヨハンネスの紹介する男性。前提条件である貴族であることは決まっていますから、男爵家以上の方だと思いますが、一体どのような方なのでしょうか。
できれば年がそう離れていなくて、綺麗な顔立ちで私に意地悪しなくて、爵位もなるべく高い方。いえ、ヨハンネスは準男爵ですからあまり高位の貴族は期待できませんね。でしたら精々子爵家であれば多少の文句はなしにしましょう。
エレナがいつも通り手紙を用意すると、ヨハンネスがそれを届けるために屋敷を発つ。今回は、こないだの書庫の時とは違い、マルッティにマリアもいますから安心ですね。
私たちの小会議が終わったことに感づいたマリアも戻ってきて、いつも通り私は読書。エレナは紅茶の用意をし、マリアは室内待機とたまに私の話し相手。マルッティは屋敷内の見回りをし始めました。日課のようなものです。
暫くしますと、お義姉様が私の部屋にやってきましたわ。
「どうかなさいましたか? お顔が青いですわ」
「昨晩ちょっとね。いや、まあちょっと嬉しかったけどね」
昨晩? 嬉しかった? あまり嬉しかったと顔が青くなるのは関連づきませんが、まあ嬉しかったことがあったのでしたら、こちらも心配するようなことではないのでしょうね。気のせいでしょうか、昨晩のことを思い出したのか顔の赤くなるお義姉様。はて?
「そういえば、お義姉様は海を渡られましたのよね? 今度はその話が聞きたいですわ!」
「お? 聞くかい? 聞いてくれるかい?」
またまた始まるお義姉様の冒険譚。どうやら北方の蛮族から逃げ出すために、蛮族たちが漁で使っていた漁船を奪って脱走したことがきっかけのようですわ。侯爵令嬢ですよね?
はじめはそこにある道具で魚を捕獲して、船内にある火をつける不思議な道具を利用して調理したそうですわ。何故使えましたの?
暫く漂流していますと無人島にたどり着いたそうですが、ジバジデオ王国で学んだサバイバル術で生き延び、更には保存食を大量に作り込み、そのまま出航されたそうですわ。無人島には、お義姉様自作の小屋まであるそうです。建築技術はどちらでお学びに?
「その後は島国にたどり着いたんだよね。はじめはアルデマグラ公国かなとか思ったけど、なんか喋っている言葉が違ったから別の国だってすぐわかったよ」
その国は巨大な騎士の国家だったそうです。また、貴族や平民問わず皆が紳士的な男性で女性には淑女であることを強制するような国だったそうですわ。それ以外はアルデマグラ公国とあまり変わらない国だったそうで、お義姉様は飽きてすぐに出航されたそうです。
航海中の出来事も中々経験できることではなく、また聞き入ってしまいましたわ。お義姉様ってなんでもできてとても羨ましい方ですわ。私も少しでもできることを増やそうかしら? そうね、うーん。インクをまき散らしてダルメシア様に早変わり? 自虐はやめましょう。
「今度はルクレシアのことを教えてよ!」
「私の話ですか? そんな面白い話など……いえ、これはつい先日の話なのですが、あまり公表したくないことです。でも、お義姉様には知っていただきたい内容です。期待していらっしゃるところ申し訳ありません。あまり愉快なお話ではありませんが、どうか聞いていただけますでしょうか?」
「聞くよ。妹の頼みだ。その話があまりいい話じゃないとしても、君のことを知ることに変わりはない。辛い話だったらわざわざ話させるようなことしてごめんね。でも、お義姉ちゃんはルクレシアの辛いことを共有して、許して貰えるなら一緒に泣きたい。そういう姉に僕はなりたい」
私はロムニエイ公爵家で起きた事実をお義姉様にお話しました。一般的に公表されている部分は、イサアークが私を誘拐しようとしたことと私が十日間行方不明になったことだけ。
イサアークに暴行を受けたこと。三日間泥まみれになって湖の水をすすって生きたこと。そして護衛が殺されたこと。すべて話しました。ディートリヒ家でエミリア様から受けた行為は特に話すことではないと思ったので、正確にはすべてではありませんが、イサアークから受けたことは話しました。
話終えると、お義姉様は大粒の涙をこぼして私に抱き着いてきましたわ。
「酷すぎる! 僕の妹がこんな仕打ちを受けているときに、何故僕はアルデマグラ公国にいなかったんだ! ごめんよルクレシア!」
「いえ! お気になさらず! そもそもその時は、私とお義姉様はお顔も知らない仲でしたし。お義姉様が心を痛めることなんて何もありませんわ!!」
本当に素敵なお姉様ですわ。冒険譚から垣間見える本当に侯爵令嬢? 本当に次期ベッケンシュタイン公爵夫人? と、思いたくなるところを含めても、この方は良い兄嫁です。兄がぼそぼそとしか喋れない方でしたからとても安心しました。
「まともな男が見つからなかった時は一緒に外国に行こう! きっと良い男に出会える!」
「か、考えておきますわ」
半年以内にこの国を見限るようなことがあればお願いするかもしれませんけれどね。さすがに大丈夫ですよね。
少々不安な気持ちになりましたが、まだまだ出会っていない方々はたくさんいます。大丈夫でしょう。
その後、ヨハンネスが戻り、どうやらお相手から了承の返事を頂けたようですわ。明日はとても楽しみですわ。と言いますか、今更ですがヨハンネス。何故お相手の名前を教えてくれませんの? そういえば、聞いていなかった事実に気付き、ヨハンネスに尋ねることにしました。するとヨハンネスはこう切り返しました。
「会うまで内緒です。彼にもそう伝えておきました」
これで変な男でしたら貴方解雇ですからね。
私もオルガお姉様みたいな姉が欲しいです。
とどまるんじゃねーぞ
今回もありがとうございました。




