13話 ダンゴムシって呼ばれるのが羨ましいって頭大丈夫ですか?
客室のベッドの上で眠っていますと、やけに騒がしい気がして目が覚めそうになりましたわ。
「ん? 何かしら?」
「ですから何故裸なのですか!?」
ヨハンネスの声ですわね? 裸とは何のことでしょうか。
「良いんです! これで良いんです! ヨハンネスさんはそこにいても退室しても構いません!!」
エミリアさんの声ですの? んー? 何かしら? これで良いとは何がこれなのかしら? まだ少し眠いですわ。もう少し寝ましょう。
「とにかく私はルクレシア様に害などありません! そこを通してください!」
私に害はないんですの? 何をしているのかしら? でも、害がないなら良いですわよね。
エミリアさんが何をしようというのでしょうか? そういえば、先ほどヨハンネスが裸と申していましたね。
誰か裸なのでしょうか? ヨハンネスがツッコミを入れているということは、エミリアさんが裸なのでしょうね。何故?
私はガバっと上体を起こそうとしましたが、手遅れでした。そこには裸で私のベッドに向かってくるエミリアさんの姿が目に映っていましたわ。はい?
「あ、ごめんなさいルクレシア様! 今大人しくしますね!」
そういった彼女は、そのまま私の隣りで横になりましたわ。私は彼女をまるで理解ができないかのように見つめていました。
本当に理解できていません。今もなお夢と判断しています。ヨハンネスも全裸の令嬢を直視できなかったのでしょう。
ああいう反応を見る限り、彼は男性の可能性が高そうですね。今はそれどころではありませんね。ありませんよね?
「ヨハンネス、一応だけど状況説明してくださる」
「えっとですね、お嬢様。先ほど突然エミリアさんが入室されまして、私はいてもいなくてもいいと言われたので、特にお嬢様に害はないかと思って彼女の様子を注意深く見ていましたら、突然衣服を脱ぎ始めました」
「ああ、やっぱり彼女今裸なのね。見て聞いて触れてもまだ信じてなかったけど、疑いようがなさそうね」
ヨハンネスに説明を求めている間に彼女は私を抱きしめてきましたわ。ああ、もう理解に追いつきません。まだ夜みたいですし、良いでしょう。
「では、ヨハンネスおやすみなさい」
「え? え? 私だけが普通なのですか? お嬢様! それゆっくり休めるのですか!?」
「んー? でも無害なのでしょう?」
それよりも眠気が勝っていますわ。これを追い払うのはどう考えても疲れます。ですが、まあ、受け入れていると思われるのは心外ですね。少しは試みましょう。
「エミリアさん、常識はありませんの? 私は公爵家、貴方は伯爵家。無許可でベッドに入るだなんてありえませんわ」
「お嬢様、それは逆でもどうかと思います」
何かヨハンネスがツッコミを入れていますが、気にしません。気になりません。何故か睨んだはずのエミリアさんがうっとりしているのです。うっとりするところはどこなのでしょうか。
「ルクレシア様! いえ、お姉様!!」
「お姉様!?」
彼女から突然いつもと違う呼ばれ方をして、私は一瞬で目が覚めましたわ。そして何故かお姉様という呼び名に背筋がぞわぞわっとしましたの。
「はい! お姉様! 同じ屋根の下! もう我慢できません! もっとその目線をお願い致します!!」
ああ、なんか最近変な人が多いですわね。彼女もイサアークと同じようなものなのでしょうか。
「ああああ、ありがとうございます! お姉様!!」
本当に無害な気がしてきましたわ。でも何でしょう。このまま彼女をここに置いておくのは、なんだかいけない気がしてきましたの。
「エミリアさん、貴方は何をしに来たのですか。正直にすべて話なさい?」
「はい、お姉様。すべてさらけ出します。受け止めてください」
なんか嫌になってきましたわ。なんでこんな方に守られているのでしょう。
護衛のはずのヨハンネスはなるべくエミリアさんを見ないように部屋の隅で丸まっています。あのダンゴムシ騎士は明日ゆっくり叱りましょう。
「本当はお姉様にこんな姿。まだお披露目する気はありませんでしたが」
「いえ、一生お披露目の機会はなくて結構でしてよ」
「ですが、お姉様と同じ屋根の下。我慢できませんでした! 私、本当はお姉様を愛していたのです!! ですので夜這いに来ました!! この際、護衛さんはいるとかいないとか男とか女とか関係ありません! 罵ってください!!」
「ヘー、アア、エミリアサンッテジョセイヲミルメガアリマスノネー……ってそうではなくて、貴方の行動のどこにそのような片鱗がありまして!?」
今まで出会い頭に転ばされたこと。
王宮内で階段から落とされたこと。
夜会の最中に池に落とされたこと、お茶会の会長で紅茶をかけられたこと。
温室で泥まみれにされたこと。
社交界で新調したばかりのドレスのスカートを破かれたこと。
ダンスの最中に接近してきて、わざわざ私の足のところまでエミリアさんの足を延ばして私の足を踏まれたこと。
お辞儀と一緒に頭突きされたこと。
まだまだ思い出せばたくさんありますが、私を愛している人間がとる行動ではありませんわ!?
「私、お姉様に失望されたように見つめられるのが最高に気持ちいのです!!」
「気持ち悪いですわ」
「それです! 愛しています!!」
ああ、私今度から彼女を気持ち悪い人として認識して、彼女はそれが嬉しいのですね。
イサアークより無害ですが、イサアークより気持ち悪いように感じられますわ。
「お嬢様、耐えられません。しばらく退室していますね」
「ちょっと待ちなさい! 貴方護衛としての務めを果たすときですよ! 逃げないで! お願い! ヨハンネス!! ちょっと!! ダンゴムシ!!!」
「お姉様! 私は何の虫でしょうか!!」
「貴方は会話に混じらないでください!!」
「ありがとうございます!!」
「ご幸せに」
ヨハンネスは退室しましたわ。本当にあの護衛は明日説教してあげます。
横でうっとりしている変質者を私は少しだけ押しのけますが、それが嬉しかったのでしょう。彼女はすり寄ってきましたわ。
「とにかく服は来てください。そうすれば横で眠るくらい許可致します!」
「本当ですか! ではさっそく」
彼女は私が着ていた服に手を伸ばし、それを脱がそうとしてきましたわ。
「あなたの!! あなたの服を着なさい!! 私のではありません! あなたのです! おやめ! おやめなさい!! 脱がさないで!!」
「すみません、お姉様。ふふふ」
彼女は嬉しそうに笑うと、やっと自分の服を着ましたわ。私は彼女が服を着たのを確認するとすかさず部屋を飛び出しましたわ。
「ダンゴムシ! 出番よ!! 追い出しなさい」
「あの、私はそのような趣味は……了解しましたけど」
ヨハンネスは服を着たエミリアさんを摘まみだしましたわ。そしてすぐに部屋のドアと鍵をかけました。
ヨハンネスも入ってこれないことは小さな問題です。ダンゴムシなのですから庭園にある石の下がお似合いです。
「疲れましたわ。一体何なのでしょう。突然……突然?」
イサアークといいエミリアさんといい、ここまで変わるのでしょうか。本性を出すタイミングが近いというのは偶然なのでしょうか。
きっかけは私が二人の屋敷を訪れたからですの?
いえ、ロムニエイ家の屋敷はシーズン入りの時に王都に来た際に挨拶に伺いましたわ。
その時は遠目で見た程度でしたけど、訪れていますことに違いありません。ディートリヒ家の屋敷も去年しぶしぶ足を運んだこともあります。
彼女の私を困らせるような困った行動も知り合って間もなくです。三年以上前からですから去年行動を起こさなかったのは我慢できたからでしょうか。
イサアークだって私が夜会で転んでから何度かあっているはずです。まあ、変質者の考えることなんて考えるだけ無駄ですね。
皆様、我慢が足りないようですわね。……理性でも壊されているのかしら?
エミリアさんを追い出したことにより、突然疲れが襲ってきましたわ。このまま眠りにつけそうですね。とにかく明日は……ダンゴムシ…………
私の意識はそこで途切れましたわ。
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簡易キャラクター紹介
name:ヘロニモ・ファン・ベッケンシュタイン(ルクレシア父)
最近の散財:ルクレシアの見合い写真用の肖像画を複数用意するために国中から画家を呼びつけて納得のいく肖像画をかける者を探したこと
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各話タイトル修正しました。(2019/05/19 20:59)
今回もありがとうございました。




