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第55話、装甲艦の進水

 


 統一歴1790年10月15日

 スフィア中央州 アルファス連邦国海軍スフィア造船所



 大きく湾になったスフィア湾の北部にある造船所、そこではある船が造られていた。鉄で覆われた艦影、それまでの艦艇と違い大きな砲塔。アルファス連邦国初の装甲艦である。そして今日はその進水式であり、アルファス連邦国国王や大臣、各州知事(領主)、関係が深い商会長など数多くの人が来ていた。

 アルファス連邦国はエリフィス教諸国家でも珍しい魔導戦艦と呼ばれる古代文明の遺産を保有していない国である。その為、海軍力では底辺に位置しており、その軍事力は通常なら非常に低かった。しかしアルファス連邦国は精霊界に通じる門がある聖域があり、精霊使いの数が群を抜いて多い国家である。

 その為、これまで格上の帝国が幾度となく海を渡って侵攻してきたが、精霊使いや友好国の助けもあり、撃退してきた。しかし最近帝国を含むルフ教諸国での軍事力の増強が著しく戦争が近いとの報告が諜報局より上がってきていた。その為、新興国であるアルファス連邦国としては他国に頼らない軍事力の整備にこれまで取り掛かってきた。

 それが軍事と治安維持を分ける軍警分離であり、軍隊の再編であり、装甲艦の建造である。幸いにもアルファス連邦国は非常に豊かであり、薬草や特産品の輸出により莫大な利益を出しており予算に関しては非常に多い。

 そしてこの世界には魔法がある為、建築にしても造船にしても非常に短時間で可能である。今日進水予定の装甲艦も地球世界なら数ヶ月は必要だろうが、今回は2ヶ月、構想から進水まで2ヶ月で完成させた。実際の建造期間だと1ヶ月程であろう。


「お待たせ致しました!これよりアルファス連邦国海軍第1番建造計画予定艦の進水式を行います!ではオルフィス防衛大臣、お願い致します!」


 これまで何度もアルファス連邦国海軍艦艇が建造されたが、装甲艦という事で1番からスタートさせたのである。


「アルファス連邦国防衛大臣のオルフィスだ。アルファス連邦国海軍初の装甲艦をウィリア級装甲艦1番艦【ウィリア】と命名する!」


 オルフィス防衛大臣が声高らかにそう命名すると会場から溢れんばかりの拍手が起こり、艦艇が入っていたドックに海水が入れられて、木の枠の上に置かれていた装甲艦が浮かび上がってきた。

 こうしてアルファス連邦国海軍初の装甲艦であるウィリア級装甲艦1番艦【ウィリア】がアルファス連邦国海軍スフィア造船所で進水した。


「おめでとうございます。オルフィス防衛大臣。」


 進水式が終わり、商会長や貴族の相手が終わり飲み物を飲みながら一息入れていると立派なルクレール王国海軍の制服を着た男がやってきた。


「貴国にそう言って貰えて光栄です。ルクレール王国海軍大臣ルフィアン殿。」


 彼はルクレール王国海軍大臣であるルフィアン•アフォース。ルクレール王国海軍を統括する海軍大臣である。ルクレール王国ではアルファス連邦国みたいに軍全てを統括する防衛大臣は置いておらず、大日本帝国みたいに海軍大臣と陸軍大臣と別れている。


「このウィリア級装甲艦でしたかな?我が海軍のオルレアン級装甲艦より大きいですな。兵装なども洗練されている。」


「他のエリフィス教諸国海軍の装甲艦は既に4000tクラスに突入していますからな。我が国は貴国と違いそこまで数も揃えられない。この艦艇も第1艦隊及び第2艦隊に各4隻づつの計8隻建造して終わりですよ。」


 ルクレール王国のオルレアン級装甲艦の進水後、エリフィス教諸国群では装甲艦の建造•進水が相次いでおり、既にオルレアン級装甲艦の2500tを超え4000t級へと突入していた。

 既にここ十年程は戦列艦の建造は行われておらず、民間の船舶も魔導機関を搭載した艦艇の建造を行なっていた。


「ふむ、装甲艦は値が張りますからなぁ。だがそれだけの価値が装甲艦にはある。オルレアン級装甲艦が建造されて以来我が国の戦列艦の建造計画は全て白紙となり廃止されました。幾ら戦列艦があっても装甲艦には敵わない。人員の削減にも繋がりますしね。」


 装甲艦の1番の利点はその速さである。帆船タイプの戦列艦は時速約5ノット程度、しかも風に左右される為、不安定だ。一方魔導機関を搭載した戦列艦は10ノット、だが、木造の為積載量が少ないというデメリットがある。だが、装甲艦なら15ノット程の速度があり、安定しており、鉄製の為建造時の単価は跳ね上がるが、キチンと整備を行っていたら木造より持ち、積載量も多い。


「なるほど、最近帝国がまたキナ臭いですからな。備えるに越した事はありません。」


「あらあら、ルフィアン海軍大臣殿、お久しぶりです。」


 2人でスフィア湾が見える高台の海辺の場所で話しているとそこに長い銀髪の誰が見ても美人と呼べる女性がやってきた。その歩き方に既に品があり、彼女が貴族である事が伺える。


「これはこれは、レイリス財務大臣殿。こちらこそお久しぶりです。」


 彼女の名前はレイリス•アストレア。アルファス連邦国の州の一つであるアストレア州を統治しているアストレア家の長女であり、今はアルファス連邦国の財務大臣である。

 幼い頃から商学に興味があり、アルファス魔法学院の商学科に進み、主席で卒業、その後はアルファス伯爵領の財務管理官を務め、アルファス連邦国の成立と同時にアルファス連邦国財務大臣へと就いた。


「ご一緒させて頂いても?」


「ええ、どうぞ。ところで貴国は全兵士に銃を配備しているそうで、予算があって非常に羨ましい。我が国でもまだ国防に金を出す事に懐疑的な貴族も多い。財務大臣の貴方もよく分かるでしょう。」


 アルファス連邦国が開発したレスター銃はレタール銃と同価格でありながらトースタ銃より性能が高い傑作銃であった。アルファス連邦国防衛総省はシールスト国戦において改めて銃の威力を認知し、全部隊へレスター銃の配備を決めたのである。


「ふむ、元ルクレール王国の我が国としても充分に理解しています。危機が目の前に来なければ生物はその危険さを理解出来ないですからな。他のエリフィス教諸国家でも大なり小なり反発はあるそうで。」


「アルファス連邦国は元がルクレール王国によってそれなりに整備されていましたのでそれなりに余裕があるのですよ。最も国力では貴国には敵いませんがね。」


 そうレイリス大臣が言うとそれに合わせるようにオルフィス大臣も頷く。元々アルファス領は最低限の整備をルクレール王国が行なっており、よって独立時にも大した整備をしなくても良かったのである。

 

「なるほど、貴国みたいに貴族が私兵を持ってないとうまく事が進みそうだ。我が国も減らしているが、一気にやればそれこそ国が二分される内戦だ。」


「我が国は成り立ちがあれですから。賛成派の貴族も多いのでは?」


 アルファス連邦国の伯爵家は元々アルファス伯爵家の部下、男爵家であり独立時に自動的に伯爵家に上がった。男爵家は私兵の保有をルクレール王国の法律において禁止されており、その為、伯爵家になった今も私兵は誰一人持っていない。

 伯爵家や公爵家•侯爵家が私兵を持っているルクレール王国やその他の国とは成り立ちがそもそも違うのである。


「私兵の削減•廃止に賛成の貴族でも隣の領地が反対派で多数の私兵を持っていたら増やさざるを得ない。その辺りはどう思っていますか?レイリス殿。」


 基本的にいわゆる精霊派、エリフィス教徒の貴族や私兵を持っていない男爵家•子爵家は私兵の保有に反対、反精霊派、ルフ教徒の貴族や公爵家•侯爵家は私兵の保有に賛成である。

 数上では反対派の方が圧倒的に多いのだが、賛成派の方が全体的に身分が高くこれまで議論になる事が無かった。

 しかし反精霊派の筆頭であり公爵家でもあるムセル公爵家全員が精霊の怒りを買って死亡、その後の調査で悪事の数々が明らかとなり、その他の反精霊派の貴族も多数、悪事で取り潰しとなり、ルクレール王国の勢力図が様変わりした。

 それまで権力だと6:4で精霊派が少し多い程度であった。しかしこの事件後、勢力図が9:1以下にまでなった。その為、最近になって議論になっているのである。

 そして精霊派の貴族でもあるルフィアン大臣は同じ貴族でもあるレイリス大臣に質問をした。


「領地の経営は父がやっていますので、私はなんとも。だが、私兵の軍拡競争になればいつかは国の財政が逼迫してしまいます。何処かで手を打つ必要があると思います。」


「なるほど。」

 

 今のところルクレール王国の財政は逼迫どころか反精霊派の貴族の資産を吸収した為、非常に豊かであるが、今後は分からない。レイリス大臣の考えにルフィアン大臣も同意した。


「いざとなれば、賛成派の貴族の私兵と国軍で対処に当たってから賛成派の私兵を無くすのも一つの手ですね。最も、その場合賛成派が私兵がなくても安心できるだけの治安維持などを行う必要がありますが。」


 もちろんそれは最終手段であるが、彼女の考えの深さにルフィアン大臣は思わず溜息をついた。


「はぁ、魔獣が少ない貴国が羨ましい。」


「我が国も魔獣はいますが。」


 現にアルファス連邦国でも魔獣は存在する。逆に他の国より魔素濃度が高い分アルファス連邦国の方が多いであろう。だが、アルファス連邦国の場合は精霊が非常に協力的な為、人的被害になる事は非常に珍しく、大抵の場合は精霊が処理するか、軍や冒険者達が処理してしまう。


「軍警分離、やってみる価値はあるが、絶対に予算は増えるだろうな。」


「あら、私兵の削減分を回したら問題ないかと思いますが?」


 アルファス連邦国の場合は私兵がそもそも居ない為、予算は増加したが、私兵の分を治安維持に回したら十分に治安維持は行える。少なくともレイリス大臣はそう考えていた。


「貴国は軍警分離で上手く行っているようですね。」


「ええ、レイン殿下の案ですね。相当博識なようで。」


 レイリス大臣もレイン王子には何度も話を交わしているが、その度にその知識量と先を見通す考えに驚いていた。


「おまけに兄弟仲も良い。将来も安泰ですね。」


「ふふふ、貴国だって兄弟仲はよろしいのでは?」


 基本的に権力者の家族仲や兄弟仲は良くなく、最悪の場合殺しあう事もザラであった。だが、アルファス王家やルクレール王家では家族仲•兄弟仲は非常に良かった。


「余計な貴族が何もしなければ安泰ですな。」


「さてさて、この世界はどうなる事やら。」


 そう言いながら3人の国の大臣は他国の装甲艦と共に試験航海を行なっているウィリア級装甲艦を眺めていた。






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