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第54話 国王の憂鬱

 


「はぁ〜。」


 湖の近くにそびえ立つ王城の中にある執務室で書類の山と格闘し終えた彼は疲れたような溜息を吐く。

 ルクレール王国国王であるグレン•レア•ルクレールは独立したアルファス連邦国国王となったレイルズ•フォン•アルファス程ではないが、大量の書類と格闘しなければならなかった。


「お疲れですね、あなた。」


 そう言い執務室に入ってきたのはルクレール王国王妃であるセシル•レア•ルクレールである。

 彼女は元々スイレン聖王国の王族であり、貴族では珍しい恋愛結婚であった為、非常に夫婦仲は良い。

 一夫多妻が多い貴族の中で側室などを持たないグレン国王はかなりの愛妻家としても知られている。


「あぁ、か。ほんと最近は疲れるよ。」


「ふふふ、貴方が言い出した事じゃないですか。私としては独立して欲しくなかったのですが、仕方がないですね。」


「独立した結果、我が国は良い方向に向かっている。反精霊派の筆頭が亡くなって精霊派が勢いづいてきた。あんな戦争があったが、結果周辺諸国は今は平和だ。」


 ルクレール王国は国教を他の諸国と同じくエリフィス教としているが、国の勢力図ではエリフィス教とルフ教が競り合っていた。

 信者数では9:1以上の差があるのだが、ルクレール王国の貴族、いわゆる3つある公爵家の内2つがルフ教徒の反精霊派であった。

 残りの1人と王家は精霊派であった為、激しく対立しておりこれまで幾度となく水面下で衝突を繰り返していた。


「戦争ですか、覚悟はしてますが、改めて聞くと嫌な言葉ですね。」


「あぁ、最近帝国の辺りがキナ臭い。そろそろ侵攻してくる頃だと思ってる。」


 元シールスト王国と大河を挟んである国が帝国と呼ばれているルフ教諸国の筆頭国であるサルバント帝国である。

 サルバント帝国は軍事大国であり、これまで幾度となくエリフィス教諸国と衝突しており、最近になってまた侵攻してくる可能性が示唆されていた。


「なら、アルファス領のままの方が良かったのでは?」


「アルファス家は力が強すぎる。あのまま伯爵家としていたら間違いなく他の貴族との霹靂を生む。下手すれば他の貴族達に担ぎ上げられ我が国は分断して内戦だ。」


 元アルファス家は伯爵家であり、領地持ちの貴族では最高位の貴族である。

 東•西•北アルファス島からなる元アルファス伯爵家はルクレール王国の1割超の領地を持ち、貿易などにより財力も非常に多かった。

 また、他の精霊派貴族家に財政支援なども積極的に行なっており、最強の軍事ユニットである精霊使いも当時のルクレール王国の1300人中800人が元アルファス伯爵家所属であった。


「あの人が担ぎ上げられるとは到底思えませんがね。」


「同感だが、芽は紡いでおいた方が良い。でもちょっと後悔しているよ。」


 当時アルファス伯爵家の当主であるレイルズ•アルファスが担ぎ上げられるような人では無かった。

 しかし、その王家も脅かせる程の強大な力は王家としても無視出来なかった。

 最も独立に踏み切ったキッカケは当時アルファス伯爵家次男のレイン•アルファスが風属性の大精霊と契約した事とである。


「後悔?」


「あぁ、精霊派と反精霊派とのバランスを取る為にアルファス家を独立させたが、直ぐに反精霊派の筆頭のムセル公爵が亡くなったからね。」


「瓦礫の山でしたっけ。犯人は分かっているのですか?」


 ムセル公爵家の屋敷が瓦礫の山となり、ムセル公爵家を含む多数の反精霊派貴族が死亡したこの事件は王家により揉み消され、ムセル公爵家は取り潰しとなった。

 この犯人は瓦礫の山となった公爵家に残された魔力の残り香から風属性と判明し、こんな事が出来るのは風属性の大精霊のみと判明したのである。


「あぁ、最重要機密だが、犯人は多分シルフィ様だ。」


「シルフィ様!?確かシルフィ様はレイン王子の。」


 そう言われセシル王妃は大変驚いた。


「あぁ、契約精霊であり、風属性を司る大精霊だ。」


「まさかレイン王子がシルフィ様に命令を?」


「いや、原因ははっきりしている。ムセル公爵がレイン王子暗殺の為、間者を送り込んだらしい。シルフィ様は許さなかったみたいだね。」


 その事を聞きサァッと顔が蒼くなるセシル王妃だったが、グレン国王も同感であった。

 精霊にとって人間など暇潰しの相手であり、例えルクレール王国が無くなったとしても、独立したアルファス連邦国が無事ならなんとも思わないであろう。

 しかし、グレンを含め、ここまで人間に対して思い入れが深い精霊を見た事が無かった。


「はぁ、下手すれば我が国が無くなってたかもしれませんね。」


「流石に関係ない者までは巻き込まないと思うけど相手は精霊だしね。まぁ、おかげでムセル公爵家の悪事も分かった事だけど。」


 ムセル公爵家は財務長官として国費を横領し、私服を肥やしていた事が今回の事件で明らかになり、財務省にも手入れが入り多数の官僚が捕らえられた。

 ルクレール王国で公金の横領は自宅での謹慎であり、破ったら即刻極刑である。

 そして調査の結果横領し、購入した資産などは全て売り払われそのお金は国の国庫に帰ってきたが、その額は国庫の予算の1割にも及び、ルクレール王国の国家予算の3割にもなった。

 その為もあってか国王であるグレンは僅かばかり機嫌が良い。


「まさか公金を横領してたなんて、貴族としてあるまじき人ですね。」


「国庫が1割も増えたんだから相当だね。関係者もそれなりに居たみたいだよ。今は居ないけどね。」


 突然反精霊派の筆頭貴族に付く官僚など反精霊派である為、失脚した人の代わりに入って来たのは精霊派の人であり、ルクレール王国で反精霊派は殆ど影響力を失った。

 残るもう1人の反精霊派の公爵家は日和見主義であり、反精霊派がピンチになるとすぐさま精霊派となった。

 最も日和見主義であるが、公金の横領などは一切行なっておらず、精霊派からも一目置かれる存在であった。


「当然です。」


「私はあのレイン王子を面白いと思う。あのアルファス連邦国で行なってる数々の改革、全てレイン王子の案らしいね。」


「軍警分離と税制改革ですか?」


 軍警分離は国内の治安維持を警察に任せ、国防や侵攻などを軍に任せるという分離案である。

 これまでは軍が国防や侵攻、国内の治安維持を全て行なっていた。

 警邏という治安維持組織が無かった訳ではないが、警察は警邏とは人員•予算•規模共に拡大された組織である。

 税制改革は公地公民制だった税の徴収を地価に応じた固定の税率に変更された事である。

 レインとしては現代国家みたいに所得税や法人税•住民税•付加価値税(消費税)などを導入したかったが、時期早々として諦めた。

 ちなみに法人税だけは採用され法人(商会)に対して導入されている。


「あぁ、どこであんな知識を手に入れたんだろうね?一時期あのニホン国の魔導戦艦について調べてたみたいだし。古代文明に興味があるのかな?」


 ニホン国に関しては20年前にルクレール王国沖に浮かんでいた海上自衛隊(当時)の【あたご型】イージスシステム搭載護衛艦の解析より所属国が日本国だと分かっている。

 しかし考え方として、あくまで古代文明の一国家という位置付けであり、武装が貧弱な実験艦艇と考えられている。


「ニホン国ですか?あの壊れていた魔導戦艦の建造国の。多分シルフィ様じゃないですか?風属性の精霊は知識が豊富ですから。」


「そうだろうね。多分シルフィ様経由で古代文明の事を聞いているんだろうね。そう言えばまた面白い艦艇が見つかったようだよ。」


「面白い艦艇ですか?」


「あぁ、我が国とアルファス連邦国の間の近海で浮かんでいた艦艇だよ。その艦艇がニホンの魔導戦艦みたいな設計思想なんだ。」


 そう言って見せた魔写にはアーレイバーク級イージス駆逐艦が写っていた。

 当然の事ながら【あたご型】イージス艦はアメリカのアーレイバーク級イージス艦の姉妹艦であり似てるのは当たり前であった。


「そうですか、建造国はニホンですか?」


「いや、ニホンじゃなかったよ。アメリカ合衆国という国の艦艇らしい。また古代文明に新たな国家が出てきたよ。」


「アメリカですか?聞いた事ありませんね。その艦艇はどうするのですか?」


 ニホン国という名前は20年前の事で名前だけ知っているが、アメリカ合衆国という名前は初耳であった。


「ん?ニホン国の艦艇は20年程前に我が国が沈めたからね。魔導戦艦を1隻も保有していないからアルファス連邦国に譲ったよ。」


「そうですか、なんて名前の艦艇なんですか?」


「ん?これだよ。」


 机の引き出しを開けて取り出した紙には『アメリカ合衆国海軍所属DDG-119.ダニエル•イノウエ』と書かれていた。

 間違いなくアメリカ合衆国海軍が2020年に就役させたアーレイバーク級イージス駆逐艦の68番艦である【ダニエル•イノウエ】だった。



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