第53話 原因
レイン達がテスト結果に沸き夜になり寝静まっている頃、風属性の大精霊であるシルフィは寮から飛び妖精の森へと降り立った。
風属性の精霊であれば音速を超える事も容易い、現にシルフィはリフェルティア学園から妖精の森の中心部までの数千キロを経った十数分で飛んできた。
今回シルフィは精霊王アリフェスに頼まれて魔獣達がシールスト国のみに攻め入った理由を解明しに向かっていた。
妖精の森は非常に魔力濃度が高い為、強い魔獣が出現しやすい場所である。
しかし魔獣達もシルフィの只ならぬ気配を感じ取っているのか襲おうとはしてこない。
最も森の管理者でもある精霊に対して襲おうとする魔獣などは皆無であろうが。
そしてシルフィが妖精の森に降り立って数分経つとスウッと光の球が現れ、人化した精霊が現れた。
「シルフィ様、ようこそ妖精の森へ。」
そう言ったのは妖精の森を管理している木属性の精霊である。
彼女は木の大精霊であるティリアの眷属であり、上位精霊である。
「久しぶりね。ここは相変わらず濃度が高いわね。」
妖精の森は他に比べて魔力の濃度が極めて高い。
聖域も魔力の濃度が高いが、それは精霊界と下界を繋ぐ精霊門があるからであり、人為的である。
しかし妖精の森はこの星の仕組みの為、魔力の溜まり場となっている為、魔力濃度が高いのである。
「そうですね、だからこれをここに植えたのですよ。」
そう言い聳え立つ精霊樹を見上げる。
精霊樹は木の大精霊であるティリアが植えた精霊の力を宿した木であり、この大陸ではここ妖精の森にしか無い。
その精霊樹の葉はどんな病気でも完治させる薬となり、実はレベルが上がるポーションとなる。
精霊樹は現在この大陸に3本(妖精の森に3本)、アルファス連邦国に4本(聖域に3本、スフィア城に1本)の計7本ある。
「植えたのは私じゃなくてティリアだから。私は関係ないわ。まぁ、妖精達も元気そうね。」
「ええ、もうここに入ってくる種族は殆どいませんよ。たまに来ますが追い払ってます。たまに処分してますけど。」
この妖精の森は強い魔獣が徘徊している為、滅多な事がない限り立ち入る事は無い。
だが、希少種を獲りに来たり警備がない事を良いことに悪い事を企んでいる奴等がたまに入ってくる。
普通は魔獣で脅し排除するが、度を超えると処分しているのである。
「そうね、そう言う奴らは遠慮しなくて良いわね。」
そう言ったシルフィにとって邪魔をしてくる人間は処分の対象でしか無かった。
「ところで2ヶ月ほど前、シルフィ様が追いかけて処分した人間達はどうしたんですか?言ってくれれば私達で処分しましたのに。」
2ヶ月前、つまりレインを暗殺しようとしたなんでも屋をシルフィが殺した事である。
あの暗殺者達が長距離転移石を持っており、それを使った為妖精の森へと転移した。
それでシルフィが追いかけてきて殺したのである。
その為、特に妖精の森へと用事があった訳では無かった。
「あぁ、あのゴミ達は私の大切な人を殺そうとしたから私が手を下したのよ。貴方が気にする事では無いわ。」
実はあの後も何度かレインを暗殺しようと殺し屋が差し向けられた事は多々あった。
だが、それは全てシルフィが潰しており同じ数だけ各国の屋敷などが瓦礫の山となっていた。
精霊にとって大切な人とそれ以外は天と地程の扱いの差があり、それ以外の人を殺すのになんの躊躇も無い。
「そうですか、変わりましたねシルフィ様も。」
彼女は昔を思い出したかのように言った。
「レインだけよ。それ以外は変わらないわ。」
レインの前では他の人にも愛想良く振舞っているが、実際その人達が何されようが心が痛む事は無い。
更にましその人達がレインを殺そうとした時躊躇なく殺す覚悟はシルフィにあった。
「前はそう思う人間すら居なかったのに。」
「 • • • • • • • • • そんな事より、理由を教えてくれる?あの馬鹿国がここに侵攻したの?」
馬鹿国、つまりシールスト国の事である。
あからさまに話を晒したシルフィだったが、彼女はそれに触れる事無く話を始めた。
「いいえ、あれは戦争が始まってすぐの事です。あの国の方から紫色の煙が流れてきました。あの付近に住んでいた者達は皆逃げて来ました。」
「紫色の煙?」
紫色の煙、明らかに毒々しい色をしている煙である。
「はい、そして暫くするとその煙を吸った者達が次々と死んでいきました。恐らくあの紫色の煙は毒で、魔獣達はそれで怒ったのでしょう。」
「なるほど、その煙の正体は分かったの?貴方なら分かるわよね?」
木属性の精霊である彼女は全ての植物を把握しており、その煙がどのような植物で作られたかは見ただけで分かる。
「はい。あの煙はコラ草を煮詰めた液体を燃やした時に出る煙でした。その液体自体は酸性で触ると爛れます。人間達の間では拷問用の液体として使われている物ですね。だけど彼等はそれを濃縮し、燃やしました。燃やした時に発生する煙は魔獣達にとっては嫌な臭いです。そしてその匂いを一回でも嗅ぐと暫くして痙攣して死亡します。」
コラ草は大陸中に広く自生している植物であり、精錬時の分離を促す薬草としても使われている。
そしてそのコラ草を細かく潰しその出てくる液体を煮詰めると、強い酸性の液体となる。
その酸性度は塩酸レベルであり、通常は金属の光沢を出す為に使われる。
だが、裏では拷問用としても広く使われ、今回シールスト国はそれを濃縮し燃やす事で発生する煙が魔獣の嫌がる匂いだという事に気が付いた。
そしてその煙が魔獣を死に至らしめる事にも、そしてルシタニアを攻める時に不足する妖精の森に対する警戒の為、その液体を使ったのである。
この液体の特性にはルクレール王国も気づいていたが、有害•無害関係無く殺してしまう事や、精霊の怒りを買う事から王命により封印されており、気が付かなかった。
ちなみに当然魔獣にも有害な魔獣と無害な魔獣が存在しており、グリフォンや飛龍は無害な魔獣の代表的な者であった。
「はぁ、多分あの馬鹿国はその煙を戦争で人手が足りなくなるこことの隣接地帯で発生させたのね。まぁ自業自得かな?」
恐らく魔獣を殺してルシタニアとの戦争が終われば妖精の森へと侵攻する手筈だったのであろうが、結果その煙が原因で国が滅びだ為自業自得と言えた。
最も、14万の兵力で敵へと侵攻するなら、治安維持や警戒の為の最小限の人員を残すのが普通である。
しかし、シールスト国はそれを怠った為に滅びたのである。
ちなみに魔獣達がテーラの街に侵攻しなかったのはようやく精霊が出てきてストップさせたからである。
「そうですね。結果私達の地域は広がりましたので。」
これまで定期的に討伐されていたがこれからは討伐される事がない為、魔獣達の生息域は北に広がるだろう。
基本的にエリフィス教諸国は南部にある為、幾らシールスト国が最北端とは言え木々は沢山生えている。
薬草の生産拠点の為、当然と言えば当然なのだが大河を挟んですぐの帝国が荒地ばかりだと考えると如何に精霊の力が強いか分かる。
「分かったわ。精霊王様にはそう報告しておくわ。ところで貴方達に被害は無いのね?」
「私達に直接的な被害はありませんが、木々に多少の被害が出ています。暫く経つと元通りに戻るでしょう。」
当然、有毒ガスを森中に巻かれたのだから植物も呼吸をする為、被害がない訳が無い。
だが、この妖精の森は精霊樹が生えており、その力は他の植物の再生能力を高める効果も持つ、直ぐに元に戻るだろう。
「なるほど、一回ティリアにも伝えておくわ。」
「ええ、お願いします。」
そう言いシルフィは光の粒子となって転移する精霊転移を使い精霊界へと転移していった。




