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第48話 占領

 

「はぁ、一体どうなっているんだ。」


 シールスト国テーラ地方の領主であるノムス•テーラは最近起きている異常事態に頭を抱えていた。

 事の発端は数日前、毎日王都であるシールドから来ていた交易商人がばったりと来なくなったのである。

 そしてその後は他の街を行き来する商人も来なくなり、いつしかあれほど商人達で溢れていたテーラの街はすっかりと人気が無くなってしまった。

 シールスト国は国軍とは別に各領主が保有する領主軍が存在し、テーラ地方も領地軍を保有していた。

 昨日、近隣の街へと派遣した250名の軍がすっかり人気の少なくなったテーラに帰還した。

 帰還した兵達は皆顔が青ざめており、ただならぬ事があったと感じ直ぐ様報告を受けた。

 報告の内容は想像を絶する物だった、『王都シールドを含め他の街は魔獣に襲われて壊滅、生存者は皆無。』そう言う報告であった。

 直ぐ様、城門を封鎖し、警戒を上げ外への出入りを禁止したのである。


「主力軍はルシタニア侵攻の為不在、発生時期としては最悪ですね。」


「あぁ、しかし国は何の対策もしなかったのか?経った4万の兵で妖精の森の討伐と治安維持を行える訳がない!」


 そう怒りを露わにするノムスだったが、彼の言う事も最もである。

 警察組織の無いシールスト国で軍は14万の兵力で国防•侵攻•治安維持を行なっていた、他に比べて多い兵力のお陰でシールスト国は治安が良好であった。

 しかしその兵力の3分の2以上の10万がルシタニア連邦国侵攻作戦に参加する事によりシールスト国の治安は悪化の一途を辿っていた。

 更に妖精の森と隣接している為、魔獣の討伐も任務の中に加えられていたが、人員不足によりそれも行えていなかったのだ。


「お気持ちは分かりますが、落ち着いて下さい。ルシタニア連邦に救援と行きたい所ですが、」


「ただ今絶賛戦争中、ほんと最悪な時期だよ。とりあえず密偵を派遣したが、いつになるやら。」


 そう悪態を吐いたが、現にシールスト国はルシタニア連邦国と戦争中であり、支援を求めれる状況では無かった。

 シールスト国の他の貴族と違い領民を想ってこれまで内政に励んできたが、今回ばかりはどうしようも無かった。


「一応、全ての城門は封鎖し、外壁には警備の兵を立たせています。」


 テーラの街はルシタニア連邦国との国境近くにある為、街は高さ7m程の城壁に囲まれていた。

 その為、防御力は他の街と比べて高かった。


「そうか、南の薬草栽培地区はどうなっている?」


「2000の兵を立たせて警戒に当たっています。しかし、数匹から対処出来ますが、報告通りの魔獣の大群が押し寄せてきたなら、避難するしかありません。」


 街は城壁によって囲まれているが、南地区にある薬草の栽培区域は柵で囲まれているだけである。

 一応いくつか警戒監視棟があるが、数匹の魔獣用であり、数百の魔獣の襲来に耐えられるような作りでは無かった。


「幸いにも、強固な城壁が街を囲んでいるからな、食料の備蓄も豊富にある。」


「はい、お嬢様には既に手紙を送りました。」


 ノムスの娘はアルファス連邦国のアルファス魔法学園に国外留学中であり、少なくとも命だけは無事であった。


「そうか、アルファスなら無下に扱われる事もないだろう。もし生き延びたならもう一度会いたいな。」


「はい、そうですね。奥様の安全も確認済みです。」


 その言葉にノムスは「そうか。」と言った。

 ノムスの奥さんは現在ルクレール王国の実家に里帰りしており、里帰り中に今回の戦争が始まったのである。

 もし自分が死んでも娘が一人にならずに済みそうな事にノムスは安堵した。


「そうか、ならあいつも一人にならずに済みそうだ。」


「し、失礼します!連合軍が、」


 そうしみじみとしていると、突如執務室の扉が開き領地軍の兵士が入ってきた。

 連合軍と聞いて、ノムスは嫌な予感がした。


「どうした!?連合軍がどうしたんだ!?」


「連合軍が城壁の周りを囲んでいます!その数は数万に上ると見られます。」


 そう聞きノムスは戦慄した。

 領地軍の兵力は4000であり、いくら防壁があるからとは言え数万の兵力には敵うわけが無かった。

 強硬突破されるならまだいい、だが兵糧攻めをしてきたら脱出手段を持たない領民達は干からびる事になるだろう。


「な!?魔獣の襲来かと思ったら敵は人間だったか。」


「あ、いえ、それが、どうも敵のようではないみたいです。」


「何!?しっかりと説明せよ。」


 要領を得ない兵士の説明に補佐のアルタが怒りを露わにするが、兵士は酷く同様していた。


「あ、すみません!連合軍と見られる兵が囲んでいますが、戦闘は行われていません。それで一人の男が領主様との会談を望んでいます。」


「会談?その男の名前は分かるか?」


 敵の都市を攻撃する前にその代表と話し合い交渉で都市の明け渡しなどをするのは基本であった。

 そうすれば最小限の犠牲でその都市を得られるからであり、その会談は都市の中でするのが基本だった。

 もし都市の中に引き入れてその交渉者を殺すような事があれば間違いなくその都市は蹂躙されようが何をされようが文句は言えない事であった。


「信じられませんがその男はニノ•リーティスと名乗っています。」


「な、何だと!?ニノ•リーティスだと?直ぐ様連れて来るんだ!」


 想像を絶するビックネームを聞き何故直ぐに連れてこなかったのかとノムスは思った。


「し、しかし。まだ本人かも分かりませんし、戦闘が始まっていませんが、一応は敵軍ですので。」


「そんな直ぐにバレる嘘を吐く奴がいるか!彼となら何回も会った事があるから直ぐに分かる。良いから直ぐに連れて来るんだ!!」


 ニノ•リーティスと言えば風の中位精霊と契約している世界最強の精霊使いである。

 そんな嘘を吐く奴が交渉役に抜擢されるとはノムスには到底思えなかった。


「は、はいぃぃ!!直ぐにご案内致します!!」


「ノムス様、落ち着いて下さい。彼ほどの有名人が来たとなれば疑うのは当然です。」


 さっきから怒鳴りまくっているノムスに対しアルタは落ち着いた声で話す。


「そ、そうか。だが確か連合軍はシールスト国軍と戦闘中じゃ無かったか?10万もの我が軍が破れるとは思えないが。」


「おそらく侵攻軍の奴らも事情を察して連合軍と講和を「無いな。」」


 補佐のアルタが話している最中にノムスはその事を否定した。


「な、何故ですか?」


「今回の侵攻軍の指揮官はゲルニアだと聞いている。あんな奴が講和なんて考える訳がない。まぁ、あるとすればアイツが味方に殺されたか、戦死したかのどちらかだな。」


 ノムスは何度もゲルニア•シールストと会っている、ノムスの中で彼は王族という身分を振りかざした者という認識である。

 彼が下の兵士の命を大切にする人だとは到底思えずその彼が敵の連合軍と講和するとは到底思え無かった。


「そうですか、」


「ニノ•リーティス殿がいらっしゃいました!」


 そう、兵士が言うとノムスは席に着き、アルタはお茶を入れに別の部屋へと向かった。


「入ってくれ。」


「失礼します。」


 そう言うと兵士に案内され一人の男が入ってきた。

 ノムスは数度彼に会っており、彼があのニノ•リーティスだと直ぐにわかった。


「私が今回テーラ地方領主のノムス様との交渉を任されましたアルファス連邦国軍近衛師団精霊魔法部隊隊長のニノ•リーティスです。」


「本物のようだな。いや、済まない。よく来てくれた、座ってくれ。」


「はい、失礼します。」


 そう言われるがままニノはノムスが座っている向かいのソファーに座った。

 その時丁度アルタが紅茶を持ってきて二人の前に置いた。


「私とアルタ、そして彼以外の人は部屋から出てくれ。」


「は!失礼します。」


 そう言うとニノを案内した兵士と補佐のアルタが部屋の外へと出て扉の鍵を閉めた。

 会談する時当事者以外は部屋から出るのが鉄則であり、何人も入らないという事で鍵を締めるのがルールである。


「早速だが、事情が聞きたい。テーラの街を囲んでいる兵達はなんなのだ?」


「そうですね、まず初めにシールスト国は魔獣によって壊滅しました。まとも都市機能を維持しているのはこのテーラのみとなります。」


 その事にノムスは非常に驚いた。

 シールスト国はテーラを含める17の中核都市と王都であるシールドの全18の都市から成り立っており、ニノによるとテーラを除いた17都市は既に滅びたと言うのだ。


「何!?テーラだけだと?」


「はい、そうです。更にルシタニア連邦国に侵攻してきたシールスト国軍は壊滅しました。降伏した3万の部隊は武装解除を行い現在捕虜という形を取らせてもらってます。」


 連合軍は反撃を決め全軍でシールスト国軍に反撃を仕掛けた。

 既に戦意を喪失していたシールスト国軍は全軍が連合軍に降伏し3万の兵は捕虜となり、ここにシールスト国軍侵攻軍10万は壊滅したのである。

 地球の中世だと指揮官は処刑するのが普通だが、この世界では指揮官は敗戦した時点で一般兵と同意であり、一人に責任を押し付けるのは違うという理由から纏め役になる事はあっても殺される事は無い。

 だが、その戦争を支持した国家指導者は処刑するのが基本である。


「10万の軍が負けたと言うのか?」


「はい、そして魔獣がテーラの街を蹂躙したら薬草の調達先が無くなると判断し、この街をエリフィス教諸国の国際共同管轄都市とするかもが決まりました。ゆくゆくはルシタニア連邦国に併合されるとお考え下さい。貴方の地位はそのままでこれからもテーラの街を治めて頂きます。」


 この事はルシタニア連邦国やフラント王国、ルクレール王国を含めエリフィス教諸国に通達されており、勝手事項である。

 まだ大まかにしか決まっていないが、テーラの街は国際共同管轄都市となり、暫くしてルシタニア連邦国に併合される事が決まっていた。

 そしてテーラの街の防衛は領主軍と多国籍軍が行う事になっており、ルシタニア連邦国に併合されたらルシタニア連邦国軍が行う事も決まっていた。


「そうか、」


「連合軍のテーラ進駐を認める事、シールスト国から独立する事、薬草の輸出を行う事、これらの条件を認めるなら連合軍は魔獣の脅威からテーラ地方を守護しましょう。」


 連合軍がテーラの街を守護する、その事をはっきりとノムスは聞いた。


「もし、断ったら?」


「何もしません、我が軍はルシタニア連邦国へと撤退し、この街は魔獣に蹂躙されます。」


 街が間違いなく魔獣に蹂躙される、その事にノムスは強い嫌悪感を抱いた。


「!?」


「貴方はこの街の防御を魔獣が突破するとお考えになっているのか?」


 だが、落ち着いて考えれば当然である。

 数日前まで連合軍は敵で戦争をしていたのである、それだけの事をしなければこの魔獣の危険性があるテーラを防衛してはもらえないだろう。


「はい。この街の防御の高さは知っています。ですが、貴方方はグリフォンなどに勝てると思ってますか?」


「何!?グリフォンまでいるのか。」


 グリフォンは空を飛ぶ魔獣であり、その戦闘力は極めて高い。

 グリフォンが人間の敵になったのは過去に一度しかなく、あのモンスターテンペストの時だけだとされている。

 グリフォンは妖精を守護する生き物だとされており、そのグリフォンが怒ったという事はシールスト国が妖精に何かしらの害を与えたという事であった。


「はい、数は少ないですが確認されています。」


「そうか、なら。」


 そう言うとノムスは席を立ち急に土下座をし始めた。

 ニノはあくまで連合軍の交渉担当役であり、立場は圧倒的に領主であるノムスの方が上であった。


「!?ノ、ノムス様!」


「この街を、テーラを救って下さい!」


 そうノムスが土下座しながらニノに言った。


「はい、全力で。」


 ニノがそう言うとノムスは立ち上がり「ありがとうございます。」と言った。

 その後テーラの街の城門が開かれ連合軍がテーラの街を占領した。

 その後ニノが住民に魔獣の襲来でシールスト国の他の街が滅びた事、テーラの街はシールスト国から独立して国際共同管轄都市となる事、暫くするとルシタニア連邦国に併合される事を告げた。

 すると住民は歓声を上げその事を喜んだ。

 どうやらシールスト国からの独立が相当嬉しかったようである。

 こうしてシールスト国は身から出た錆により滅亡、唯一残ったテーラの街は連合軍に占領された。





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