第47話 モンスターテンペスト
2回目の戦闘が始まって5日目、既にシールスト国軍の死傷者は3万人を超えており、また連合軍への投降者も1万5000人にも及んでいた。
対して、ポーションや治癒師の活躍により連合軍の戦死者は5000人を下回っていた。
2万5000対7万5000、戦争当初の10万対8万の優位は脆くも崩れ連合軍が防衛に徹している為、まだ壊滅していないが、いざ反撃に出たら間違いなく壊滅する事は目に見えていた。
虎の子の大砲を撃っても、まともに命中せず、逆に敵の大砲により砲兵隊のみならず、その付近の部隊まで巻き添えをくらう。
そんな光景がシールスト国軍側で至る所で繰り広げられていた、シールスト国軍ルシタニア連邦侵攻最高責任者であるゲルニア•シールスト司令官は既に誰が撃ったか分からない銃弾により脳天を撃ち抜かれて既に戦死していた。
それでも軍として体制が保っていたのは他のゲルニア司令官が元から何もせず、他の指揮官が行なっていた為、いても居なくても変わらなかったのである。
そんなシールスト国軍はさて置き、連合軍側では今後の方針を決める為の会議が天幕で開かれていた。
参加者は連合軍最高司令官兼ルシタニア連邦国軍将軍のハガム将軍、ルクレール王国将軍のステファン将軍、フラント王国将軍のドルトン将軍、アルファス連邦国軍精霊魔法部隊隊長のニノ隊長の4名と彼等の補佐の計8名であった。
「では、全員揃った所で早速始めよう。報告によると現在我が連合軍の戦力は7万人、武器弾薬も今の所問題は無い。対して敵は多く見積もって3万〜4万と観られる。」
まず初めに連合軍最高指揮官であるハガム将軍が部下から渡された書類を観ながら簡単に現在の戦況を説明する。
戦争が始まって2週間ほど経つが段々と後方も安全となり、商人が直接商品を売りに来る程であり、後方支援も問題無かった。
「最悪の事態を想定して敵の残存戦力は4万と見た方が良いだろう。」
「そうだな、敵軍からの降伏者も日に日に多くなっている。今は大体1万5000弱だな。戦争が始まって2週間、こういう話はなるべく言いたくは無いが予算の事もあり、そろそろ決着を付けたい。」
実際には2万5000程度だとニノは精霊から伝えられていたが、慢心が身を滅ぼす事に繋がるとして、あえて伝えない事にした。
戦争と言うのはとにかく金が掛かる行動の一つであり、最大交戦国であるルシタニア連邦国が幾ら豊かだとしても常に軍を展開する余裕は無かった。
その為、ルシタニア連邦国を含む各国としても、早急に戦争を終わらせて派遣部隊を自国に撤退させたかった。
この世界には今の所アメリカみたいな物好きな国家は居ないのである。
「そうですね、何時までもここにいる訳にはいきませんからね。反撃をと行きたい所ですが、少々面倒な事になっているみたいです。」
「ん?どういう事だ、ニノ部隊長。」
ニノの言い方に疑問を持ったステファン将軍は最悪の想定を想像した。
「面倒な事とはどういう事だ?まさか更に援軍が来ているとか?」
ドルトン将軍は最悪の想定である援軍を考えた。
シールスト国は14万もの兵力を有する軍事大国であり、それはルシタニア連邦国の6万とフラント王国の5万の合計兵力である11万より多い。
シールスト国は既にこの戦いに10万と言う軍の大半を充てているが、最悪更に徴兵して派遣する可能性もあった。
そうなれば、他の国家もルシタニア連邦を援護する為更に援軍を派遣しなければならずその費用は年末も近い国庫に重くのし掛かる事になる。
「いえ、実は魔物の大群がシールスト国を襲っているそうです。」
「「「!?」」」
その言葉に会議参加者一同はある言葉を連想した。
「ま、魔物の大群だと!?まさか、モンスターテンペストか!?」
モンスターテンペストは魔獣が大群で都市へと襲う事である。
妖精の森は他の場所より遥かに魔力の濃度が濃く、強い魔獣が発生しやすい環境であった。
150年前に、妖精の森を囲む各国は妖精の森の分割案を分割会議で決め、妖精の森へと軍を率い侵攻する事になった。
当時のルクレール王国、シールスト国、そしてニーズ王国のエリフィス教諸国が東側から、ルフ教諸国が西側から妖精の森へと侵攻した。
当時フラント王国はルクレール王国のフラント領で、ルシタニア連邦国はシールスト国のルシタニア地方であった。
妖精の森へと侵攻したルクレール王国軍は妖精の森の有害な魔獣達を倒しながら進んで行った。
しかし妖精の森へと侵攻してから2週間後、妖精の森の奥深くに到達した時、突如精霊が現れここから立ち去るようにルクレール王国軍に告げた。
当時も精霊は女神エリフィスの使徒として信仰されていた為、当時のルクレール王国軍司令官はすぐさま国王にその事を告げると、国王はすぐさま軍を撤退するように指示、ルクレール王国軍は精霊の言葉通りに妖精の森から撤退した。
また同時刻ニーズ王国軍にも精霊が現れ撤退するように告げられルクレール王国軍と同じく妖精の森から撤退した。
精霊はシールスト国軍にも告げたそうだが、シールスト国軍指揮官はその警告を無視して、そのまま侵攻したそうだ。
そして異変は直ぐに起こった、ルクレール王国軍やニーズ王国軍が妖精の森から撤退して数日後、突如魔獣が大量に発生し、人間に襲いかかって来たのである。
不意を突かれたシールスト国軍やルフ教諸国軍は全滅、しかしそれは恐怖の始まりであった。
魔獣は妖精の森近くにあった都市まで襲い、都市は壊滅した、その後魔獣は沈静化し壊滅した都市は妖精の森へと飲み込まれ、結局国土を広げようと起こした侵攻作戦は国土を逆に狭め、侵攻に関わった国の国力を著しく低下させた。
精霊の通告通りに軍を撤退させたルクレール王国やニーズ王国は魔獣の襲撃に対し冷静に対処し、都市への被害は一切無かった。
この事をモンスターテンペストと言い、疲弊したシールスト国は重税を敷きルシタニア地方は独立、ルシタニア連邦国としてルクレール王国の影響下になった。
その後、元々ルシタニア地方と同じ民族であるフラント領がルクレール王国から独立し、現在まで続いている。
その事からモンスターテンペストは国を滅ぼす可能性のある事態とされており、その恐怖は150年経った現在でも人々の脳裏に深く焼き付いている。
「いえ、だとしたら不思議です。魔物の襲撃があるのはシールスト国のみでルクレール王国やフラント王国、ルシタニア連邦ではその様な事態は見られません。」
そう、今回のモンスターテンペストで不思議なのはその現象がシールスト国のみであり、他の妖精の森隣接国家では報告が無いのである。
当然、魔獣に国と国の違いなど一部の魔獣を除いて分かる筈も無く、全方位に向かって襲い掛かってくる筈であった。
「た、確かに。だが、シールスト国でモンスターテンペストが起きているのは事実なのだろう?」
「え、ええ。精霊はそう言っていました。」
そう、ニノは答えた。
ニノ達精霊使いが精霊と会話出来るのは周知の事実であり、この場で特に不思議がる者は誰一人として居なかった。
だが、ニノが契約しているのは風の中位精霊であり、探知判決は20km弱、シールスト国全体の事態など分かるはずも無かった。
何故分かったか、それはニノ自身も知らない事だが、遠く離れた場所にいる風属性の最上位存在である大精霊シルフィによりもたらされた事であった。
「司令官、どう致しますか?」
「幾らシールスト国が敵に回ったとして薬草の栽培が無かったらギルドなどの仕組みが根底から崩れ去ります!更に治癒師だけで全て治療するのは不可能です!」
ルクレール王国軍のステファン将軍がハガム将軍に詰め寄る。
一応指揮系統としてはステファン将軍は連合軍最高指揮官であるハガム将軍の許可がないと独断で動く事は出来ないのである。
これは指揮系統を混乱させないように事前の取り決めで定められた事であった。
また、幾らシールスト国と関係が悪いとはいえ、シールスト国としても重要な資金源を失う訳にはいかず、エリフィス教諸国も供給源を失う訳にはいかなかった。
またギルドとしても冒険者の存在は必要不可欠であり、ポーションは回復薬として無くてはならない物であった。
少数のポーションなら、いくつか群生している薬草でなんとかなるが、全てを賄うには圧倒的に足りなかった。
「その通りです!幸いにも薬草の一大生産拠点であるテーラはまだ襲われてない都市でルシタニア連邦国にも近い都市です。」
シールスト国の都市であるテーラは人口20万程の都市であり、薬草の一大生産拠点でもあった。
テーラを治めている領主は非常に領民から慕われている領主であり、格差社会のシールスト国でも異質な存在であった。
しかしシールスト国としても薬草の栽培量は他と比べて群を抜いて良い為、他の貴族からの不満はあっても多少の行為は目を瞑ってきた。
また極秘裏にだが他の国家との繋がりもあり、ルシタニア連邦国の独立を密かに支援してきた領主でもあった為、関係は良好であった。
「そうだな、とりあえずテーラの街を抑えて、その扱いは国際共同管轄都市にするなどやり方はあるしな。よし、全軍に伝えよ!直ぐさま反撃の準備をし、テーラの街に侵攻せよ!」
「「は!」」
その考えに同意したのか、突如大声で反撃を決定した。
この命令はその日のうちに全軍に伝わり、数日以内に他の首脳のにも伝えられた。
こうして統一歴1690年9月4日、連合軍はシールスト国への反撃作戦の開始を決定した。
「各国首脳にも伝えろ。ニノ達精霊使いはもしもの時の為に妖精の森近郊に居てくれ。」
「はい、畏まりました。」
そう言ってニノは天幕から出てはぁ〜と一息つくと精霊使いの場所へと戻って行った。
歩いている時リルがずっと苦虫を噛み潰したような顔になっていたが、それはシールスト国での現状を知っているからであった。
こうしている間にも魔物は各都市を襲っており、シールスト国首都のシールリアも既に陥落、王族など国の重鎮は皆既に生き絶えていた。
幾ら精霊にとって人間が暇つぶしの道具だとしても、沢山の罪の無い人々が殺されているのは気分が良いものでは無かった。
だが、今回の騒動の原因を知っている事もあり、ざまぁみろ!と思ってもいた為、そういう顔になっていたのである。




