第45話 第2精霊魔法大隊隊長ティル•アスティム
前回の戦闘から2週間が経った。
その間にルクレール王国アルファス領は独立しアルファス連邦国となった。
シールスト国軍7万人、連合軍7万5000人は両陣営で激しく睨み合っており、まだ戦争の終結の兆しは見えなかった。
連合軍は前回より強固な高台を土魔法により築きあげ、鉄砲隊や砲兵隊の陣地となっており、もはや陣地というより要塞であった。
そして本日、連合軍の陣地へと侵攻してきたシールスト国軍に向かって発射された砲兵隊の大砲により2度目の戦闘の幕が開けた。
「くそ!敵の鉄砲の数が前回よりも多いぞ!」
「あぁ、だがこの陣地にいる限り問題は無い!幸い武器弾薬はたっぷりと用意している。」
このような事もあろうかと数万発の弾薬や救急キットやポージョン、食料や水などがたっぷりと備蓄されており、最悪包囲されても2週間は耐えられる量であった。
砲兵隊陣地や鉄砲隊陣地は小山のように盛り上がっており、上から下にいる敵を狙えた。
更に銃眼と呼ばれる土と土の間に空いている20cm程の穴から銃口を出して撃つ為、敵に銃を持った兵がいても命中精度の悪さから当てるのは非常に困難であった。
しかし、敵もむざむざ兵を見殺しにしに来たわけではなかった。
「うぉ!?なんだ?敵の砲撃か?」
それは砲撃の後であった。
その音が聞こえた次の瞬間陣地の下から砲撃による土煙が上がった。
砲撃程度で壊せる陣地では無いが、上の方に命中したら確実に被害が出る、更にその着弾音は兵の動揺にも繋がった。
「あそこからだ!砲兵隊に連絡して排除してもらえ。」
その時、一人の兵士が敵砲兵隊の居場所を発見した。
よく見ると少し高台に8門の移動式大砲が此方を向いて鎮座していた。
そして射撃による煙が出ると、別の陣地の中間付近で土煙が舞った。
砲兵隊は移動速度が遅い為、数発撃ったら別の場所に移動するのが基本である。
しかし、敵の砲兵隊は何発撃っても移動する気が無かった、場所が割れたなら此方の砲兵隊に砲撃してもらえる。
命中する確率は非常に低いが、牽制になるし運良く命中するかもしれなかった。
「了解!」
そう言い、砲兵隊に知らせに伝令が走った。
そして暫くすると、敵砲兵隊陣地付近で土煙が舞った。
恐らく、味方が砲撃を開始したのであろう。
「うぉ!?命中したぞ!よく命中したな、あの距離で。」
すると、味方側の砲兵隊が撃った砲弾のうち1発が敵の砲兵隊に見事命中したのである。
この時代の大砲というのは現代みたいにSPI(火器管制レーダー)と連動している訳など無い為、非常に命中率が悪い。
離れていたら尚更で、数撃ったら当たるで撃ったのである。
「あぁ、流石砲兵隊だ。」
するといきなり敵がひしめく場所で爆発と十数本の火柱が上がった。
当然、その爆心地に居た兵士達は助からないであろう。
「精霊使いか!」
そう、この爆発と直後に上がった火柱は精霊使いが放った精霊魔法によるものであった。
フレアボム、火属性の精霊が使える集中攻撃魔法で、その威力はダイナマイトレベルの爆発の筈であった。
しかし先ほど上がった爆発はダイナマイトレベルどころでは無い。
「なぁ、あれって確かフレアボム、だよな?」
「威力が可笑しくないか?」
そう、威力が明らか可笑しいのである。
魔法は注ぎ込む魔力を増やしても威力は殆ど変わらない、威力を上げるには魔法の質を高めなければならない。
魔法使いなら、それは何回も繰り返して質を高めるが、精霊使いなら話しは単純である。
より位の高い精霊と契約するのである、だが、それが難しい。
精霊と契約している人の殆どは始位精霊であり下位精霊と契約していると精霊術師として軍に入隊出来る。
中位精霊と契約していると国から使いが来て最強ユニットである精霊使いに入れる。
上位精霊と契約していると国の宮廷精霊使いとなれる、その為レインお母さんであるアルシアは土の上位精霊と契約している為、宮廷精霊使いとなれる。
だが、今やアルシアは王妃である、ちなみにアルファス連邦国の宮廷精霊使いは風の中位精霊と契約しているニノ•リーティスである。
中位精霊なのに宮廷精霊使いになれたのはそれだけ風属性の精霊が強いからであった。
「お前ら知らんのか?応援に来ている精霊使いはニノ•リーティスだけじゃないぞ。ティル•アスティムも来ているんだぞ。」
「て、ティル•アスティム!?そ、そんな人物まで!」
ティル•アスティム、アルファス連邦国近衛師団第2精霊魔法大隊隊長をしている女性である。
アルファス連邦国近衛師団精霊魔法隊には2名高位精霊と契約している人物がいる。
最初はニノ•アーティスの部下でもある第1精霊大隊隊長のサラ•フォード、そして第2精霊魔法大隊隊長のティル•アスティムである。
順位で言うと2人の中では弱いが、火の上位精霊と契約しており、その燃えるような赤い髪の毛と美貌からニノ•リーティスとサラ•フォードと並び有名な精霊使いである。
そんな上位精霊と契約している二人を差し押さえて精霊魔法部隊隊長になったニノだったが、それはただ単に二人を超えるほどの強さであったからである。
彼等はアルファス連邦国が最強レベルの精霊使い3人のうち2人も派遣した事が信じられなかったのである。
「どうやら、アルファスは相当本気らしいな。」
そう言い上官は爆発が終わり煙が上がっている方向を見る。
そんな上官を見ながら部下はそんな人物が味方にいる頼もしさと精霊という存在の恐ろしさを同時に噛み締めていた。
そんな事はつゆ知らず第2精霊魔法大隊隊長のティル•アスティムは自分の契約精霊であり更に自分の1番の親友である火の上位精霊であるフレイと敵を粉砕していった。
精霊魔法部隊隊長のニノ•リーティスは風属性、第1精霊魔法大隊隊長のサラ•フォードは水属性、第2精霊魔法大隊隊長のティル•アスティムは火属性と、アルファス連邦国精霊魔法部隊は風•水•火を3大属性としている。
「ティル、流石にやり過ぎだろ。地形が思いっきり変わってるぞ。」
そう言って相葉のリルとやって来たのは彼女の上司であり精霊魔法部隊隊長のニノ•リーティスだった。
確かに彼女の相棒であるナーラが攻撃した跡はクレーターみたいになっていた。
「あぁ、隊長。フレイがやる気になっていたのでつい。」
『やる気、やる気。』
スウッとこっちに来てニノにやる気がある事を見せるフレイを見て上官であるニノははぁ、と溜息をつき、さっきあった事を説明し出した。
「今、司令部から伝達で火山の噴火か!?とか来たんだが。」
「火山の噴火なら1ヶ所で纏めてでしょう。」
いきなり火炎が十数本も立ち上がったから突然、他の部隊も驚き司令部に何事かと伝達が殺到したのである。
当然、司令部はそう言う事をする人達が誰だか分かっていた為、直接言うようにと言って、全部こっちに回して来たのである。
「いや、そう言う事じゃなくて。なんだかこう言うのもあれだが、敵が哀れだなぁ〜と思ってな。」
『自業自得、こっちに攻めてくる敵が悪い!』
「だ、そうです。隊長。」
自分の契約精霊に言われ、その通りだと思った。
今回の戦闘はいつもなくやる気な精霊達だが、いつもより精霊魔法の威力が上がっていると他の部下から報告が相次いでいた。
『レイン様が来たら一発で終わるよねぇ〜』
「ちょ、ちょっと、それは秘密なんだから。」
レインが風属性の大精霊と契約している事は精霊魔法部隊の大隊長なら知っている事であった。
だが、当然その事は秘密であり、友好国のトップぐらいにしか伝えられていない。
その為、ティルは他の人に聞かれたらマズイと思って慌てているのである。
『大丈夫だよ、さっきから君達二人にしか聞こえないようにリルが防音結界を張っているもん。』
「リル、そう言う事は先に言ってくれよ。いいか、レイン様の事は絶対に喋ったら駄目だぞ。」
『分かってるよぉ〜、喋ったらシルフィ様に怒られるもん。』
リルやフレイみたいな上位精霊でもこの威力で、まだ余裕がありそうであった。
ニノやティルは大精霊の実力を想像して身震いする。
やっぱりその大精霊と契約しているレイン様は仕えるに相応しい人だと改めて思った。
「はぁ、とりあえずティルは抑えて攻撃しろ、分かったな?」
「わ、分かりました隊長、善処します。」
「最後の一言はいらん。」
そう言ってニノは司令部に言い訳をしに行く為その場を離れた。
結局、この侵攻でもシールスト国軍は鉄壁の守りを固める連合軍を破る事が出来ず撤退する事になった。
しかし3度目の戦いは無く、逆に全軍降伏してくる事になるのだが、この時は理由になるその事態にまだ誰も気づいていなかった。




