第41話 独立協議会と精霊王
精霊祭、アルファス領で150年間毎年行われている祭りである。
150年前の統一歴1640年に当時のアルファス家領主が感謝の印として北アルファス島と東アルファス島の北部を自然保護区として人々の立ち入り禁止したのである。
精霊達はそのお返しとしてアルファス領全域に精霊の加護を授けた、そのおかげでアルファス領は他の領地より遥かに作物の実りが良く、その分税収も多い。
そしてその加護を授けてくれたお礼として毎年、精霊に感謝を示す精霊祭を行うのである。
そして記念すべき150回目の統一歴1790年の今年、ある大イベントと偶然にも重なった。
そう、遂にアルファス領が独立する独立記念日である。
その為、城下も含めてアルファス連邦国全体は毎日お祭り騒ぎであった。
精霊祭には必ず精霊界から大精霊が来る為、アルファス連邦国民のみならず他国のエリフィス教徒が大勢来る祭典である。
精霊祭は毎年3日間かけて行われるのだが、独立記念日は最初の日である。
独立記念日は正式は独立する為の諸手続きを行うのである。
その手続きを取り仕切るのがエリフィス教会のトップに立つ教皇であるシエラ•ルナ•エリフィスである。
彼女の本当の名前はシエラ•ルナなのだが、教皇になれば最後にエリフィスと名前が付くのである。
彼女は50年前に教皇になったがエルフ族なのでその美貌は今でも健在である。
今日の独立式典の前にエリフィス教本教会があるスイレン聖王国で独立の採決をとる5つの国を選ぶ事になった。
エリフィス教諸国での独立はランダムに選ばれた5つの国のうち過半数である3ヶ国が認める事で独立国と始めて認識されるのである。
今回は新規立国ではなくルクレール王国からの独立なので、ルクレール王国は既にシードポジションで選ばれている。
そしてエリフィス教諸国のスイレン聖王国に駐留している各大使がクジを引き決めるのである。
そしてクジの結果、今回の独立式典で判断をする5つの国はルクレール王国、アルファス連邦の南部に位置する島国のルフト王国、大陸の南部に位置するエルフ族の王国であるエルフィーナ王国、アルファスやルフトの東に位置する群島国家テスタ連合、最後にルクレール王国とスイレン聖王国に挟まれた人口40万人の小国であるイルス王国の5ヶ国と決まった。
ちなみに今回の式典の進行役を務めるのはエリフィス教教皇のシエラ•ルナ•エリフィスである。
そして現在、その独立式典がアルファス連邦国の首都スフィア中央州にあるエリフィス教アルファス教会で行われていた。
当事者であるアルファス家は全員出席であり、他にも友好国の国王や王族、大使などエリフィス教諸国が勢ぞろいであった。
ちなみに式典の様子は映像魔道具によりアルファス連邦国各地に配信されている。
反精霊を掲げているルフ教からしてみれば暗殺する絶好の機会な為、アルファス連邦国は近衛師団が各王族や要人達を警護している。
「では、これよりルクレール王国アルファス領の独立を問う独立協議会を開催する。異議のある者は手を挙げろ。」
そう落ち着いた声で言ったのはエリフィス教教皇のシエラ•ルナ•エリフィスである。
美しい声でつい引かれそうになるさが、その声と美貌もエリフィス教を纏め上げるリーダーシップにふさわしいのだろう。
そして誰も手を挙げないのを確認すると次へと進んで行く。
「では、早速であるが、協議の方へ移ろうと思う。まずルクレール王国大使、貴国はアルファス領の独立についての賛否を述べよ。」
「ルクレール王国はアルファス領の独立を承認すると共に歓迎します。」
そう言って座ると書類にサインをして、次のルフト王国大使の秘書へと渡した。
恐らくあれが独立に関しての同意書であろう。
後で教えて貰ったが、あの書類には女神エリフィスの加護が掛けられており、燃やしても水に濡らしても絶対に破れず、一度書かれた文字は絶対に消えないという宣誓書だそうだ。
「では、次にルフト王国大使、貴国はアルファス領の独立についての賛否を述べよ。」
「我がルフト王国はアルファス領の独立を承認すると共に独立を心より歓迎致します。」
ルフト王国はアルファス連邦国の南に位置する海洋国家であり、台湾みたいな形をしている主島とその周りの小さな島々で成り立っている国家であり、航空戦力の象徴である飛龍が生息しておらず飛行機械の開発を行っている技術力の高い国家である。
アルファス領とは有効関係であり、ルフト王国にはアルファス家の血が入っているほど何回も此方から嫁いであり、逆に嫁いで来る関係である。
そして椅子に座ったルフト王国大使はルクレール王国大使がサインした物と同じ用紙にサインをして、次のエルフィーナ王国大使の秘書へと渡した。
「では、続いてエルフィーナ王国大使、貴国はアルファス領の独立についての賛否を述べよ。」
「はい、我がエルフィーナ王国はアルファス領の独立を承認し、独立を我が国一同心よりお喜び申し上げます。」
アルファス領領主である父に向かって礼をして椅子に座った。
エルフィーナ王国とアルファス領は遠いながらも非常に長い付き合いである。
そしてエルフィーナ王国大使も同じようにサインをして、最後のテスタ連合国大使の秘書へと渡した。
「では、最後にテスタ連合国大使、貴国はアルファス領の独立についての賛否を述べよ。」
「我が国はアルファス領の独立を承認し、又独立を歓迎する。」
テスタ連合国とアルファス領は貿易という面では非常に良好な関係である。
しかし以前テスタ連合国がアルファス領と同じように精霊に土地を献上して加護をもらおうとしたが、精霊がアルファス領以外の土地は要らないと拒絶され、それ以来両国は距離を置いているのである。
しかし最近になってテスタ連合国のトップである大統領が交代、関係が良くなってきているのである。
「では全国家一致にてアルファス領の独立を承認し、新国家アルファス連邦国の建国を女神エリフィス様の元に承認する!」
そう言い当事者であるアルファス家領主、レイルズ•アルファスのサインと5ヶ国の代表のサインが書かれた書類の1番上に教皇がサインをして、厳重に封がされた容器の中から印鑑とみられる金の物を取り出すとその書類に押し当てた。
すると突如、書類が光出し上に教会のマークが浮かび上がってきたのである。
こうして統一歴1790年8月、アルファス領は正式にアルファス連邦国としてルクレール王国から独立したのである。
そして、この後は閉会宣言を教皇がするだけであったのだが。
「では、これにて独立協議会を終了『ちょっと待って。』」
突如、教皇の声を遮る声かけ聞こえた。
この会場から発せられた声では無かった、エリフィス教教皇の言葉を遮る事は立派な不敬罪であり死罪も免れ無いほどであった。
現にリアルタイムでこの様子を放映している画面の前では怒号が響き渡っていた。
しかし、その怒号を発した人は後に後悔する事となった。
会場に突如、光の粒子と共に女性が現れたのである。
『お邪魔して悪かったわね。』
「貴方様はどちらでしょうか?」
突如現れる女性に護衛の近衛兵も戸惑う中教皇が質問した。
しかし会場内に1人だけこの女性の正体を知る者がいた。
「せ、精霊王様。」
レインの父でありアルファス連邦国国王のレイルズ•アルファスであった。
彼は前に独立おめでとうといきなり現れた精霊王と会っている為知っていたのである。
そして、レイルズの声で招待が分かった会場の参加者と画面を見ていた人々は声が出なかった。
彼女こそがエリフィス教で女神エリフィス様の使徒とされている精霊を束ねる精霊王アリフェスであるからだ。
『そんなに畏まらなくていいわ。驚かしてごめんなさい。』
「い、い、いえいえいえ。精霊王様になんてもったいないお言葉。」
エリフィス教徒にとって精霊王は女神エリフィスと同じくらいの信仰の対象であり、そんな精霊王に謝られて教皇は逆に萎縮してしまったのである。
正確には精霊王が放つ威圧でレインを除く全員が声が出なかったのである。
『ふふふ、アルファス家の独立おめでとう。私からのお祝いとして私の加護をこのアルファス全体に授けたわ。』
「「「!?」」」
精霊王の威圧のせいで言葉が出なかったが、精霊王がわざわざ人間界の一国の独立に足を運ぶ事が精霊がアルファス家を特別扱いしている事が分かった。
更に精霊王の加護、それがどれだけ凄い事なのかは、レインの身体の中で、状況を把握しているシルフィにしか分からなかった。
そして精霊王はレイルズから視線をレインの方へ移すと笑顔でこう言った。
『貴方がレインね、初めまして。貴方が精霊界に来る日を楽しみにしているわ。』
「あ、いえ。あ、ありがとうございます。」
皆んなが驚いている中、精霊王は「ふふふ」と笑い、「お邪魔したわ。」と言い光の粒子となって消えていった。
会場にいた人も画面を見ていた人も暫く声が出なかったが、10秒ほど経つと会場の外から割れんばかりの歓声が辺りに響き渡った。
レインが会場内の周りを見ると、皆涙を幸せそうな顔をして流していた。
この事はアルファス連邦国の奇跡としてエリフィス教諸国中を駆け巡る事になるのだが、この時レインはまだ知らなかった、それよりも。
(なんで皆んなの前で精霊界に行く事言っちゃうんだよ〜!!)
心の中で発狂していた。
こうして皆の前で奇跡を見せられた独立協議会も無事終了し、この日を待ってルクレール王国アルファス領はアルファス連邦国として正式に独立を果たしたのである。




