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第39話 タタール荒野の戦い

 


 シールスト国軍、兵10万

 エリフィス教諸国連合軍、兵8万

  岩と砂だらけの荒野であるタタール荒野の上で、両軍は向かい合っていた。

 両軍の距離は十分に離れているにも拘わらず、既に戦場の空気は張り詰めている。

 これからこの20万余りの人々が、お互いの命を奪い合うのだ。


「将軍、布陣が整いました。」


 丘の上に設営された天幕にて、今回の連合軍の司令官に任命されたルシタニア連邦軍のハガム将軍は部下から布陣が整った事を伝えられた。

 敵は10万、此方は8万、ただ単に数を見ると此方が不利なように思える。

 しかし鉄砲の数は向こうは1万5000、此方は2万、数週間前まで同数だったが、数日前にアルファス連邦国から届いた5000の鉄砲が部隊に配備されたのだ。

 鉄砲の扱いは簡単では無いが、難しくは無い、鉄砲を扱える人だけで言ったら5万を超えるだろう。

 ただ単に高価な鉄砲が無いのである。

 更に1人で100人を相手に出来る精霊使いの数も向こうは170名、此方は600名と3倍以上の開きがある。


「鉄砲隊の陣地はどうだ?」


「は、陣地形成は既に済んでおり、大砲も既に発射準備が完了しています。此方の方が標高が高い位置に居ますので鉄砲を上手く活用出来ます。」


「ふむ、なるほどな。」


 戦いの基本だが、標高の低い地位にいるより高い位置に居た方が有利である。

 地形的に此方が有利なのは明白であった、だが。


「しかし、その事は向こうも分かっています。果たしてどのような作戦で来るのか。」


 そう言ったのはルクレール王国軍から援軍としてやって来たステファン将軍であった。

 指揮系統に混乱がないように命令系統ではハガム将軍の方が上だがルクレール王国軍2万5000名の頂点に立つ人物であった。

 彼は慎重な性格であり相手の動きを正確に読み取り将軍まで登ってきた人物である。

 そして、その時天幕に1人の兵士が入ってきた。


「アルファス連邦軍のニノ•リーティスより報告で、その、敵はそのまま突っ込んでくるようです。」


 一瞬、その兵が言ったことが天幕にいる指揮官達は分からなかった。

 そのまま突っ込んでくるって言っても、此方に鉄砲隊がいる陣地があるのは分かっている筈であった。

 その為、そのまま突っ込んで来ても鉄砲にやられるのが目に見えていた。


「はぁ?そのまま突っ込んでくるってどういう事だ?すまんがニノ•リーティスを呼んで来てくれないか?」


「は、畏まりました!」


 直接、確かめる為ニノ•リーティスを呼んで来るように言ったハガム将軍だったが、彼も緊張気味であった。

 今回の戦争で指揮系統の混乱を防ぐ為、アルファス連邦軍から派遣された300名の精霊使いはルシタニア連邦軍の指揮下に入る事が決まっていた。

 しかしその300名の代表でもあるニノ•リーティスは誰もが知る猛者であり最強の精霊使いでもあった。


「アルファス連邦国軍近衛師団所属精霊魔法部隊隊長のニノ•リーティスです!」


「おぉ、貴方があの有名なニノ•リーティスか、すまんがさっき報告にあった敵が突っ込んでくるという意味が分からなかったんだが、説明してもらっても良いか?」


 現在、アルファス連邦軍から派遣された精霊使いはルシタニア連邦軍の指揮下に入っている為、ハガム将軍は一言「説明しろ。」と言えば済むはずなのだが、彼への畏怖からかお願いになってしまっていた。

 そんな彼に全く顔色を変える事なくニノは説明し出した。


「はい、私の契約している精霊は風属性ですので20km程度なら相手の話している事を聞くことが出来ます。その為、シールスト国軍の作戦会議を盗み聞きしていたのですが、彼らは何も作戦を立てずに数の利を活かしてそのまま突撃するそうです。」


「な!そんな事が出来るとは。」


「う〜む、風属性の精霊にそんな能力があったとは。」


 風属性の精霊と契約する事は非常に稀であり、契約しても初位精霊程度であった。

 この遠く離れた場所の音や話し声を聞くことの出来る能力は中位精霊以上であり、現在中位精霊以上と契約しているのは世間が知る限りニノ•リーティスただ1人であった。

 そしてその能力は精霊の位が上がる毎に探知範囲は広がっていき、一番下の中位精霊では精々20km圏内が限界であった。

 上位精霊になると50km、大精霊ともなると格段に上がって400kmほどであるが、眷属を使うと全世界となる。

 彼がいた場所から敵陣まで約14km、その敵陣の奥に指揮官達がいる天幕があるので、探知範囲ギリギリであった。


「あ、あの。」


「す、すまん!ちょっとその能力に驚いていたな。済まんが貴方にも指揮官として会議に同席してはくれないか?」


「はい、喜んで。」


 彼も精霊使いを束ねる指揮官であるが、この会議に参加しているのはルシタニア連邦軍将軍、ルクレール王国軍将軍、フラント王国軍将軍の3名とその補佐のみであった。

 しかしステファン将軍はその能力を見込み、彼に作戦会議に参加するように頼んだのである。

 当然指揮官と言えニノも精霊魔法を使い実際には戦う立場、将軍のように後方で指揮だけをする人ではない為、戦いが始まったら戻るのだが。

 そしてニノの為に椅子が用意された。

 だが、ニノがその席に座る事は無かった。


「どうやら、始まったようですね。」


「そのようだな。」


 地響きと共に沢山の人から発せられたと思う声が離れたところか聞こえてきたのである。

 遂にシールスト国が此方の陣地に攻めてきたのだ。


「では、私は陣地に戻ります。」


「あぁ、期待しているぞ。」


 そう言うとニノ•リーティスは急いで天幕から飛び出して、精霊使いが居る陣地へと向かった。

 精霊使いの繰り出す精霊魔法は大砲ほどでは無いが銃と同じくらいに射程が長く大砲並みに威力があった。

 その為、最前線とは言わないが陣営の中間より前の方に精霊使いの陣地は用意されていた。



 その頃、最前線の鉄砲部隊の陣地ではまさに戦闘の真っ最中であった。

 バンッ!と言う銃特有の射撃音が至る所から聞こえてくる。


「うひゃー、この銃ほんと性能いいなぁ。」


「先込め式じゃないから使いやすいな。おい!こっちと交代しろ!」


 彼らは本来は銃が足りずに槍兵として戦う予定だったが、アルファス連邦国よりレタール銃5000丁が援助物資として入ってきた為、急遽鉄砲部隊として戦う事になったのである。

 更に彼等にとって幸運だったのは渡された銃だった。

 未だに旧式のトースタ銃が先込め式だったのに対し支給されたレタール銃は後込め式であった為、扱い易かったのである。

 更に射撃性能の向上や射撃弾数の増加など、トースタ銃に比べ性能面ではレタール銃が圧倒的に良かった。

 唯一の欠点がその価格の高さだが、そもそもこのレタール銃5000丁はアルファス連邦国からの援助であり、ルシタニア連邦国はアルファス連邦国に1エルも払ってない。

 そうこう支給された銃に満足していると目の前の敵が突如、爆発した。


「うぉっ!!」


「あれは火球か?って事は精霊使い!」


 人間の火魔法であの爆発を起こせるのは魔力が異常に多い人のみである。

 ただし、火属性の精霊と契約していたら話は別だ。

 そして彼は助けてもらった事も忘れて、目の前で爆発させたその精霊使いを一瞬恨んだ。


「あいつら危ねえなぁ!」


「文句を言うな!今は戦時だ!それに精霊が味方に当たるわけないだろ。」


 すると彼の上官と思われる人物に怒られてしまった。

 確かに彼の言う通り精霊は人間とは違い正確な攻撃が出来る。

 そんな正確な攻撃が出来るのにわざわざ味方に当たるとは思えなかった。


「す、すみません、つい驚いてしまって。」


「謝る暇があるなら撃て!」


 すぐさま冷静になり上官に謝るとまた怒られてしまった。

 怒っている上官もレタール銃を銃眼と呼ばれる穴から敵に向かって撃っていた。

 レタール銃は連射はできないが、7発弾倉の為、7発撃てるのである。

 この銃眼は土に木の枠を当てて作った為、敵の銃弾が正確に銃眼を突き抜けて命中する事はほぼ無く、殆どの銃弾が周りの土にボスッと音を立ててめり込んでいった。


「は、はい!」


 そう言うと彼はその銃眼の位置を別の人と交代し、すぐ後ろにある弾倉を取りに行った。

 一応銃眼は全員分無く、基本1つの銃眼に対し2人体制であり弾薬がなくなったら別の人と交代して続けて撃っているのである。

 こうしてシールスト国軍は無謀とも言える攻撃で徐々に死傷者を増やして行った。

 後々歴史書で銃大砲精霊使いを効率的に運用出来た連合軍と書かれる戦いはまだ始まったばかりであった。

 そしてシールスト国が対処出来ていると思っていた妖精の森では異常事態が起きていたが、この時は精霊と当事者以外は知る由もなかった。



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