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第36話 暗殺者と大精霊の恐ろしさ

 


「はぁ、はぁ、どうなっているんだ一体!」


 何処か鬱蒼とした森林地帯で、4人の男が必死に逃げていた。

 彼等は全員銃を持っていたが、その銃は追ってからの攻撃により見事に真っ二つにされていた。


「俺達が敵わないなんて、まさか精霊か!」


「あり得ない、いくらアルファスでも精霊が出てくるわけが無い!」


「くそ!なんで銃が当たらなかったんだ?」


 彼等は敵対している国に雇われた、いわゆるなんでも屋で金の為なら誘拐から殺しまでなんでもやっていた。

 今回の任務はアルファス連邦の王子を銃で殺す事だった、楽な任務だと思っていた。

 城は堀で囲まれていたが、門番を薬で眠らせて侵入、他の城に比べて厳重だったがプロである彼等にとって問題は無かった。

 そして目標は図書塔で呑気に本を読んでいた、銃を取り出し狙いを定める。

 彼等が持っているのは普通の銃に改良を加えた物であり射程が伸びていた、その代わり弾数は減っていたが。

 そして撃った、狙い通りなら呑気に本を読んでいる目標の頭に命中する筈だった。

 しかし弾は途中で逸れ、バスッと本棚にめり込んだ。

 仕方がなく剣で殺そうとしたのだが、後ろから急に気配を感じ振り向くとそこには1人の女性が立っていた。

 城のメイドや近衛兵でも無い、ただ彼等は長年の直感で感じたのである、彼女はヤバイと。

 その為、途中で任務を中断、高価な遠距離転移魔石でここの森に転移してきたのである。

 ちなみに、転移魔法石は非常に貴重であり遠距離転移にもなると国宝レベルであった。


「分からん、弾道が明らかにそれていた。あの王子め!」


「あの女、明らかヤバイ奴だったぞ。」


「あぁ、まさか俺が気づかないなんてエルフか?」


「分からん、ただし今回の任務は断るぞ。あれはヤバすぎる。」


 彼等はプロの殺し屋である、長年に渡って培ってきた直感が告げているのである、あの女はヤバいと。

 そして、彼等が任務を中断し、国へと戻ろうとした時、周りの空気が変わった。

 そしてつむじ風と共にさっき城の屋根で見た女性が現れたのである。


「う、うわ!来た!」


『ふふふ、よくも私の大切なレインを殺そうとしてくれたわね?』


 その女性は周りの木々を風の力でプリンみたいに切断した。

 彼等は咄嗟に剣を抜くがその剣も真っ二つになり、武器が投げナイフしか無くなった。

 しかし銃、剣と通用しなかった相手に今更投げナイフが効くとは思えなかった。

 そんな中、ようやく一人が彼女の正体に気付いた、そしてそれは彼が一番望んでいない答えだった。


「お、お前、いや、貴方様は。ま、まさか大精霊!」


「な、なんだと!」


「大精霊が相手で勝てるわけが無い!」

 

 ただの下位精霊や中位精霊と契約している精霊使い1人で兵士100人が必要なのである、更にその格上の格上、各属性の最上位存在である大精霊にいくら手練れだとしても人間が勝てるわけがなかったのである。


『あらあら、やっと気付いたの?まぁ、貴方達が気が付こうが私の大切な人を殺そうとした事に変わり無いんだけどね。悪いけど、死んでくれる?』


 その大精霊は和やかに笑顔で言ってくるが、明らかに怒っていた。

 それも並みの怒り方ではなく、周りの空気の温度が下がっていくのが肌で感じた。


「な、な、なんで風属性の大精霊が人間なんかに。」


『貴方達は楽に死ねると思わない事ね。』


 そう、彼女は風属性の大精霊であり、レインの契約者であるシルフィであった。

 そしてこの暗殺者はある国に頼まれてレインを暗殺しようとしていたのである、銃弾が逸れたのはシルフィが風を使い晒していたからであり、レインが気がついていなかったのはわざとシルフィがレインの周りの音を消していたからであった。

 そしてシルフィは手始めに2人ほどの足をウインドカッターで切断した。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!足が、俺の足が!」


『ふふふ、次は手、その後は頭ね。』


 その笑顔は彼らからしたら恐怖でしかなかった。

 《精霊にとって人間は暇つぶしの道具》、それは誰もが周知の事実であった、彼等はその言葉を思い出し、途端に青ざめ思った、自分の命は今日で終わると。


「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!頼む、許しくれ!お願いだぁ。」


『あら?私の大事な人を殺そうとして許すとでも思う?安心して良いわ。貴方達に依頼したゴミも貴方達と同じ所に連れて行ってあげる。』


 まだ五体満足でいる人が涙を流しながら懇願してくる、しかしシルフィは自分の大事な人をあまつさえ殺そうとしていた彼等を許す気などさらさら無かった。

 元々シルフィは古代文明の事もあり人間が嫌いであった、最近はレインの事もあり穏やかになっているが、それはレインの前だけであり、他の人間に対しては冷酷であった。


「ぎぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!痛い、痛い痛い痛い!!!」


「な、なんでもする!なんでもするから!」


「死にたく無い。」彼は横で事切れている仲間を見てそう思った。

 彼は命の保証が無いこの業界で生きていく事を誓ったが、いざ目の前に死が迫ってくると急に生に執着しだしたのである。


『あら、なんでもするの?』


「し、します!」


 見逃してくれる、そう一瞬安堵した。

 しかし続いて大精霊の口から発せられた言葉にその希望は脆くも崩れ去る事になった。


『そう、なら、死んでちょうだい。』


「へ?」


 どういう事かわからないまま彼の身体はウィンドカッターにより細切れにされ、この世を去った。

 唯一の救いは他の仲間と違って痛みを感じる前にあの世に行けた事である。


『私のレインを傷つける者は誰であろうと許さない。』


 そしてシルフィは彼等に依頼した黒幕を消しにルクレール王国へと転移した。

 シルフィが転移した後の森に残されたのは切り刻まれた木々と4つの血溜まりのみであった。



 そして次の日、ルクレール王国の公爵領にある領主の屋敷に出勤しようと、近くに建てられている宿舎から出てきた警備の兵が見た物は昨日まであった立派な屋敷では無く、切り刻まれた夜勤の兵士の亡骸と瓦礫の山とかしている領主家だった物であった。

 すぐさまこの事は王都の国王に告げられ魔獣の可能性があった為、精霊術師が現場に向かった。

 そして向かった精霊術師は現場を見て直ぐに分かった、その後直ぐさま国王に謁見し、こう報告した。


「今回の事件は間違いなく風属性の精霊の仕業であると断言します。その為、今回の事に関しては箝口令を敷き、闇は葬り去るべきだと進言します。でないとその精霊の怒りがムセル公爵家だけではなく、他の貴族、最悪王家に向けられないとも限りませんから。」


 この事を聞いた国王は青ざめ、直ぐに理解した。

 そして直ぐさま進言通り、今回の事件に関して関わった者全てに箝口令を敷き、闇に葬った。

 その後、一族全てこの世を去った公爵家は廃絶となり新たに精霊派の伯爵がこの地を収める事となった。

 そして新たに赴任した伯爵はこの領地に関する書類を王都から取り寄せ整理すると出てきたのは公金の横領、密輸、物資の横流し、余りにも多い不正に驚いた伯爵は持っていたワイングラスを落としたほどであった。

 その後、ルクレール王国では反精霊派の貴族が横領や密輸、横流しの罪により多数賭博され、中には極刑となった者もいた。

 そして不正を見つけた伯爵は税をこれまでの半分に下げ、元々公爵家が保有していた無駄な資産を全て売却、そのお金は国の国庫に入れられたがその際、国庫の残高が1割上がったそうである。

 後日、その事をルクレール王国から聞いたレイルズは息子が無事で良かったと思うと同時に大精霊の恐ろしさを改めて認識する事となった。




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