第35話 戦争前夜
妖精の森、それは大陸を二分するほどの大きさを誇る大森林である。
エリフィス教諸国とルフ教諸国はこの妖精の森で隔たれており、時には戦争を躊躇する原因となる。
この森には動物の他魔獣などが住み着いており、偶に間引きを行わないと集落へと襲ってくるのである、そして人が居なくなれば森が拡大する。
隣国に戦争を仕掛けて、この間引きを疎かにした為、国が森に飲み込まれてしまった国も数多い。
大規模な討伐隊を編成して森へと侵攻したら領土を増やせるが妖精は精霊の下位的存在、多少の侵攻ならまだしも限度を超えると精霊が襲いかかってくる場合もある。
その為、条約によりこの妖精の森はどこの国の領土でも無い不可侵地域とされ、現在も続いている。
そして現在、シールスト国がルシタニア連邦へ侵攻しているという情報を得たルシタニア連邦軍は迎え撃つ為、国教付近に陣を敷いていた。
友好国には通達済みであり、フラント王国とルクレール王国は援軍を派遣、その数はルシタニア連邦軍と合わせて7万5000人にもなった。
更に1人で100人を相手にできる精霊使いに関しては遠い友好国も派遣しており、その数はルシタニア連邦と合わせて300人にもなった。
対するシールスト国は10万の兵力をルシタニア連邦侵攻作戦に派兵し、精霊使いは170名にも登った、単純戦力ではシールスト国に軍配が上がるが実際に戦ってみないと分からなかった。
「敵は3隊に分かれており北から約3万、4万、3万と推測され、後方には人員を残していません。」
「ふ〜む、有利に立っている戦力で一気に占領しようという事か。こちらの戦力は?」
「我が軍が4万、フラント王国が1万5000、ルクレール王国が2万の計7万5000です。精霊使いは一ヶ所に固めて集中運用を行う予定です。」
「なるほど、鉄砲隊はどうだ?」
「的には1万〜1万5000ほどの鉄砲隊がいると推測されます。こちら側は合わせて1万5000、鉄砲隊に関してはほぼ同じかと思われます。」
シールスト国はエリフィス教諸国からしてみれば唯一の薬草の供給源でありシールスト国は他の国に比べて非常に豊かであった。
その為、高価な鉄砲も大量に保有しており、それが1万5000丁もの鉄砲隊となったのである。
「ワイバーンは、同じぐらいか。」
「はい。シールスト国はワイバーンの保有数が多いですから、援軍を全てかき集めても同数です。」
「現在、コルトフィア国がワイバーンに頼らない航空戦力の開発を進めていますが魔石や動力源の関係で進んでいないそうです。」
コルトフィアは南の方にある魔法より科学技術が発展した国家である。
飛行戦力の代名詞であるワイバーンを保有しておらずワイバーンの代わりとなる兵器の開発を行っていた。
「コルトフィアはワイバーンを保有していないからな、あぁ、アルファス連邦もか。」
すると、バタンッと扉が開き1人の男性が息を切らしながら入ってきた。
その服装からして軍人の者ではなく外務省の職員である事は明白であった。
「し、失礼します!」
「なんだ!会議中だぞ!」
「構わん、急な要件なんだろう、その場で述べよ。」
「は、はい!先程、駐アルファス大使より通達がありまして、アルファス連邦はルシタニア連邦に援軍として精霊使いを300人派遣するそうです。」
「な、なんだと!?精霊使いを、」
アルファス連邦が保有している精霊使いは約800名と断トツに多かった、精霊使い1人で一般兵100人もの戦力になるのが精霊使いである。
つまり単純計算でアルファス連邦は3万もの兵力を援軍として送り込んできた事と同意義であった。
「300人もだと!」
「は、はい。更にその指揮権は一時的に連合軍に移管すると、」
「な!?」
精霊使いは軍の最高戦力であり、それを友好国とは言え一時的に指揮権を移管するなどあり得なかった。
それと同時にアルファス連邦がそれだけ自分達を信用してくれている事の証でもあった。
「ほ、本当かね。という事は我が連合軍の精霊使いは600人になるぞ!」
「流石アルファス連邦、300人も派遣するとは。」
フラント王国とルクレール王国には伝えているのか?」
「は、はい。それぞれの外務省に通達しているようです。更に物資援助としてレタール銃5000丁と弾薬がアルファス連邦より送られ、先程スイード港に到着したそうです。」
レタール銃は15年ほど前にルクレール王国で開発された銃である。
地球のミニエー銃レベルの性能で先込め式であり、性能が良く各国の鉄砲隊に配備されるなど好評であったが、1丁7000エル(現代物価価値で約42万円)と非常に高価であった。
その為、ミニエー銃の前のトースタ銃と呼ばれる地球のゲーベル銃(火縄銃程度)が4000エル(現代物価価値で約24万円)と比較的安価だった為、レタール銃とトースタ銃のハイローミックスで配備している。
しかし独立前のアルファス領は豊かであった為、兵士2万のうち半分に当たる1万丁のレタール銃を配備していた。
「レタール銃と言えばエリフィス教諸国の主力銃、確か相当高価じゃ無かったのか?」
「私も通達を受けただけで、詳しい事は不明ですが、アルファス連邦で新型銃が開発され余ったレタール銃が援助物資として送られたと思いますが。」
アルファス領でも銃の開発が行われており、去年レタール銃より性能が良く扱いやすいボルトアクションタイプの銃の開発に成功した。
開発に成功したボルトアクションタイプの銃はレスター銃と名付けられ、レタール銃の代わりとして生産が進んでいた。
レスター銃は地球のドライゼ銃レベルの性能であるが、欠点である破損し易さ改良した銃で、M24ボルトアクション式狙撃銃の発想も入っており高性能な銃である。
1丁辺り4000エル(現代物価価値で約24万円)とレタール銃より安くトースタ銃とほぼ同一の価格帯の為、アルファス連邦国軍で配備が進んでいる。
「中古だとしてもレタール銃など他国に売れば1丁4000エルで売れる、それを5000丁も援助物資としてくれるとは。」
「噂によればアルファス連邦軍末端に至るまで全員に新型銃が配備されるようです。」
「はぁ、」
銃は高価過ぎて全ての兵士に配備するものではないのがこの世界、この時代の常識である。
日本でもあの有名な長篠の戦いでも15000の陣を張った織田•徳川連合軍に3万もの兵で挑んだ武田軍だっだが、あの戦いで実際に使用された銃は全兵士の5分の1ほどである3000丁であった。
長篠の戦いでは有名な3段構えの戦法があるが、つまり同時に戦闘に投入していたのは3分の一である1000丁のみである。
「アルファス連邦が我々を支持してくれたという事は精霊が我々を支持してくれたと同意義だ!絶対に勝つぞ!」
「「「はい!」」」
彼等は精霊の加護を受けているアルファス連邦の援軍をに感謝し、戦力を整えていった。
ルシタニア連邦が知らせを聞き狂喜乱舞している頃スフィア城の執務室ではレイルズが立っていた。
そして宙に浮いた女性、シルフィが居たが、その顔は明らかに不機嫌であった。
『私を呼びつけるのはどういう事?』
「申し訳ありません。ただ、どうしてもお聞きしたい事がありまして。」
『 • • • • • 分かったわ。それで、何の事?』
深刻そうなレイルズを見て、とりあえず不機嫌では無くなった。
しかし改めてなんだろうと、シルフィには呼びつける理由がわからなかった。
「不確かな情報なので間違ってたら申し訳ありませんが、大精霊と契約を交わすと寿命が減るとは本当なんでしょうか?」
『よく知ってるわね。本当の事よ。』
レイルズは違っていて欲しいと思いながらも意を決して聞いた。
しかしシルフィは即答でその考えを肯定した。
「!?じ、じゃあ、レインも。」
『ええ、そうね。普通ならあと10年持てば良い方かしら。』
「そ、そんな。」
自分の子供があと10年でこの世から居なくなる、親なら誰もが悲しむ事であった。
そしてそれはレイルズも同じであった。
『はぁ、言ったはずよ。普通なら、と。』
「え?ど、どういう。」
レイルズは一瞬、シルフィの言った意味がわからなかった。
『私達大精霊でも、属性によって変わるわ。人とあまり関わりの無い光や闇なら殆ど変わらないでしょうね。逆に関わる事の多い水や木や、風なんかは相当早いわ。だから私達大精霊は人と契約はしなかったのよ。』
「では、アルシアも。」
大精霊と契約して寿命が縮まるなら妻のアルシアもその可能性があると思った。
妻のアルシア•アルファスは土の高位精霊と契約しており、更にルクレール王国の宮廷精霊術師である祖母も高位精霊と契約していた。
『いいえ、これが当てはまるのは大精霊だけ、高位精霊は関係ないわ。』
「そうですか、」
『レインも関係無いわ。』
妻などは問題無いが息子はあと10年も経たずに死ぬ、その事が頭から離れなかったが、シルフィからそれを打ち消すような言葉が聞こえた。
「え?そ、それはどういう事ですか?」
『普通の人間は私大精霊との契約には身体が耐えきれないの。だから10年ほどで身体が崩壊してしまうわ。だが、レインは違う。彼には精霊視スキルがあるわ。』
「た、確かにレインには精霊視スキルがありますが。」
5歳の頃エリフィス教の教会に行って見たレインのステータス。
普通ならあり得ないような数値が並ぶ中、スキル欄に精霊視スキルが記載されていた事を思い出した。
『あのスキルはだいぶ昔に女神様が作ったスキルよ。そのスキルは可視化していない精霊を見えるだけがスキルの能力では無いの。1番の能力は精霊と同調できる事なの。』
「同調?」
『ええ、簡単に言うと身体の容量を私達でも耐えられるほどに広げる事が出来る能力よ。この能力は私達精霊とスキル保持者、そして神だけが使える能力よ。』
精霊は神の使徒、そんな上位存在とレインが一部とはいえ同じ事が親として非常に嬉しかった。
さっきまで落ち込んでいたが、今はルシタニア連邦の人達と同じように狂喜乱舞していた。
「そ、そんな能力が。」
『ええ、だから例え精霊王だとしてもレインは契約が出来るそれだけ彼は私達精霊との親和性が極めて高いの。』
「そうですか、良かった。」
自分の息子が精霊との親和性が極めて高い、その事が大精霊の口から聞けた事がレイルズとしては嬉しかった。
レイルズは精霊に小さい頃からあこがれており、大精霊と契約する事が夢であった、しかしまさか息子が大精霊と契約するとは思ってもいなかった。
『ふふふ、安心して。私達精霊は耐えられない人間と契約する事はあり得ないから。貴方、仕事残ってるんでしょ?』
「ま、まぁそうですが。」
『じゃあ、頑張ってね。』
私は邪魔よね、とヒラヒラと手を振りながらシルフィ、風の大精霊はサァッと消えていった。
「はぁ、精霊王様か、レインなら契約しても不思議では無いな。」
普通ならあり得ないと一喝される事だが、不可能と言われてきた大精霊の更に厳しいと言われていた風属性の大精霊と契約した息子なら可能かもと思えてきた。
その顔にさっきまでの悲観に暮れた表情はかけらも無かった。




