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第33話 周りの国々

 


 ルクレール王国から北に位置するルシタニア連邦は交易により発展してきた大陸有数の豊かな国家である。

 国民の殆どが商人であるルシタニア連邦は計算に強い人が多く、この国の学校では数学や商学の授業が他の学校と比べて多かった。

 ルシタニア連邦は連邦制を採用しており、国のトップは大統領であるが世襲制であり、他の国と比べて力は弱い。

 国教はエリフィス教であり、教会に多額の寄付をしているが、しかしそんなルシタニア連邦にも欠点があった。

 そもそもルシタニア連邦シールスト国からの圧政に反発して独立した結果できた国家であり隣国のシールスト国との関係は非常に悪く過去に何度か戦争も行なっているが全てルシタニア連邦が見事勝利している。

 国の規模は半分程度だが、そもそもシールスト国が腐敗しているというのもあるがルシタニア連邦はルクレール王国とその間にあるフラント王国と非常に有効的な関係であり何度も援軍があり乗り切っているのである。

 しかしそれに対抗してシールスト国はルシタニア連邦に薬の原料である薬草の輸出を禁止しており、ルシタニア連邦は他の国に輸出された薬草を更に高い金で買わざるを得なかった。

 しかし最近の薬草価格高騰によりそれにも限界が来ていたのである、そんな中のアルファス連邦での効果の高い薬草の栽培成功の報せだ、ルシタニア連邦上層部は狂喜乱舞した。

 そしてそんな中、ルシタニア連邦大統領府では大統領であるサラ•ルシタニアが興奮しながら宰相の報告を聞いていた。


「ほんとにアルファスが薬草の栽培に成功したのね!?」


「はい、先程外務省にアルファス連邦に派遣している大使から緊急で連絡がありました。更に嬉しい事にアルファス連邦で栽培に成功した薬草はシールスト国やドストル王国の薬草より効果が高いそうです。」


「素晴らしいわ!それで、価格は?」


 今までの国1番の問題が解決した為、非常に興奮していた。

 彼女はルシタニア王家の長女であったが兄と弟がおり、自分が大統領になる事はあり得ないと思っていた。

 しかし次男がルフト王国と王女と結婚した為、ルフト王国の王様となったのである。

 さらに、長男が流行病により亡くなった為、継承権が1位となったのである。


「まだ、栽培に成功しただけで量産体制が整うのは来年ですので明確ではないとの前置きですが、」


「構わないわ。」


「値上げ前のシールスト国の約3分の2の価格だそうです。」


「つまり100g幾ら?」


「現在のシールスト国の薬草価格は100gあたり3000エルで、値上げ前だと100gあたり600エルとなりますのでその3分の2となりますと100gあたり400エルになります。」


 今の薬草の価格はシールスト国産は3000エルで日本円だと3万円になり、更にそれが薬になる頃には5000エルにまで値段が上がる。

 王族や貴族なら出せない事も無いが200エル(2000円)で3人が1日過ごせる物価水準からすると一月分に届く為、安易に手が出せる物ではない。

 更に直接購入出来ないルシタニア連邦は他国から手に入れるしかなく、多数の手を介して渡った薬は時には1万エルになる事も珍しくない。


「すぐさま、全権大使を派遣して来年度の薬草を購入してきて!」


「落ち着いてください。お言葉ですが、まだ生産体制も整っていませんので交渉は来年度と言われました。」


「そ、それもそうね。悪かったわ。資金提供は、」


 ルシタニア連邦は大陸有数の貿易都市の抱えており、資金はその辺の中小国の比ではない。

 しかし国は裕福でも一々平民が購入する薬に国が良さそうを出す事はなく、薬を手に入れる為隣国のフラント王国に行く事もしばしばである。


「必要無いと。」


「運送商会は、」


「各国家に一任すると。」


「とりあえず来年までは入ってきませんので。それよりもシールスト国がこのまま黙っているとは思えません。ルクレール王国やフラント王国とも警戒を一層強化する事で一致しました。特に我が国に駐留しているルクレール王国軍は7000から1万に一時増員する事を先程ルクレール王国大使より伝えられました、来月には整うかと。」


 ルシタニア連邦には35年前の最後のシールスト国の侵攻の後からルクレール王国軍がルシタニア連邦に駐留している。

 当初は4000名だったが段々と増強し、現在では7000名にまで増強されている、フラント王国にも駐留しているが1500名程度でありルシタニア連邦には遠く及ばない。


「国境付近はどのような様子?」


「今のところは静かです。ただ物資の徴収が始まっています。しかしその矛先は大森林か我が国かはまだ分かりません。」


「とりあえず、ルクレール王国とフラント王国が対応しているのに当事者の我が国が何もしない訳にはいかないわ。徴収はまだ構わないわ、ただ物資の備蓄を強化して警戒体制を一段階あげなさい!」


 ルシタニア連邦での徴収は商会が有事の為に物資を蓄えている為、非常に効率が良い。

 商会も安全を保障されているルシタニア連邦に物資の提供で済むなら喜んで差し出す、商人とはそういう者なのである。


「かしこまりました。あと、一つ伝えておく事が。」


「なに?」


「レイルズ様より他言無用との事で一つ、」


「レイルズから?何かしら。」


 サラとレイルズは個人的に非常に仲が良い。

 急にルシタニア連邦の大統領になる事になったサラに色々と助言などをしてくれたのはアルファス伯爵領領主のレイルズであった。

 その為、サラはルシタニア連邦始まって以来の優秀な大統領と称賛されている。


「私も真偽の程は不明ですが、今回の薬草、テルン草の栽培には木の大精霊が関わっているそうです。」


「冗談よね。」


「分かりかねます。」


 顔を青ざめてギギギっと、ロボットみたいに振り向く彼女を見て、宰相は共感していた。

 本来なら人間の営みに精霊が介入する事は有り得ず、精霊に対して危害が加えられた時だけだと考えていた。

 彼女が熱心なエリフィス教徒だというのも一つの理由であろう。


「はぁ、分かったわ。他言無用ね、はいはい。じゃあ貴方は今の話を忘れて軍に伝えてきて。」


「はい、かしこまりました。」


 そう言い執務室から出ていく宰相を見ながら、これから荒れるであろう世界を心配するルシタニア連邦大統領サラ•ルシタニアであった。




 ルシタニア連邦で良いニュースを聞いて狂喜乱舞していた頃、ルシタニア連邦と表立って対立しているシールスト国王宮では国王であるノムルスク•シールストが密偵からもたらされた情報に怒り狂っていた。


「いったいどうなっているんだ!」


「お、落ち着いてください。国王陛下。」


「これが落ち着いていられるか!あの忌々しいアルファスめ。我が国の財政が逼迫するかもしれんのだぞ!」


「で、ですが流石のアルファスもエリフィス教諸国全てに供給するのは不可能です。悪化する事はあっても、逼迫する事は無いかと。」


 ドストル王国はルフ教国家の為、エリフィス教諸国には薬草は絶対に売ってくれない。

 その為、エリフィス教諸国は中立国であるシールスト国から購入するしか無いのだが、現在需要に供給が追いついていないのである。

 その為、シールスト国幹部はアルファス連邦から薬草が供給され始めてもシールスト国が受ける影響は限定的だと考えているのである。


「お前は何を言っているんだ?あの裏切り者のルシタニアが力をつけるのだぞ?それが分からんのか!」


「し、しかし。既に動員は8割方完了しておりあと数ヶ月で侵攻が可能となります。今回は10万というこれまでで最大限の戦力を集めました。」


 シールスト国は人口460万とアルファスより少し多い人口ながら14万の兵力を有している軍事国家である。

 ルシタニア連邦が人口340万で7万、フラント王国が人口290万で5万と考えるとシールスト国の軍事への力の入れようが分かるだろう。

 ちなみにルクレール王国は人口1600万で30万だったがアルファス領が独立した事により人口は1200万に減り、兵力も25万へと削減された。

 当然、普通の国では無理であり、薬草というこの大陸で2ヶ国しか栽培出来てない物のお陰である。


「そうか、あの忌々しいルクレール王国が援軍を出すのでは無いのか?」


「増強されたと言ってもルシタニアとフラントに駐留しているのは合わせて1万1500名で、問題有りません。今回は全軍を持ってルシタニアを占領します。今回はフラントには手を出しません。」


「そうか、なら良い。ところであの妖精の森に対する作戦はどうなっている?」


 ルシタニアはもともとシールスト国の一部だったのだが、独立し国家となったのである。

 そしてそのルシタニアを同じ民族であるフラント王国が支援、そして元々フラント王国もルクレール王国から平和的に独立した為、友好的だったルクレール王国もルシタニアを支援したのである。

 シールスト国の計画はまず全力を持ってルシタニアを攻略し併合、その後は力を溜めたあとフラント王国に侵攻し併合しルクレール王国と対立する事である。

 それだけシールスト国はルクレール王国を恐れているのである。


「対処済みです。しかし、今回の作戦は我が国の総力を挙げて行う作戦です。失敗したら国が大きく傾く事は間違いないでしょう。」


「ふん、10万の軍を動員してルシタニアを攻略できない方がどうかしている。ただ帝国への警戒は怠るなよ。」


 帝国は大河を挟んで対岸にあるが、シールスト国と仲が良い訳ではなくエリフィス教諸国に薬草を売るシールスト国を邪魔だと思っている。

 その為、戦争するにしても帝国に対応する兵力は残しておかなくてはならないのである。


「はい、万全の状態で対応にあたります。」


「期待している。」


 そう言いながら置いてあるグラスにシールスト産のワインを注ぎ、窓から見える自国を見ながら一口含んだ。

 のちの歴史書にシールスト国滅亡の原因とされる戦争はこうして始まろうとしていた。



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