第32話 木の大精霊
『初めましてレイン、私は木の大精霊のティリアと言います。よろしくお願いしますね。』
そう挨拶してきたのは木の大精霊であるティリアである。
ティリアはシルフィと同じく17歳か18歳頃の少女みたいな見た目であり、特徴的なライトグリーンの髪と瞳をしていた。
服は白いワンピースであり、髪の色は一発で木の精霊だと分かった。
「シルフィの契約者のレイン•アルファスです、こちらこそよろしくお願い致します。」
「わ、わ、私はこの栽培棟の所長兼開発総責任者のリヒト•ミスティアです。大精霊様、よろしくお願い致します!」
そう言い挨拶したミスティアはもう土下座しそうなくらい頭を下げていた。
『ふふふ、そんなに畏まらなくても良いのよ。』
そんなミスティアを見てティリアは笑いながらそう言うが、そこでシルフィからの一言が入った。
『あら、でもさっきから貴方の眷属は放心状態よ?』
ここの職員のほとんどは木の精霊と契約している精霊術師なのだが、自分達の主が現れ精霊達は萎縮しまくっていたのである。
シルフィは威圧していなかったからそこまで怯えていなかったが、ティリアは威圧して来た為、萎縮したのだ。
はっ!と気づいたティリアは威圧を止めると精霊達も元に戻った。
『ま、まぁ、人間界に降りるのは久し振りだからね。早速、薬草の所ヘ案内してくれる?』
「は、はい!こちらです。」
『ここは良い空気ね、聖域と同じく植物が活き活きとしているわ!』
「はい、大精霊様にそう言ってもらえて、私達も嬉しい限りです!」
木の大精霊にそう言われて嬉しいのか何名かの職員が俺達の苦労が報われた、みたいな感じて目をウルウルさせていた。
え?栽培棟ってそんなに大変なの?
「えっと、こちらがその薬草になります。色々と試してはみているのですが中々上手くいかず。」
そう言われて案内された所にはテルン草と書かれた木札が刺さっており、ここに植えられている事を表していた。
しかしその場所には土があるだけで芽は一つも出ていなかった。
「あぁ、この植物だったの。これは大変と言いたい所だけどここなら問題無いわ。」
テルン草の種を見ただけで解決方法が分かるのは流石木の大精霊である。
「え?ど、どうすれば?」
『種の時に魔力を流すのよ。この植物は魔力を取り込んで成長するわ。ただ聖域は魔力が濃いから問題ないけど、ここは薄いから発芽に失敗するのよ。』
この世界では何処にでも魔力はあり、大気中の魔力を取り込んで発芽する植物も数多く存在する。
その為、魔力を取り込む植物は珍しく無いのだが。
「な、なるほど。しかし前に一回、私達が魔力を流しても失敗しましたが。」
『通常の魔力は無理よ。この植物は植物属性の精霊の魔力を流すの。ここなら問題無いでしょうね。』
属性魔法で発芽するの植物は非常に珍しく、今まで数種類しか発見されていない。
「な、なるほど。ミル、ちょっとこの種に木属性の魔力流してみてくれない?」
ティリアの言葉を聞きミスティアは自分と契約している木の中位精霊に頼んだ。
ミルと呼ばれた精霊は嬉しそうにミスティアの肩から飛び降りるとテルン草の種が埋まっている場所に手をかざし薄緑色の魔力を流し始めた。
『りょうかい〜、ほいな。』
「うおっ!発芽した!」
案外直ぐに結果が現れたからビックリした。
木属性の魔力が流れたテルン草の種はピョコっと芽を出し少し成長して止まった。
『ふふふ、ほらね。あとは水と養分を与えていたら問題無いわ。薬草にするなら発芽してから20日後くらいが丁度いいわ。』
「なるほど、ありがとうございます大精霊様。」
そうお礼を言うミスティアの後ろでは他の研究員達が揃ってお辞儀をしていた。
『どう致しまして、じゃあ用が済んだから私は帰るわね。シルフィ、約束よろしくね。』
『分かったから、早く帰りなさい。』
面倒くさそうにシルフィが相手にするがティリアは気に留めずにヒュッと転移魔法を使い消えた。
「あ、ありがとうございました、大精霊様!」
「帰っちゃった。」
『ティリアが来たら案外サクッと解決しちゃったわね。』
確かに、種を見ただけで解決方法が出てくるなんてやっぱり大精霊は凄いと思う。
そして、そう言うシルフィに少し気になった事を聞いてみた。
「確かに、所でシルフィ、ティリアが言っていた約束ってなんなの。」
『あぁ、それはお菓子をあげるって言って連れてきたから後であげるの。』
「お菓子で釣って来たんだ。」
精霊ってお菓子で釣れるんだ、確かにシルフィも僕のお菓子をたまに、美味しそうに食べるけど、そんなにお菓子好きだったんだ。
まぁ、精霊祭で毎年精霊界に献上する御礼品の中身がお菓子ばっかというのはお父さんから聞いたけどまさかそれ程とは。
『釣ったって失礼ね、交渉よ、高度な交渉術の賜物よ。』
「はいはい、で、そのお菓子は誰が出すの?」
『それは当然貴方よ!あの子はドライフルーツが良いって言ってたわ。開発者に頼むのは当然の事よ!』
ちょっ!シルフィ、それ秘密なんですけど。
ドライフルーツの開発者が僕って言ったら騒ぎになるから秘密なんですけど、ほらぁミスティア所長が目を煌めかせながらこっち見ているよ〜。
「え!?ど、ドライフルーツってレイン王子様が開発なさったんですか!」
「いや、王子様って、王子じゃ無いし。」
「いえいえ、独立する事が決定したのですから、レイン様は王子になります!」
確かに独立するけど、来年だし、まだ領主家の次男だし5人兄妹の末っ子だし。
「いや、僕より先にシリウス兄様がなるでしょ。」
「いえ、シリウス様は皇太子となります。」
『レイン、諦めなさい。』
シルフィの慈悲のない一言で落ち込んだ。
とりあえず口止めはしておかないと。
「はぁ、とりあえず僕が開発者って事は秘密で。」
「はい!栽培棟の恩人の秘密は是が非でも守らさせて頂きます。」
「よ、よろしく。」
ほんと、この人グイグイくるな。
ある意味リヒト州の知事にピッタリじゃないのか
「そうか、やっとテルン草の栽培に成功したか。」
日も暮れて一日も終わろうとしている頃、執務室ではアルファス家当主レイルズが補佐のカインからテルン草の栽培計画に関する報告書を受け取り興奮していた。
「はい、これでようやく栽培に目処がたちました。半年後には生産が開始でき、来年には輸出が可能かと。」
「そうか、各国には伝えたか?」
「はい、友好国にはもう既に。各大使も興奮なさっており、我が国を賞賛していました。これで薬草問題はひと段落かと。」
アルファス領は今はまだルクレール王国の領地だが、来年に独立する事が決まっており、それまでの友好国は支持を表明、暫定的だが大使も既に送ってきた国家もあった。
この世界では国家間で会話ができる通信装置は数が少ないながらもあり、少なくとも各友好国に派遣している大使に渡す分は用意出来た。
基本的にこの世界では関係が悪くなると国の大使を殺す事もザラであり、大使は友好国にしか派遣しない。
その為、ルフ教国家群とエリフィス教国家群との間で大使を派遣している国は中立国のみである。
「そうか、しかしまさか木の大精霊を呼んでくるとは、驚きだよ。」
「はい、非常に優秀です。」
「お前はどう思う、レインについて。」
息子の事になると興奮する主人を見ながら真剣な顔で答える、優秀と言われる彼から見てもレインは間違いなく天才であった。
「そうですね、一言で言えば非常に優秀です。我々が悩んでいた問題をその日のうちに解決してしまいましたから。最初レイン様に書類を渡した時、あの方は直ぐに書類の内容を理解なさっていました。リフェルティア学園の入学試験で満点を取るのも納得です。」
「そうか、」
「幸いにも兄妹仲は非常に良いようで。」
王族や貴族の兄妹仲というのはかなり悪い。
自分の行動、兄妹の行動次第で次の当主が決まるのである、最悪の場合兄が弟に殺されるという事も貴族ではザラだ。
ルクレール王国やエリフィス教国家群ではそんなには無いが、貴族とそれ以外との差が顕著に表れているルフ教国家群では暗殺や妨害などは日常茶飯事であり、そんな中、息子娘達の仲が非常に良いのは嬉しい事であった。
「レインは既に不可能とまで言われていた風属性の大精霊と契約している。それにあの軍の分割案には非常に驚かされた。」
「軍を治安維持部隊と分けるという話ですね。確かにこの案は盲点でした。軍からの反応も良いようで、実行するのに特に障害はないと思います。」
レインはルクレール王国軍の撤退により増強されるアルファス王国軍の分割案を提出していた。
この時代の軍は侵攻や国防だけでは無く、治安維持の役目も担っており警察はまだ無い。
しかしレインはそれでは非効率的だとして軍から一部人員を分割して治安維持部隊である警察を創設する事をアルファス領地軍の将軍や幹部に提言した。
軍の人間も国防に専念出来るならそれに越した事は無く、兵力は減るが軍事訓練の時間が作れるのでその方が効率的だと考えていた。
また軍の中にも治安維持を担いたいという人は少なからず居てレインの案に前向きな姿勢を見せていた。
軍の担当者はその方が兵器開発や人材育成に予算を割けると賛成しており、分割される事が決定し、他国でも現在検討中の国家がいくつかある。
「レインのステータスには女神エリフィス様の加護が記載されていた、ずっと手元に置いておきたいが、それも無理だろうな。」
「ただ、一つ言える事はレイン様は非常に優秀です。もしシリウス様との派閥対立になっても彼は自分の意思で行動するでしょう。今後ルフ教国家群との関係は間違いなく悪化します。その時、レイン様がいてくださればそれだけで抑止力となり得ます。更に王族となった事で振り回されるという事もなくなりました。彼ならはきっとアルファスを良くしてくださるでしょう。」
「そうだな。よし、とりあえず仕事を終わらすぞ。」
カインの言葉で少し安心出来たレイルズは、残っている仕事を片付けるべくペンを握った。
「はい、かしこまりました。」




