第31話 薬草栽培
「帰って来たばかりで悪いのだがな、お前に仕事を頼みたい。」
「仕事ですか?」
昨日は久々の休日となり、シリウスお兄様がお父さんの代わりとして仕事をこなし、その翌日僕はお父さんに呼ばれ執務室に居た。
「あぁ、正直こんな事はお前達に頼みたくなかったのだがな、最近忙しすぎてな、ははは。」
「はいはい、それで仕事とは?」
「カイル、例の書類を。」
「はい、こちらが資料になります。」
「ありがとう。」
そう言ってカイルから数枚に束ねられた書類を渡された。
カイルはお父さんの補佐をしており独立時には宰相となる事が決まっていた。
まだ30代とお父さんより若いが非常に優秀であり大陸有数の難関校であるリフェルティア学園に首席で入学し、卒業した非常に優秀な人材である。
しかし魔法が苦手であり、文官になろうかとしていた所をお父さんに採用された。
そしてお礼を言って、ざっと資料に目を通す。
「これは、薬草に関する書類ですね。」
「あぁ、今この大陸で薬草はなドストル王国とシールスト国の2ヶ国がほぼ全てを占めているのだがな、ドストル王国はルフ教国家で貿易相手にならん。それで今まで中立のシールスト国から薬草を買っていたんだが、」
「そのシールスト国が最近値段を釣り上げているのです。薬草が採れなくなったと説明していますが、特に天災もなく。最初は見過ごせる程度でありましたが、徐々に見過ごせる金額ではなくなってきてしまい、今では金額は2年前の5倍ほどになっています。」
「5倍、」
薬草が2年で5倍、比較的豊かなアルファス領なら問題無いが、他の国々ではそうはいかないだろう。
しかもそれが医薬品の材料となる薬草となると絶対に必要な品なので余計にタチが悪い。
資料によると数年前にシールスト王国で国王が交代し、それから薬草の値段が上がっていた。
治癒魔法があると言っても病気などは薬がないと治らず、その材料となる薬草は非常に重要であった。
そして幸運な事に、そのシールスト国やドストル王国に生えている薬草より優れた薬草が見つかったらしい、しかし中々栽培に成功していないみたいだ。
「その為、薬草が徐々に手に入り難くなっており、優れた薬草が去年発見されて栽培研究しているのですが、中々成果が出ず。」
「それで、大精霊と契約したお前に薬草の栽培の研究をしてもらいたい。精霊は自然そのものだからな。薬草の栽培が軌道に乗れば他国への輸出なども可能になり他国との信頼関係の構築にもつながるだろう。」
元々アルファス領は裕福な領地であり、領民の生活も大陸の中では比較的上位のルクレール王国の中でも特に高かった。
貿易によって栄えており、更に最近は僕が考えたドライフルーツなどの長期保存が可能な名産ができ、アルファス産のドライフルーツは他国に比べても色形味が良く貴族達がこぞって欲しがる
高級品として高値で取引されていた。
アルファス領で100エル(日本円で約1000円)で売られている物が他国に輸出され貴族の手に届く頃には600〜800エル(7000〜8000円)にまでなっているのである。
親しい人に贈り物をするにはアルファス産のドライフルーツと既に貴族の間では定番になっており、重要な名産となっていた。
「なるほど、しかし何故シールスト国は薬草の値上げを?位置的にはルフ教国家群とエリフィス教国家群との丁度中間地点、戦争時反感を買うだけでは?」
「最初は何か理由があると考えていたんだがな、この前密偵からの報告でやっと理由が分かったんだ。値段を釣り上げているのは国王の叔父にあたる人物で彼は商人らしい。」
最初はなんらかの戦略や、もしくわルフ教国家群に取り込まれたのかと思っていたが値段を釣り上げているのが商人なら話は単純、儲ける為だ。
しかし国の益にはならない、当初は利益が出るかもしれないが、もしもの時高い金で買わされた国家は助けてくれない。
「なるほど、そうですか。それでは救いようがありませんね。分かりました、では栽培棟に行ってきます。」
「あぁ、頼んだよ。シルフィ様もお願いします。」
父は僕の後ろで暇そうに浮いていたシルフィにも頭を下げて頼んだ。
シルフィもシールスト国に関しては興味がないらしくどうでも良いと思っていた。
『分かったわ。まぁ、何かあったらティリアに頼んだらいいしね。』
「ティリア?」
『木の大精霊よ。植物に詳しいの。』
「へぇ〜。」
そう言い、僕はシルフィと共に栽培棟に行く為執務室を出て向かった。
そして残された2人は無言のまましばらく時が流れた、そして最初に口を開いたのは補佐のカイルであった。
「あの、なんか今すごい事聞いたような。」
「言うな。とりあえず今の話は聞かなかった事にしよう。他言無用だぞ。」
「分かっております。」
軽く息子は頼んだはずなのに、まさか大精霊が2体も関わるのは考えてもみなかった。
そして何事もなかったかのように、2人は残された仕事に取り組み始めた。
そしてお父さんに言われるがまま、その足で執務室から栽培棟へと向かって歩いていく。
歩いている途中、執事やメイドさんとすれ違うが、皆忙しいのか一礼した後直ぐにどっかに行ってしまう。
そもそも1年で独立って期間短すぎるんだよな。
地球だと、少なくとも3年とか5年あるのに1年ないんだからな、そりゃあ忙しいんだろうな。
「はぁ、薬草を利益の為に値上げするなんてほんとたちの悪い国だね。」
『レインが命令してくれたらシールストを潰してきてあげるけど、どうする?』
「結構です。しかし良くそんな優秀な薬草が今まで見つからなかったね。」
薬の原料となる薬草はこれまで探している事は分かってたが、何故今まで見つからなかったんだろう。
他の領地なら険しい場所にあるとか理由があるけど、アルファス領で入れない理由としたら。
『聖域の一部の地域に生えている特殊な薬草だったみたいだね。去年許可を取って入った植物学者が偶然見つけたみたいよ。』
「なるほど、納得だね。ってかあれか、栽培棟。」
『去年完成した温室みたいよ。かなり広いわね。』
そこに見えてきたのは日本の植物園と比べても遜色ないくらいの立派な温室であった。
去年完成したと言っていたが、元々温室はあったが、手狭となり大きい栽培専用の棟を建設したのだ、これも予算に余裕があるアルファス領ならではだろう。
そうして栽培棟の入り口に着き、扉を開けた。
「失礼します。」
「あ、貴方がレイン様ですね。ようこそいらっしゃいました栽培棟へ!風の大精霊様もようこそ。レイルズ様から話は聞いています。ここには信用出来る者しか置いていませんので安心した下さい!」
『あら、貴方木の中位精霊と契約しているのね、』
やっぱりか、さっきからずっとこの人達の周りを色取り取りの光の球が飛んでいるんだよなぁ。
まぁ、そりゃあ栽培棟で自然を育てているんだから自然そのものである精霊がいた方が何かと良いだろう。
「シルフィ様、その通りです。あ、申し遅れました私は栽培棟の所長をしていますリヒト•ミスティアと言います、よろしくお願い致します。」
「よ、よろしく。あれ?リヒトって確か。」
「はい、アルファス領ヒリト州を治めさせて頂いていますリヒト家の長女です。ところで何かいい策が?」
アルファス領は46万㎢と日本より広い為、何人かの貴族に領地を区切って任せていたのである。
大きく8つに分かれており、主島の北アルファスに5区分、副島の南アルファスを3区分に区切って分けていた、それにアルファス家が直接治めている皇領と精霊に謙譲した自然保護区となる。
他の伯爵などはそんな事しないようであるが、アルファス領は他の領地に比べとても広い為、こうして連邦制みたいな体制をとっていたのである。
そしてリヒト家はルクレール王国ではなくアルファス伯爵家に仕える貴族であり、その権威はアルファス領内でしか使えない。
そしてリヒト領は西アルファス島にあり、漁業が主要産業である地域だ。
「えっと、いや。僕は植物の事はそこまで詳しく無いからシルフィに頼んで木の大精霊のティリアを呼んでもらおうかなぁ、と。」
すると、集まってきていたここの研究員と思われる人達がザワザワと騒ぎ始めた。
所長のミスティアもえ?といった感じて固まっている。
「あ、あの。それはレイルズ様も知ってらっしゃるのですか?」
「一応話たから大丈夫。」
『レイン、あれは話した、じゃなくて聞こえたの間違いよ。まぁ、知っている事は違い無いけどね、じゃあちょっとティリア呼んでくるから待っててね。』
そう言いシルフィは光の粒子となって消えていった。
おそらく精霊界に木の大精霊であるティリアを呼びにいったのだろう。
「こ、これは転移。流石大精霊様です。まさか直に見れる日が来るとは。」
「あ、あの。シルフィ様は何処へ?」
「ん?多分ティリアを呼びに精霊界にいったんじゃ無いの?」
「せ、精霊界ですか。流石レイン様です。」
そして、僕達はティリアが来るのを待つ為に何故か栽培棟にあるテラスでゆっくりとお茶を飲んで待っていた。
ちなみにこのお茶はレイムティーという地球で言うルイボスティーみたいなお茶である。
そしてのんびりとお茶を飲み気長に待っている間に研究員達から薬草について色々と聞き出した。
薬草の名前はテルン草と言い、中々栽培に成功しないかなりデリケートな薬草らしい。
薬にはテルン草を乾燥させて作るらしいのだが、乾燥はドライフルーツを作る棟と同じ所で人工的に乾燥させているようである。
そうこう話している内にシルフィが木の大精霊であるティリアを呼んできたみたいでその場所に向かう。
大精霊はシルフィしか見た事がない為、他の属性の大精霊に会うのにちょっとワクワクしながら向かった。




