第27話 夏休みの宿題
「ねぇ?ここはどうすればいいの。」
「あぁ、ここはこうすれば出来るよ。」
「あぁ、ほんと。ありがとう。」
エルナが分からない所を聞いてきたので、簡単に説明すると分かったのかまた宿題に向かい出した。
その後もカリカリと筆記具を紙に書き込む音が寮の一階にある団欒室に響いていた。
「なぁ、なんで俺達こんなに勉強してるんだ?」
「え?夏休みの宿題をこの3日間で終わらせようと言ったの貴方よ?ちなみにレインはもう終わっているわ。」
そう、何故こんな事をしているかと言うと、カノンが「俺いつも夏休みの宿題溜めるからサッサとやってしまわない?」と言い出したからである。
ちなみに今は7月、夏休みが始まって今日で3日目、俺は昨日全ての宿題を終え、団欒室にある本を読みながら皆んなが頑張るのを見ている。
「頑張ってね皆んな。」
「クソッ!レイン。お前、早く終わったんなら俺の手伝ってくれよ。」
「ダメですよ、レイン君、カノン君の宿題はカノン君がやる物です。最初私は宿題終わってから遊ぼう、と言っていたカノン君を見直したんですがねぇ〜」
げ!いつの間に、この部屋には俺とエルナ、カノンとラーラのいつものメンバーしかいないはずだったのに。
ルミエス先生は歴史学の先生兼Sクラスの寮官でもある、いても不思議では無いが。
「げ!ルミエス先生。と、当然ですよ。自分の宿題は自分でやるのは当然ですよ、ははは。」
「そうですか、ではカノン君用に歴史の特別課題でもプレゼントしましょうかね?」
ニヤっと笑いカノンを見つめるその姿はまるで獲物を見つけた肉食獣のようであった。
ルミエス先生、見た目は美人なんだが、性格がなぁ。
「ひ!勘弁してくださいよ。これじゃあ今日中に終わらないよぉ。」
「じ、じゃあ俺は売店に飲み物でも買いに行こうかな?皆んなは何かいる?」
なんか居づらくなり逃げるように売店に行こうとする。
売店と言っても日本のコンビニみたいなもので広大な敷地がある学園には十数ヶ所の売店がある。
ちなみに食堂は完全に無料だが売店は有料である、まぁ毎月お小遣い貰って無料は無いだろうな。
「あ、じゃあクミの実のジュースで。」
「私も。」
「俺は小腹がすいたからサンドイッチでも買ってくれ〜」
エルナとラーラはクミの実のジュースか、カノンはサンドイッチ、ってお前さっき昼飯食っただろ!
ちなみにクミの実とは地球で言うマンゴーみたいな味がするこの世界ではポピュラーな果物である。
「はいはい、先生は良いですか?」
「あら、悪いわね。9月の第一次総合テストを作らないといけないの。レイムティーを頼むわ。」
ちなみに夏休みは7月の半ばから8月一杯の約1ヶ月半である。
そして夏休みが終わったら直ぐに第1次総合テストが3日間かけて行われる。
こんな寮の談話室でテスト作っても良いものかと思ったけど、まぁ俺達を信用しているからだろうな。
ちなみにレイムティーは地球のルイボスティーみたいなお茶である、あれ地味に高いんだよなぁ。
「カノン、先生のテスト見たらダメよ。」
「見ねえよ!俺はそこまで落ちぶれてないよ。」
「ははは、ごめんごめん。冗談よ。」
いやラーラの目、あれはマジだったぞ。
とはいえカノンも学年No.4だからそこまで馬鹿じゃ無いと思うんだけどなぁ、普通夏休みの宿題3日で終わらないから。
俺からしたら簡単だったけど、まぁ小学生高学年レベルかな?エリートと呼ばれる領主家や国の政務官(地方公務員と国家公務員)の採用試験でさえ日本の中学生レベルだったからなぁ。
「じゃあ、行ってくるわ。」
「ええ、頼んだわ。」
「はぁ、人間って不平等だよな。」
レインが出て行ったのを見計らいカノンがボソッと小言を漏らした。
「どうしたのカノン、藪から棒に。」
「いや、レインって優秀だよなぁと思って。」
「あぁ、それは分かりますね。」
エルナが確かに、と苦笑いしながら同意する。
他のラーラやルミエス先生までコクコクと同意した。
「知力が1300だろ?あり得ないわ!」
「私なんか800ですよ。親から高い高いと呼ばれてたのに。」
ラーラは大商会であるエリストル家の長女である、知力が800なのは非常に高いと言っていいレベルである。
普通は400〜600なのだがエルナは710、カノンは520、レインに至っては1300ある。
「はいはい、皆んなは国立リフェルティア学園の中等部のトップクラスなんですからもっと自信を持って!」
「全然トップクラスの実感がない。」
なんだか自信が失われそうな皆を見てルミエス先生が皆んなを励ます。
「ははは、そう言えばみんな聞いた?アルファス領が独立する話。」
「あぁ、聞いた聞いた。レインって確かアルファス伯爵家の次男なんだよな。その割にはあまり興味ないって言うか。」
アルファス家が独立するという話はルクレール王国から正式に発表され、5日経った今日になるとほぼ全ての人の耳に入っていた。
精霊の加護があるアルファス領、そんな領地が独立するという話は嫌でも人々の話題となった。
「まぁ、次男だしね。でも独立したからとはいえ特に変わる事はないんじゃないんですか?」
「まぁな、変わるとしたら軍事的な事くらいだろ。アルファス家の近衛兵や軍の入隊も受け付けてるらしいが入隊希望者が殺到しているみたいだな。」
アルファス領は独立するに従ってこれまでの近衛兵や軍の規模拡大の為、人員を募集したのだが、予想以上に入隊希望者が殺到し、その対応に追われている。
アルファス領はエリフィス教の聖地でもあり、エリフィス教を目の敵にしているルフ教を国教としている帝国からしてみれば排除しようと考えるのは当然であった。
「あぁ、私のお父さんの商会も本店をアルファス領に移すそうよ。」
「あそこは精霊の加護を受けた土地、仕方がないと言えば仕方がありませんね。」
ラーラのお父さんが経営しているエリストル商会はルクレール王国でも一二を争うほどの大商会である。
元々エリストル商会はアルファス領の精霊の加護がある品物を取引する事で莫大な利益を上げて成長した商会である。
そんな利益の源が独立するなら本店をルクレール王国王都ノトスからアルファス領治領都スフィアに移すのも当然と言えた。
「レインが精霊と契約しているのもそういう理由かな?」
「そう言う理由じゃあ風属性の高位な精霊とは契約出来ないわよ。ただ単にレインの事が気になったのよ。貴方も精霊学IIを受けたら?」
「嫌だよ。精霊学IIを受けたら精霊と契約しないといけないんだろ?エルナがまだ精霊と契約してないからって俺に押し付けるなよ。」
カノンとラーラは精霊学は精霊学Iしか受講しておらず精霊学IIは受講していない、その為精霊学IIでは必要な精霊との契約は自由なのである。
「はぁ、ラーラは光の精霊と契約しているし、卒業後は治癒師かな?」
「家は女神エリフィスを信仰しているからエリフィス教に行く選択肢もある。ルフ教なんかに行ったら災難。」
ルフ教は反精霊を教義としている為、光の精霊と契約しているラーラは間違いなく契約を解除するように要求されるのは間違いなかった。
「ルフ教は精霊を認めていないからなぁ〜うちはエリフィス教だけど上の貴族はルフ教も多いからなぁ、アルファス家の騎士団に行こうかと話していたよ。」
「へぇ〜、じゃあカノンは将来レインの護衛かぁ。」
「レインが風属性の精霊と契約している時点で護衛なんか要らないと思うけど。」
レインが風属性の大精霊と契約している事はここの4人には話だが、ルミエス先生には話していない為、シルフィの事を話すときは風属性の精霊としている。
そもそも大精霊と契約したのはレインが初めてなのでバレたら色々と面倒なのである。
「ただいまぁ!ってみんな何話しているの?なんか僕の名前が聞こえたんだけど。」
「お疲れさん、アルファス領が独立する事のレインの契約精霊で盛り上がってたのよ。」
「あぁ、その話か。あ、飲み物ここに置いとくからね、先生どうぞ。」
そう言い僕はレイムティーとクミの実のジュースを2つ、サンドイッチをテーブルの上に置いた。
ちなみに僕はクミの実が入ったクッキーとミルクティーである、紅茶がこの世界にもあって本当に良かった。
しかも一杯5エルで日本円で300円くらいである、そう考えると特段安くないように思えるが、絶対に茶っ葉が高級な奴だ。
「あら、ありがとう。」
「なぁ、レイン。シルフィなんかより俺の方が護衛として役に立つよな?」
はい?護衛?そんなの知らないよ。
『はぁ!なにいっているの!?貴方がレインの護衛?レインの護衛は私1人で十分よ!貴方が居たら逆に邪魔よ。』
はぁ、勝手に出てこないでよシルフィ。
ってかシルフィって僕の護衛だったんだ、でも契約精霊は契約者を守ろうとするって言っていたから間違いないのか。
でも、面倒な事になってきたなぁ。




